超スピード政略結婚の理由〜ルシウスの場合〜
ルシウスの結婚事情説明回なのですが、他を盛り過ぎて「大した事情じゃないな……」と感じてしまいます。
第二王子殿下に会いたがるヴィンス殿をなんとか宥めすかし、行き交う人々の注目を集めつつ王太子殿下の部屋へと向かう。
……ヴィンス殿を止めるのに、ハリーと共闘してしまった。
不本意だが、やり切った感を認め合う瞬間だった。
上司から先に連絡を入れておいてもらい、トラキオンからの遣いの者を連れてきた、と言う名目でお会いする。
「おぉ、話には聞いていたが本当にミューにそっくりなんだな!男女の双子と言うのはこうも似るものなのか?まぁさすがに体格は男性だし、目の色が違うとかーー……うん、違うな……不思議な目の色だ……もう少し近付いて来「リニ、殿下を無傷でいさせたければ引き離せ!」」
普段ならあり得ない距離にまで近付きだしたので、慌ててリニに止めさせる。
ヴィンス殿は余裕の顔だ。
「殿下、そちらの趣味に目覚められたのですか?」
「違う!そうじゃない、あまりに綺麗だったから近くで見たくてだな」
「公的な場での距離ではなかったですよ……」
どうにか二人を引き離し、一番距離のある位置に座らせる。
いやホント、魅了とか出来るの?ってくらいヴィンセント様の目つきが怪しかった。
「ヴィンセント様、私にあれだけの距離近付いてきたら、迷うことなく殴りますから。」
「そこは迷ってくれ!少しは!」
「良いでしょうルシウス。私が許可します」
「リニ?!」
念の為釘を刺しておく。
たぶん王太子妃殿下からも許可は出るだろう。
「ヴィンス殿は、なんだか余裕そうでしたね?」
こちらを見てニコニコしているヴィンス殿へ、リニが呼び掛けた。
軽く肩を竦める。
「あれぐらいの距離でギャーギャー言ってたら、俺の生活は回らないんでな。触られなければ許すことにしてる」
身分が下の伯爵令息。リニでさえ侯爵家だ。
オマケにミューと同じ年なのに、不遜な言い方がなぜか咎められない。
リニもヴィンセント様も、特に気にせず話を続けている。
「触られなければ、ですか。ルシウスよりも許容範囲が広いですね」
「なぜ私と比較するんだリニ」
「同類だろ?」
「どこが」
不名誉なことを言われた。
ヴィンス殿は鷹揚に笑った。
「許容範囲が広いと言われればそうかもしれない。だが、一度俺の地雷を踏んだなら二度と容赦はしないぞ?俺に魅入られる輩にとっては、一番の苦痛らしい」
……地雷、とは。
言葉が分からないなりに不穏な気配を察知し、三人して押し黙った。
「それで言うと、先程の殿下はだいぶギリギリだったな。ミューを可愛がってもらってるらしいからまだ救えるが、本気で魅入られたら地獄だぞ?気を付けた方がいい」
笑いながら続けられるが、言葉が出てこない。
なんだ地獄って……。
ゴホン、とヴィンセント様が重めの咳をした。
仕切り直しだ。
「書状を持ってきてくれたらしいな?」
「あぁ、届いたか?」
「持ってきてないのか……」
「アイツが俺に物を持たせる訳がない」
「どうしてだ?」
「いつでも俺の手を握ろうと狙ってるからな。遠く離れても変わらん」
「重症過ぎる……」
「そんなに懇意にされて、周囲から言われたりしないんですか?」
「周囲もほぼ俺に夢中だ。あの壁を崩して文句を言いに来るのは、さすがに根性だけじゃ難しい。なぁハリー?」
「仰るとおりです」
「トラキオンは大丈夫なのか?!」
「さあ?」
「念の為、国王陛下と王妃陛下はヴィンス様に近寄らないように自衛されてます」
「ほぼ駄目じゃないか!」
隣国の滅亡の危機。うちの国の伯爵令息一人のために。
「これなら、ミューの結婚もなんとか阻止出来たと思うんだが?」
「アレは国王陛下が乗り気になってしまったからなー。あの方が関わってなければどうにか出来たんだが、さすがに冷静な王は違う」
感心したようにヴィンス殿が言った。
「グリフィス家から情報が入った時、『なんでトラキオンまで?!』って叫んだよなぁ……」
「叫びましたね。ほぼ同時期でしたから、他国を二つも相手取らなければいけないなんて、なんの悪夢と思いましたよ」
「陛下が本気で知らせを握り潰しそうだったもんな……」
「ヴィンセント様、それは物理的な意味ですか?それともなかったことにする的な?」
「両方に決まってるだろう」
何を当たり前なことを、と言う顔をされた。
いや握り潰してどうする。
不満そうな顔をすると、ヴィンセント様がキッ!と睨んだ。
「お前のその顔が!麗しいその顔が、デリル王国の第四王女なんて引き込んでしまったんだろう?!可愛い顔すんな!」
怒られた。可愛い顔ってなんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
僕が結婚を急いだ理由も、ほぼミューと同じだ。
すなわち『友好国からの求婚』。
ただし、こちらはヴィンセント様が怒るくらいに『顔』一択。
僕の顔だけを欲しがり、一生眺めていたいから結婚して!と王城の廊下でプロポーズしてきたのは、デリル王国から視察にいらした第四王女殿下だった。
ほんっと、全く関わってなかったのに。廊下で行き交いそうになり、壁際に寄って礼をしてたら声を掛けられた。
「そこのあなた。顔を上げてくださる?」
その時、殿下の取り巻き以外で廊下にいたのは僕一人だった。
訝しげに顔を上げると、潤んだ瞳で叫ばれたのが先程のプロポーズ。
彼女以外、全員ポカーンとなった。
近付こうとしてくる殿下を取り巻き共が抑えつけてる間に、急いでヴィンセント様の所へ駆け込み事のあらましを語ると、「あ“ぁ……」と項垂れてた。
「嫌な予感はしてたんだ……これから婚約者を決めるとかで、理想の男性像を語られていたんだが、誰がどう聞いてもルシウスとしか思えない姿で……」
「初対面ですが?!」
「だからだ。空想の中の王子様が目の前に現れたんだ、そりゃ興奮もするしプロポーズもするだろう」
「知りませんよ!」
「ルシウス、落ち着いて。……ちなみに、けっこ「する訳ないだろう?!」」
ですよね、とリニも肩を落とした。
僕個人としても、公爵家としても、顔だけを見初めてくる第四王女と結婚する理由がない。
と言うか、僕の素性も把握してないだろう?初対面だし。
「いや、それはたぶんすぐにバレる」
「なんで!」
「なんでて、お前の容姿を知らない人間が王宮内にいる訳ないだろう?聞き込み一人目で判明する」
「……」
「とにかく。王家としても、アイゼンバーグ家にデリルの王女が嫁いで来るのは受け入れ難い。お前が婿養子に行くのもな。国内の貴族のパワーバランスも、諸国との関係も変わってしまう」
国として邪魔させてもらうぞ、ルシウス。
そう言い切ったヴィンセント様に、何年振りかの尊敬の念を抱いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい、何年振りってなんだ。常に尊敬してろ」
「常に尊敬されるだけのお振る舞いを?」
「それはおいおい」
「なんでだよ」
つい素で突っ込んでしまった。
「王女殿下が改めて求婚するために国に戻っている間が勝負でしたからね。慌ててルシウスの妻になれる令嬢を探そうとした時にトラキオンのお話が入ってきたのは、ある種の僥倖だったのかもしれません」
あの時の苦労を思い出すのか、お茶を飲むリニの姿が一気に老け込んで見えた。
「まぁ、トラキオンの求婚騒ぎがなければルシウスとミューを組み合わせる発想がなかったからなぁ。二人とも知ってはいたが、微妙に繋げるタイミングがなかったのはなぜだ?」
「なぜと言われても」
「ルシウスが女性に興味がなかったからでは?」
「おいリニ」
「それで言うと、ミューもそうだな。婚約者にも結婚にも恋愛話にもトンと興味がなかった。それが今じゃ子どもが出来るまでイチャつくんだもんなぁ」
ヴィンス殿がうんうん、と頷く。
それを聞いた殿下とリニが固まった。
あ。
「ヴィ、ヴィンス殿?今なんと?子ども?」
「子ども?!」
「お、ルシウスまだ話してなかったのか?」
「まだだよ……」
はぁ、とため息をついた途端、ヴィンセント様とリニがよく分からない雄叫びを上げた。
ノアの時とはまたちょっと違うな。
「ルシウス!おめでとう!しかしお前、早くないか?!うちもまだだぞ?!」
「ルシウス、おめでとうございます。ミュリエル嬢は健やかにお過ごしですか?」
「元気元気、ルシウスがベターッて張り付いてくるのを、適当にあしらってるって」
「なんでヴィンス殿が知ってるの……」
「そりゃアイゼンバーグ家の使用人たちが教えてくれるさ。あとお義母様も」
「母上を籠絡するのはやめてくれるかな?!」
ヴィンス殿の籠絡技術に恐怖を覚えつつ。
「やっぱりユーリ様に会わせなくて良かった……!」と心の底から安堵した。
◇◇◇◇◇◇◇
「ヴィンス殿に惚れた中で、一番の大物はやはり第三王子殿下か?」
「今さっきそれを塗り替えようとしてたんですからね王太子殿下」
「いやぁ、いくら殿下の身分が高かろうと所詮は俺と同世代の子どもだったからな。むしろ子どもの俺が太刀打ちできないくらいの大人の方が困ったな」
「大人?」
「遊牧民の首長だ。俺より30歳年上の。今はもう隠居だが、出会った時はバリバリの現役でな。金はある、力もある、包容力もある長が跪いて求婚してくるのはすごい画だったぞ」
「うわぁ……」
「え、その時いくつだったの?」
「11歳」
「11歳の少年に40歳の男が?!」
「第六夫人までいる親父なんだがな。妻を一緒に共有するか繰り上がって第一夫人になるか、どちらでも選ぶといいと寛大に言われた」
「どちらもいらない!」
「そもそも、ヴィンス殿は夫人になれるのですか?それとも女性だと思われてたんですか?」
「一緒に風呂にまで入ったからそれはないな。妻を六人も持ってると、一人くらい男でも何てことはないらしい」
「何てことあるだろう……」
「言葉がおかしくなってますよヴィンセント様。その方は結局どうやってヴィンス殿を諦めたんですか?」
「泊めてもらった天幕に第三夫人が夜這いしに来て、その場で手打ち。遠駆けの時に五男と六男が俺の奪い合いで相打ち。あと……なんだっけ」
「歓迎の宴で首長の弟君がヴィンス様に狼藉を働こうとして、捕縛のちに絞首刑。長女がヴィンス様に貢ぐ為に第一夫人の宝石を盗んだことが発覚し、追放。『その目をくり抜いて飾っておきたい』と酔った勢いで本音を話した首長の腹心がその場で斬首。ヴィンス様を疫病神として追い払おうとした第四・第六夫人が、首長の怒りを買い離縁されました」
「多いよ!」
「怖いな!」
「一族がガタガタじゃないですか……」
「なぁー。それでさすがに首長も俺を引き入れられないと判断して、泣く泣く手放したんだ。『いつもあなたを想ってる』って意味で、この腕輪を渡された」
「…………なぁ、これって」
「記憶にある限り、あちらの国宝のひとつによく似てます……」
「これを俺に渡すことと引き換えに首長の座を明け渡したから隠居の身なんだが、未だに仕送りが振り込まれるし、彼が死んだら確か島を一個渡されるんだったな」
「ヴィンス様、島と対岸の港町もセットです」
「籠絡の腕が恐ろしい!!」




