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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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124/129

ミューは夫を説得したい

「シオン、様を……」

「名誉会長に?」

「「??」」


私の発言に、皆様疑問顔。

まあそうなるだろうなーと思いつつ、「シオンくん〜、会長やりたい人〜?」と声を掛ける。

「たい!」と手が上がるが、まぁこれは条件反射です。会長が何かとか分かる訳がない。

「「「「可愛っっ……!」」」」

思わず漏れたらしい声が揃った。

ここでブレンダ様が我に返ったらしく、コホンと咳払いをする。

「……ミュリエル様。アイゼンバーグの方をファンクラブにお招きすることには、わたくしたち全く抵抗はないです。むしろこちらからお願いしたかったことですので」

「あら」

「ミノリ様からファンクラブの様態をお聞きし、どのような物が必要になるのか皆で確認したのです。その中に『関連グッズ』と言う、アイゼンバーグ卿にちなんで作られた品物があると知り、そのような物を作れるか商会に確認したのですわ。そうしますと、回答がことごとく『ミュリエル様の意向をお伺いしてからでないと対応しかねます』と……」

「あらら」

「一度検討します、と持ち帰られた所でも後日会頭から直々にお断りのお返事がありましたの。ですので、ミュリエル様にクラブの会長をやってもらえたらと思っていたのですが……、その、シオン様を会長に、でしょうか?」

コレット様、テトラ様も順に説明してくれた。

まぁね。グリフィス領であれだけ私の旦那様として見せつけたルシウス様だ。

こちらに確認なく関連グッズなんて、作る商会がある訳ない。

グリフィス領ではない商会だろうと、原料や販路の行き着く先は同じだ。

私はシオンの手を下ろさせ、頭を撫でながら皆様に説明を始める。


「まず、シオンを会長に推す理由です。シオンを会長とするなら、私は保護者として補佐役を務めます。もちろんこの子に何を決めさせる訳でもないですし、ある意味マスコット的存在で置きたいのです。皆様がご存知かどうかはわからないのですが、ルシウス様はあまり人に自分の容姿について騒がれることを好みませんの。皆様方だけでファンクラブを作るようなら、即座に潰しますわ。これは断言できます」

「「「「…………」」」」

「ですが、シオンを会長に据え私が補佐を務める組織であれば、ルシウス様は一切手出しできません。会報にシオンの絵でも載せようものなら、自分も欲しいと言い出すでしょう。この子が会長を務める限り、ファンクラブは安泰です」

「「「なるほど……!」」」


皆様が納得する声をあげたが、ミノリは首を傾げた。

「アイゼンバーグ卿が受容してくださることはわかりましたが、それならミュー様が会長になられても同じことでは?」

そう思うのも当然ね。

「では、次に私が会長の座に就かない理由を説明しましょう。ルシウス様は、貴女方が想像する以上に面倒な方なのです。先日のお茶会でお見せした通り、あの人は王宮一の愛妻家と呼ばれる人です。ミノリなら言葉が分かると思うんだけど、その性質は『同担拒否の猛火勢』。私が他の男性に笑い掛けることすら許容出来ない、心の狭ーい夫なの」

「そうなんですか??」

「ミノリ様、あの『同担拒否』とは?」

「同じ推しがいるファンとの関わりを拒否することです。ミュリエル様のことをお慕いする他の男性を頑なに拒否。『猛火勢』は、ファン心の熱量が半端なく強い表現ですね」

コレット様の質問に、ミノリが解説をした。

「まぁ……、でもご夫婦なのですから、そのお気持ちもよろしいのでは?」

テトラ様がさらに疑問を重ねる。

私はニッコリ笑った。


「もちろん。私は他の男性には興味ないですし、社交で笑い掛けるくらいのことで嫉妬するルシウス様も可愛いと思ってます。ただ、彼は私にも嫉妬してほしいと思っているらしいので。ルシウス様のことできゃあきゃあ騒ぐ皆さんに混じって私まできゃあきゃあ言ってたら、絶対拗ねます」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………めんどぐさぇ」


ミノリ、アマツクニ訛で誤魔化そうとしてもほとんど同じ言葉になってるよ?

「ええ、その面倒くさいルシウス様のファンクラブを作ろうなんて考えるんですから、クラブの発展の為に協力してもらいますよ?早速ですが、皆様にツテコネを使って探していただきたい人材がいます」

「「「「人材?」」」」

私が合図を出すと、ナンシーとレンが皆様の前に絵を一枚ずつ並べた。

「「「「?!」」」」

食い入るように見詰めている姿勢に、想像通りで満足した。

「こ、これ、ミュリエル様……!」

「な、な、な……」

「〜〜〜〜!」

「え、え?ミュー様……?男装?」

「それがヴィンスよ、ミノリ。私の双子の兄」

並べたのは、先日旅先でルベンが描いたルシウス様と寄り添うヴィンスの絵だ。

張り切って仕上げた力作を何枚も披露され、お義母様もお義父様も沈黙した。

当の本人達は「よく描けてるなぁ」「ね」と気にしてないが、倒錯的なことは間違いない。

サリーが気に入った絵を一枚進呈したが、さて残りをどうしよう?と考えた矢先のこの話だ。

需要があるところに売ればいい!しかもここなら流出はしない!


「今度我が家の専属となる画家の作品です。まぁこれはファンクラブ会員限定の品にはなるんだけど。クラブ設立にあたって、なんと言っても揃えたいのが絵を描く腕を持つ人なのよ。肖像画もグッズの下絵も、それなりの品質を保てない限りルシウス様ファンクラブとしては公に出来ないでしょう?絵心のある者、模写の上手い者、そう言った人々を勧誘していただきたいわ。腕前はルベンが判定します。アイゼンバーグ家で雇うことになるので、報酬は期待していいと伝えて」


まだ絵を見てボーッとしている四人に、「その絵は差し上げるわ」と笑い掛けたら、全員揃って縦に首を振りまくった。

「こ、このような絵をいただけるなど……本当にありがとうございます!」

「が、額縁に入れて部屋に飾りますわ……!人探しも頑張ります!」

「わぁあ、どうしよう、アイゼンバーグ卿の絵をいただけるなんて、夢のよう……!」

「ミュー様、本当にそっくりですね!お義兄様と旦那様も仲がよろしいんですか?」

「そういう意味ではないけど、一般的な仲良しレベルよ」

ミノリの瞳にサリーでよく見る感情を見た気がした。

一応釘を刺したけど、そっち方向で妄想するんだろうなー。

少し呆れていると、腕の中のシオンがくいくいと服を引っ張った。

「なぁに?シオン」

「たしゃ、びー」

「ヴィンス?あぁ、皆様の絵ね。ヴィンスとお父様だものね」

「びーよ、たしゃ」

……この感じ、前にも見たな?

シオンを凝視したあとに庭園の入り口をバッ!と振り返ると、歩いてくるヴィンスとハリーの姿が見えた。

本当に来やがった。


「ようミュー、シオン。なんか面白そうなことをやってるとサリーから聞いたから、見に来たぞ」


客のことなど目もくれず笑い掛けるヴィンスに、令嬢方は皆固まった。

「びー!」

「シオン、なんだかおめかししてるな?いつもよりキラキラしてるぞー」

「そういうヴィンスは、随分とシンプルな服装ね?」

しげしげと兄の服装を観察した。

白いシャツにループタイ、黒いトラウザーズといつになく地味な身なりだ。

髪も一本でまとめて横に流すだけ、両耳のピアスといつもの腕輪が唯一の飾り。

ヴィンスは肩を竦めた。

「父上とマシュルトが主導した実験だ。服装の装飾を減らしたら、魅了が薄まるかもしれないと思ったらしい。この格好でまだ俺を知らない商会の下働きなどに面会したんだ」

「効果はあった?」

「全然。むしろ派手目な服装よりも警戒しなくなる分、堕ちた時ののめり込み方がすごい。五人試して三人がハリーとマシュルトに組み伏せられたから、父上が疲れたらしくて『今日はもういい』と」

「なるほどー。じゃあ、派手目かつヴィンスの魅力を損なう服装が良いのかしら?」

「俺の魅力を損なえる服など、想像つくか?」

ニヤリと笑ったヴィンスの顔がたまたま目に入ったらしく、テトラ様が座ったまま大きく仰け反り、椅子から落ちそうになった。

背後にいた使用人達が支えてくれたので助かった。

彼らはヴィンスが現れた途端、魅了の影響を受けないよう目を伏せていたらしい。優秀。


「で?なんの面白いことをしてるんだ?」

シオンの席との間にハリーが勝手に椅子を用意し、勝手にヴィンスが座る。

「……こちらの皆様は、ルシウス様のファンクラブを設立される予定なのよ。その打ち合わせ」

事実をそのまま告げると、ヴィンスはやはり楽しそうに笑った。

「へえ!ジークハイドでもファンクラブをやるのか。ルシウスのファンクラブなら、俺も入ろうかな」

「「「「?!」」」」

「入会と同時に内部抗争が勃発するからやめて。ヴィンス、ファンクラブ知ってるの?」

釘を刺すと同時に質問すると、ハリーの淹れたお茶を飲みながらヴィンスは続ける。

「俺の信奉者に一人、アマツクニの者がいるからな。奴らの集まりを『ファンクラブ』と称しているのを聞いたから、説明させたことがある」

「あら。ならファンクラブになったの?」

「それが、あの連中は心の狭い奴が多くてな。タドリとオーランドのように仲良くやるのもいるが、基本的には寵を争ってるから、俺の命を聞く時以外は協力もしやしないんだ」

「寵なんて与えることあんの?」

「ないな」

ケラケラ、と笑うヴィンスに対して、ミノリが突然立ち上がった。


「お初におまなぐに掛がるす!ミュー様のどやぐどごさせでいだだいでらす、ミノリ・メイフィールドど申します!以後お見おべおぎどご!」

「うお、何アマツクニ?」

「はい!」

「ミノリ、人生壊れるわよ」

「はっ!!」


目がハートになってたのでこちらも釘を刺す。

つか早いな魅了……この格好ダメかも。

「あ、あ、あの!ミュリエル様、お兄様のファンクラブも作ってはダメでしょうか?!」

「俺?」

ブレンダ様の挙手にヴィンスが目を向けると、途端に真っ赤になり手がしおしおと下がった。

「わ、わたくしも入りたいです……!」

「わたくしも、ぜひ!」

テトラ様とコレット様も勢い込んで訴えて来るので、二人で「うーん?」と唸ってしまった。

「……トラキオンの集まりを本部として、ジークハイド支部とすればなんとか?」

「まあそうだな。こちらの結束力の良さを見せ付ければ、アイツらも対抗してまとまり良くなるかもしれん」

「会長はサリー……は、やらないか」

「やらないだろう。いいとこ参謀?ミューもやらんだろうし……こっちに詳しいなら、タドリかな」

「そうね、適任だと思う」

「「「「〜〜!」」」」


こうして、あっという間にルシウス様のファンクラブとヴィンスのファンクラブジークハイド支部の設立が決まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「と言うことで、ルシウス様のファンクラブを作りますね!」

「……決定事項……」


夜、ソファでお隣に座って報告すると、ルシウス様はへの字口になった。

「……ミュー、ちゃんと教えて。どうしてファンクラブなんて作ろうと思ったの?商売の機会だけじゃないよね?」

ルシウス様に抱き寄せられ、耳元で囁かれた。

いや別に囁く必要はないんですけどね?

「令嬢方の噂話に精通する手立てが欲しかったんです。結婚してもお茶会に参加すれば徐々に手駒を増やせると思ってたんですが、思いの外早く子持ちになったので」

ツンツンと頬を突くと、旦那様は少し頬を赤らめた。

「……うん、それは確かに予想外に早かったね」

「これからもお茶会や集まりには参加しますが、やはり未婚の令嬢達の話題は拾い切れないと思うんです。その点、ファンクラブを作って会員を増やせば、ファンミーティングの時に雑談として聞けるでしょう?だからです」

「そっか」

「あとは、ルシウス様に近付こうとする令嬢を牽制する規則を作る点でも、有効かなと。王宮で働く人達にはあっても、私的な訪問をする令嬢にはなかったでしょう?会員規則とか、会員でなくても他の令嬢が壁の役を担ってくれれば万々歳です」

「うん……」

ルシウス様は、こて、と私の肩に頭を乗せた。

納得はしたようだが、まだ煮え切らない。


「……僕は、ミューだけの僕でいたいのに……」


ポソリと呟かれた言葉にキュンとした!

独占欲とは反対方向の、『独占してほしい欲』?

私の旦那様は本当に可愛い。

「当然です。私だって、誰かと貴方を共有する気はさらさらないですよ」

「……そう?」

「皆様が憧れるのは、塩対応でスカしてる『ルシウス・フォン・アイゼンバーグ卿』ですから。可愛くて泣き虫で甘ったれのルゥや、良いお父様のルシウス様のことではありません。それは私だけのものです」

「……甘ったれ、は嬉しくない」

「今の姿勢は充分甘ったれてますが?」

「そうかも」

ふふ、と笑って抱き締められる。

ファンが憧れるのは『あるべき姿』のルシウス様であって、彼の本当の姿は私だけが知っていればいい。

それを他の人に見せるつもりは、これっぽっちもないのだ。



「ついでに、ヴィンスのファンクラブも作ることになりました。トラキオンの集まりを本部、ジークハイドでは支部とします」

「ヴィンス殿のファンクラブ?へぇ。僕も参加しようかな」

「……参加意思を表明した途端内部分裂しますので、お断りします」

「そう?残念」





ファンクラブの名前を作ってくれるツールで試しましたが、イマイチでした。

ルシウスファンクラブ、ヴィンスファンクラブ共にクラブ名募集中ですm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
 作品、更新を楽しみにしています。  ファンクラブはたまひよみたいにぬいぐるみに因んで「うさぎクラブ」と「くまクラブ」が良いかと思いました。
シンプルに青薔薇会(ルシウス)、赤薔薇会(ヴィンス)でどうでしょう? これこそテンプレですね。
ヴィンス:太陽の輝きの欠片 ルシウス:月の煌めきの雫 とかいかがでしょう。お零れを頂戴する的な意味で(笑)。 個人的イメージでの中二病っぽく乙女ゲー的な成分も意識してみました(笑)。(ちなみに頭の中に…
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