兄、襲来
ポカポカ陽気の下、それでも日に当たり過ぎないよう配慮された庭園のお茶会にて。
今日もルシウス様は、お腹の感触で経過観察中です。
飽きないのねー。
「どういう光景よ……」
「経過観察よ」
ローズ様に勝るとも劣らない呆れた視線で、マリーがツッコんだ。
ルシウス様、聞いちゃいない。
安定期まではまだ遠いけど、親しい人たちには口止めをしつつ報告している今日この頃。
第二王子妃殿下がお忍びでいらっしゃった。
まずは前祝い、と言うことで。
羽口王子?あんなの最後の最後だ。
なんなら王の御前で無関係な貴族たちにも披露目をする時に、ヒムロと一緒に知ったら良い。
私もマリーも、それくらい信用してない。
「先に結婚したわたくしたちよりも、なんなら王太子ご夫妻よりも先に授かるなんて。何かいい方法でもあったの?ミュー」
「全てはルシウス様の頑張りです。」
「ミュー!?」
焦って顔を赤らめてるけど、何も間違ってはいないだろうよ。
私としては「そりゃ授かりもするだろう……」と言う感想しかない。
「レスター公爵家も発表されたし、この後アイゼンバーグ家でもとなったら、他家も動くわよきっと」
「子どもたちの年に合わせてーって?」
「うちの子は嫁に出しません……!」
悲痛な顔をしないの旦那様。
「あら、娘と確定してるの?」
「してないわよ。ルシウス様がイメトレしてるだけ」
「ルシウス様似の娘なら、嫁に欲しがる家がわんさかいるわね」
「ルシウス様似の息子でも嫁に欲しがるわよ、きっと」
「うん?どうして?」
あらいけない。サリーの発想が伝染ったかな?
なんとなくそっちを見ると……なんだか険しい顔をしてた。
「サリー?」
呼び掛けるとハッと顔を戻して一礼する。
「?どうしたの?ミュー」
「サリーがなんだか……」
なんと表現して良いものか考えてると、セザールがやってきた。
「失礼いたします。若奥様にお目にかかりたいと、お客様がいらしてます」
「私?来客の予定なんてなかったけど」
「それが……」
セザールは珍しく躊躇ってーーサリーを見た。
「「「!!」」」
途端にサリーが飛び出し、来客のいるだろう方向へ走っていく。
途中で警棒を構えて。
「え?サリー?なに、どうしたのセザール?」
一人分かってないルシウス様がオロオロしてる。
マリーはうんざり、と言う顔をしてた。
「サリーと同じ顔をしていました」
「は?」
「いらしたお客様の侍従の方が、サリーと同じ顔をしていました」
でしょうねー。
確定だわ。
「もう一人は、マントのフードを目深に被ってた?」
「左様でございます。お名前を伺ったのですが教えていただけず、どうしたものかと」
「どうもしなくていいわあんなの」
マリーが投げ捨てるような口調で断言した。
そうは言っても、私の客として来てるんだから。
「サリーが落ち着いたら連れてくると思うわ。もう一組、茶器を用意してくれる?」
「承知しました」
セザールはナンシーに指示を飛ばし、一礼して去って行った。
マリーが最大限に眉を顰める。
「なんで、よりにもよって今日来るのよ……」
「そういう奴だもの」
「わかってるけど……!」
せっかくのお忍びに水を差す出来事だけど、こんなの日常茶飯事だったじゃないか。
ナンシーが用意してくれるのを確認し、まだオロオロ中のルシウス様の頭を撫でた。
「兄です」
「は?」
「兄と侍従のハリーが来たんです。ハリーはサリーの兄弟で、驚くほど顔が似てるんです」
「どの口が言ってるのよ」
「双子でもないのにあんなに似てるのは驚きじゃない?」
固まってるルシウス様を放っといてマリーと話してると、庭園の入り口が賑やかになった。
「いてぇ!おいサリー、なんで耳を引っ張って連れてくんだ、普通に案内してくれ!」
「黙って歩いてください」
サリーがフードの中に手を伸ばして耳を掴んでるらしく、無理やり引っ張って歩いてくる。
侍従はその後ろで、我関せずとばかりに優雅に歩く。
顔が分かる距離になると、あまりのそっくりさにルシウス様の目が丸くなった。
テーブル近くまで連れてきたサリーは、そのままフードの男をペイッ!と打ち捨てた。
目もくれずまた壁際に控える。
「サリー……いくらなんでも不敬過ぎないか?」
「私の主はミュリエル様ですので」
「それは知ってるが」
やれやれ、と言わんばかりの男は、同じくやれやれと思ってるらしい侍従の手を借りて立ち上がった。
拍子にフードが外れ、顔が顕わになった。
ルシウス様が驚愕の声を上げる。
「ミューと同じ顔?!」
「ミュリエルの双子の兄、ヴィンス・グリフィスだ。お初にお目にかかる、ルシウス・フォン・アイゼンバーグ卿」
私と同じ顔で左目が緑、右目が青のオッドアイを持つ兄ーーヴィンスが、にこやかに貴族スマイルを浮かべた。
◇◇◇◇◇◇◇
双子とは言え男女なんだから、普通はただの兄妹くらいの似方になるだろう。
ところが、我々は一卵性なのか?どっちか性別偽ってんのか?と言われるくらい似ている。
かつ、片方が珍しいオッドアイとくればーー。
「おかげで男女問わず注目されて、フード装備が基本になるんです」
「……本当に、ミューにそっくり……」
席についたヴィンスを見て、ルシウス様がまた呟いた。
その反応に嬉しくなり、思わずお腹を撫でる手を上から撫でてしまう。
ちょっと驚いてこちらを見、それから嬉しそうに笑った。
「……どうしたの?」
「嬉しかったんです。旦那様がルシウス様で良かったなぁって」
「うぐ……え、本当にどうしたの?」
「大抵の人は、私がヴィンスに似てるって言うので」
「そうだなー」
ヴィンスも、壁際に立つサリーも嬉しそうに頷いてる。
マリーも「さすがね」と笑った。
「オマケに『ミュリエルは普通の目で残念だったなぁ!』とか笑う人がいたりしてね」
「普通の目って……いや、それは義兄上の目は珍しいだろうけど」
「残念の意味がわからない」
「そうだな。珍しいのは俺の目であって、言ってる本人の目ではないしな」
「ミュー、傷付かなかった?」
「傷付きはしませんが、腹は立つのでその場で言い返しました。『普通の目ですが、叔父様の節穴よりはマシですわ。店の経営悪化も、会計係の横領も、行き付けのお店の給仕してるオネエサンの嫌がる顔もまったく見えてませんものね。いっそ潰した方が世の為では?』と」
「攻撃力高過ぎるよミュー!」
「大の大人が頽れる瞬間を見たのは、アレが初めてね」
「大人になって考えると、確かに子どもにアレを言われたら頽れもするな」
「聞いてるかな……真似しちゃ駄目だよ?」
お腹を撫でて言い聞かせる旦那様。
さすがにまだ聴覚はないだろう。
真似するかどうかは、どちらに似るかだ。
私達の姿を見て、ヴィンスが嬉しそうに笑った。
「仲の良い夫婦をしてるじゃないか、ミュー。この結婚が決まった時はどうなることかと思ったが、うまくいって良かったな!」
本人の悪気はないが考えも足りない発言に、女性陣の顔が真顔になる。
後ろの侍従ーーハリーが、妹を警戒しつつヴィンスに忠告した。
「ヴィンス様。先程も似たような発言で、サリーに殴り掛かられたんですから。少しは控えてください」
やはり殴り掛かったらしい。
しかしヴィンスには通用しない。
「本当のことじゃないか。割と荒業だったけど、子どもまで授かるんだから仲良しなんだろう?」
「……元はと言えばあんたのせいでしょうが」
自分でも思った以上に低い声が出た。
ルシウス様の手がビクッとなる。
「みゅ、ミュー?僕達、上手くやれてると思ってたんだけど……?」
恐る恐る尋ねるルシウス様の目が怯えてたので、頬を撫でて落ち着かせる。
「もちろん。ルシウス様が旦那様で良かったですし、仲良しであると自信を持って断言します」
「ミュー……!」
「だがしかし」
喜ぶルシウス様へ微笑みかけ、今度はヴィンスを睨みつける。
飄々としよって、このバカ兄が。
「それとこれとは別です。私が緊急で結婚しなきゃいけない事態に陥ったのは、ヴィンスが原因なんですから。そのくせ式にも参列しないとか、責任感がなさ過ぎて怒りを覚えます」
性癖が篭ってしまいました……




