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王太子妃殿下のお茶会

すっかりご機嫌を直し、むしろ上機嫌になった夫にエスコートされ、お茶会会場の庭園まで向かう。

後ろにアサトを引き連れて。


「……なんでついて来るの?」

「先輩が心配だからです。先程の忠告は確かに揶揄い口調でしたが、中身は本当ですよ」


まだアサトに揶揄われたことを根に持ってるルシウス様が、ジト目で見てる。

「その表情だけでも危ういんですから」

「ルシウス様って、本当に王宮だと笑わないのねぇ」

組んでない方の手で頬を突くと、それだけでこちらを向いて満面の笑みに変わった。

「ミュリエル様……私の言ってること聞いてました?」

「聞いてるわよ。普段が無表情だからギャップ萌えになるって言うんでしょ?」

「ぎゃ?……はい、まあそうです」

「でも私といる時のルシウス様にそんなこと言っても無駄よ。離れたらまた表情落とすんだからそれまでは諦めなさい」

離れたら、の言葉に悲しそうな顔になる。

本当、こんなに表情豊かなのにね?


「明後日から旅行ですもの、もう少し頑張ってくださいな」

「うん……」

「私とサリーで、ルシウス様を案内する計画を細部まで練ってますから」

「ふふ、うん、楽しみにしてる」

「サリーが嵌った小屋とか見ます?」

「それは嫌だ!」


残念、今じゃすごくスムーズに開閉する扉と、頭すら出ない幅の開き窓に変わってるのに。


道行く人々の視線を集めつつ、かつそれを無視しながら庭園への道を進むと、前からユーリ様がやってきた。


「お、ルシウス。ミューの送りか」

「ご機嫌よう殿下。殿下は妃殿下の送りですか?」

「そうだ、今さっきな。ぼちぼち集まってるぞ。ミュー……だいぶ腹が大きいな。大丈夫か?」

「セクハラですか?」

「なんでだよ!」

「冗談ですよ。でもここでそんな質問しないでくださいな。心配性の夫が家に帰ろうって言い出します」

「ミュー……」

「帰りませんよ?ほらね」

「すまない……」


気を取り直し、明後日からグリフィスに行ってくるのでお土産を買っておく話をしてすれ違った。


「ミュリエル様……本当に王族の方にも変わらないんですね」


アサトがしみじみと言い出す。

「なに言ってんのよ。学園時代にユーリ様もマリーもいたでしょ?」

「あの頃と今ではさすがに身分の差の見え方が違いますよ。私も学生の頃はそれなりにお話してましたけど、今は業務のことでもまだ口に出来ません」

「ふーん。そんなものなの?」

「そんなものなんだ?」

「先輩まで……」

だってルシウス様は、ヴィンセント様すら殴る方だもの。


会場入口、設営を担う侍女たちが並んでいた。

見たことある子たちがいっぱいいる中、侍女長が一歩前に進み礼をする。


「アイゼンバーグ小公爵夫人。ようこそお越しくださいました」

「本日はお招きありがとうございます。よろしくお願いしますね」


こちらも客としての礼をし、ルシウス様の腕を外そうとすると止められた。

「ルシウス様?」

「侍女長、私の妻は身重です。失礼なのは重々承知ですが、席に着くまで付き添っても良いでしょうか?」

侍女長に異例の申し出をしてた。あらびっくり。

侍女長が少し眉を上げ、確認を取りに行かせる。

「……ルシウス様、王女殿下に見付かりますよ?」

「もういいよ。それより妃殿下方にくれぐれもミューをよろしくとお伝えしたい。あと一応姉上にも」

「心配性ですねぇ」

「平和に事もなくお茶会を終わらせる気はあるの?」

「ないです」

「だからだよ」

呆れた顔のルシウス様にクスクス笑ってると、侍女が戻って来て侍女長に耳打ちした。


「アイゼンバーグ卿、王太子妃殿下の特別なお取りなしにより、アイゼンバーグ小公爵夫人のエスコートをお許しになるそうです」

「ご配慮いたみいります」

「ではご案内して」

先導の侍女に従い、私とルシウス様、サリーで進む。

アサトはさすがに入れない。

帰ればいいのに待ってるそうだ。……サボりか?

「情報収集だよ、たぶん」

「あの場で?」

「上手いよね、彼」

「婚約者と逢引するのかと思いました」

「あの場で?」

「やりかねないかな、と。でも婚約者はこちらに付きましたね。残念ね、シャーリー」


先導する侍女ーーシャーリーに声を掛けると、ビクッ!として恐る恐る振り向いた。


「……ミュー様、顔を崩すなって言われてるんですから〜」

「私は崩せと言ってないわよ」

「崩れますよこんなの!」

「シャーロット嬢、前向いて。止まったら目立つから」

「うう、サリーさんくらい平常心を保ちたい〜」

「「無理」」


人間、向き不向きってものがあるわよね。


シャーリーの目指す先は、会場の中でも一番奥にある円卓だ。

既に二人着席し、傍らに一人の女性が立っている。

主宰の王太子妃殿下だろう。すると席に着いてるのは、一人はマリーで……。

「ミュー。どんなに話し掛けられても、僕は一切反応しないから」

見極めようとしてると、耳元で囁かれる。

反応しない、とはまた極端な。


シャーリーが「アイゼンバーグ小公爵夫人をお連れしました」と告げ、横に避ける。

王太子妃殿下が笑顔でやってきた。


「アイゼンバーグ小公爵夫人、ようこそ。お体は辛くない?」

「王太子妃殿下、お招きありがとうございます。すこぶる元気です」

「それは良かったわ。アイゼンバーグ卿もエスコートご苦労様」

「妻と子どものためですか「ルシウス様!」」


ルシウス様の言葉を遮るように名前が呼ばれた。

マリーの向かいに座っていた女性が、立ち上がって叫んだのだ。



デリル王国第四王女、リリーシア殿下。



噂に違わず……期待を裏切らず。

「……どこかに声の高い小鳥がいるようね。アイゼンバーグ卿、奥様を席までお願いしても?」

王太子妃殿下が温度を下げた笑みで促す。

私はそのままルシウス様とマリーの隣へ向かった。

妃殿下はと言うと、しつこく「ルシウス様!」と呼び挙句こちらまでやって来ようとしてる王女殿下の前に立ち塞がり、低い声で「慎みなさい」と凄んでいた。

青褪めた王女殿下がしおしおと座る。

うん、躾、大事。


「ご機嫌ようマリー」

「ご機嫌ようミュー。ルシウス様もエスコートご苦労様。でもここまで入って来るなんて」

「それだけ直接お伝えしたかったのです。マリアベル様、くれぐれも妻をよろしくお願いします」

「承知しました。しかし信用がないわねぇミュー」

「ルシウス様、わたくしを信じてくださらないの?」

「ミューは僕が『明日から絶対泣かない』って宣言したら信じてくれる?」

「そうよねルシウス様、いくら愛する人の言葉とは言え、信じてはいけないこともありますね」

「そういう事」

「あなたたち、どっちも情けないわ」


マリーの呆れた顔に笑い合った。

席に着く前に、普段はルシウス様をお見送りする時に

玄関ホールでしてる頬のキスを交わし合う。

もちろん牽制が目的だ。

「終わる頃に迎えに来るから、どこかに行かないようにね」

「どこかとは」庭園ですが?

「そうなんだけど、行きそうで怖い」

「心掛けます。お仕事頑張ってくださいね」

「時間までには終わらせるよ」

椅子に座ってから追加で額にキスをすると、ルシウス様はマリーと妃殿下に礼をして帰って行った。


「……少しやり過ぎじゃない?」

扇で口元を隠し、コソッとマリーが言う。

こちらも扇を開き、王女殿下を見ないようにして返した。

「と思うでしょ?意外なことに、アレが普通」

「アレで?……溢れてるわね」

「常に溢れてるわ。なんなら日に日に重くなってるわよ」

「またユーリ様が騒ぐわよ。『ハードルを上げられた!』って」

「ルシウス様の真似をする必要があるの?」

「憧れだからよ」


コソコソ話してると、入口からお義姉様が侍女を連れてやってきた。

お義兄様は……いないか。こんなとこまでついてくるのはルシウス様だけのようだ。

妃殿下と挨拶を交わした後、マリーの反対隣に座る。


「皆様、遅れました」

「お気になさらないでくださいませ、公爵夫人」

「わたくしも今来たところですわ、お義姉様」

「来る途中でルシウスとすれ違ったわ」

「ルシウス様はミューをここまでエスコートされたんです」

「ここってーーこのテーブル?中まで入ってきたの?」

「心配性なんです」

「ミューが何やらかすか心配されてて」

「あぁ、だからさっき『くれぐれもミューをよろしく』って言い聞かせて来たのね」

「お義姉様にも伝えるって言ってましたし」

「……すでに凄い目付きで睨まれてるけど、始めてるの?」

チラリと殿下を見て、お義姉様は楽しそうに笑った。

「いつも通りのルシウス様をお見せしただけですわ」

「泣いてるところ?」

「さすがにそれはちょっと」

「泣きながらエスコートされて来たら、それはそれで幻滅されるかもしれませんが。わたくしとルシウス様とアイゼンバーグ家の評判も共倒れます」

「それは困るわね」


そんなことを話していると、メンバーが揃ったらしく王太子妃殿下が開催の挨拶をする。

私はそこでようやく王女殿下に目を向けた。


ふわふわな金髪、水色の瞳、可愛らしい顔立ち。

淡い紫のドレスは少女めいたデザインだが、殿下の稚げな雰囲気に合っている。

紫って……ルシウス様の瞳の色を意識してるのかしら?

でも彼の瞳はとても濃い色をしているから、パステルカラーの範囲では連想するのが難しいと思うけど。

意識するならこれくらいにしないと。

自然にさりげなく、腕輪に付くパープルサファイアを殿下に見せつける。

数ある紫の宝飾品の中でも、ルシウス様イチオシの「僕の色」だ。

息を飲んだ殿下の反応に満足してると、マリーに『始めるのが早過ぎ』と目で窘められた。

『まだ全然よ?』と返して、ニンマリ笑った。



……さぁ、第四王女殿下。

私の夫を賭けた、『女の戦い』を始めましょう!

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戦いの鐘が鳴る前に、もう勝ってるよ…。でもそれが分からないからこんな所迄来てるのか
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