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テンプレートが立ちはだかる日常  作者: ひつじ


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122/129

ミューは愛しの息子の涙を止めたい

ミノリを弄りつつ歓談してると、不意に後ろから抱き締められた。

ルシウス様?と思ったが、この香りはサリーか。

旦那様がよくやるように首筋に顔を埋めてきたので、こちらもよくやるように頭を撫でてあげた。

「サリー、お疲れ様。会話は出来た?」

返事はなく、頷きだけ伝わる。

「そう、じゃあ帰ったらお祝いしましょうね。サリーのお茶会デビューと、れちさみゅの赤ちゃん会デビューの。きっと料理長がサリーの好きなお魚のムニエル用意してるわよ」

「……」

「ヴィンス?勝手に来て勝手に食べるでしょうよ。なんなら泊まっていく気満々で、私達が帰る頃には寛いでるわきっと」

クス、と笑ったので大丈夫かな。

ポンポンと腕を叩くと、ようやく顔をあげた。


「……皆様、取り乱してしまい失礼しました」

「サリー、ご苦労様。ミューの隣に座ったら?」

「椅子も持ってきてもらいましょうか」

「サリーさん……サリー、様?とお呼びするべき……でしょうか?」

「今まで通りで結構です」


友人達が調えてくれて、サリーが私の隣に座った。

ミノリだけは初対面で、サリーが頭を下げた。

「サリー・グリフィスと申します。初めまして」

「初めまして、わたくしはミノリ・メイフィールドでございま……グリフィス??」

最後まで挨拶してから聞き返しなさいよ。

「サリーは私の侍女でこの間私の兄と結婚して甥を産んで、今日がお茶会デビューよ」

「え、あ、は?!待って待って、情報量が多過ぎます!」

知ってるよ、わざわざ畳み掛けてやったんだもの。

親切にも皆が説明してくれてるので、私とサリーはまったりお茶を楽しむ。

「ミュー様に、双子のお兄様?いらっしゃったんですか?」

「いるのよこれが」

「学園ではお見掛けしてないですよね?」

「長らくトラキオンに留学されてましたので」

「なるほどー。双子、ですか!似てます?」

「「「そっくり」」」

声を揃えなくていいんだよ皆さん。知ってらい。

皆の返事を聞いて、ミノリは楽しそうに笑った。


「そんなに似てらっしゃるんですか!ぜひ一度、お会いしたいです!」

「「「「「…………」」」」」

「なぜに沈黙?!」


ミノリの発言を聞いた途端、皆が一斉に俯いたので彼女は焦り出した。

「オススメしないわ」

「オススメしません」

「いやなんで?!お兄様で旦那様でしょう?!」

「なるべくなら……やめた方が……」

「そうね、あの話を聞いたらこれから知り合うのはやめた方がいいわね」

「あの話?!なにそれ怖い!」

「軽い気持ちでお会いするのは控えた方が……」

「お友達のお兄様にお会いするのに、軽い気持ちは駄目なんですか?!」

そして皆が止めるのでパニックになる。

「落ち着いてミノリ。何もあなたを拒否してる訳じゃないわ。会いたいなら会わせてあげる」

「ミュー様」

「でもその際は、一筆書いてね」

「は?」

怪訝そうなミノリに、ニッコリ笑い掛ける。


「私の兄ーーヴィンスって言うんだけど。ヴィンスに会って人生壊されたとしても、我が家とグリフィス家には一切責はありませんって誓約書。ミノリは他国の方だもの、それくらいしないと会わせられないわ。あ、旦那様のメイフィールド様の分もよろしくね」

「……」

「慎重ですね、ミュー様」

「最近また威力が増してきてるから、念には念を入れておかないとねー」

「……ミュー様」

「ん?」

「……お兄様にお会いしたら、人生が壊れる可能性があるんですか……?」

「人によってはね。ね?サリー」

「壊れても持ち直す方も中にはいます」

「……………ひとまず保留で」

「わかったわ」


さて、ミノリは夫の分まで誓約書を書いて、ヴィンスに会いに来るだろうか?


◇◇◇◇◇◇◇


そろそろ会もお開きかしらね〜と話していると、不意にサリーが顔を入り口の方へ向けた。

「ヴィンス来た?」

「いえ。シオン様が泣いておられます」

「「「シオン様が?」」」

なんでうちの子が泣いてるのが分かるのかって?

アイゼンバーグ家の使用人達は、なんでか分かるんだってさー。

「寝起きかしらね?」

「そのようです」

「まあ、それならホノカ様達が……」

と思ってたら、なんだか入り口付近のテーブル席からきゃいきゃい賑わい出した。

……これは、さては?

「来ました」

サリーが淡々と告げる。

やっぱり。


入り口から、眩い金髪の夫が、眩い金髪の息子を抱っこしてやって来た。

サリーの言う通り、シオンは泣き顔のままである。


てっきり笑顔で登場するかと思ったのに珍しい。

意外な展開に目を瞬いていると、ルシウス様が苦笑した。

「シオン。ほら、お母様だよ」

「たしゃ〜〜〜〜!」

ルシウス様が促すと、火がついた様に泣き出した。

これまた意外!

席と席の間を優雅にすり抜けて来るので、こちらも立ち上がって彼らを迎える。

いや、他の人は立たんで良くない?明らかに闖入者親子なんだから。

とは言え、次期公爵とその跡継ぎなんだから、畏まってしまう気持ちもわからないでもない。

近くまで来るとシオンが腕を伸ばしてきたので、ルシウス様から受け取った。


「たしゃ〜〜!うあ、たしゃ〜〜」

「どうしたのシオン、珍しい」

「お昼寝から覚めたら、急にミューに会いたくなったみたい」


シオンを抱っこしてる上から抱き締めてくる夫は、こんな時も溺愛仕様だ。

他の人が赤面してるよ?

「ミュリエル様、お座りになられた方が」

サリーが薦めてくるので、ルシウス様の力も借りてシオンを抱っこしたまま座る。

ササッとルシウス様用の椅子も用意された。

「シオンー、どうしたのかなー?お母様に会えたんだから、もう泣かなくていいでしょ?」

背中を撫でながら声を掛けると、シオンは少し顔を上げたが、また胸元に顔を埋めてしまった。

「ルシウス様、いつから子どもたちの所へ?」

「そんなに経ってないよ。30分もしてないかな。切り良く片付いたから、様子を見に行ったついでにミューを迎えに行こうと思ってたんだけど。その時はまだ寝てて、起きた途端に大泣きしてた」

「他の子は?大丈夫でした?」

「驚いて釣られて泣いてたけど、妃殿下方が付いてくれたら落ち着いてた。泣きっぱなしなのはシオンだけ。で、『たしゃー』って泣くものだから早くミューに会わせて来なさい!と陛下が」

「やっぱりいたんですか……」

仕事してくれ陛下。


「念の為聞きますけど、他の子と揉めたとかじゃないんですよね?」

「ないらしい。まあ、シオン以外は動けてもハイハイだからね。揉めようがないと思うよ」

それはそうだ。なら、単に寂しくなっただけかな?

「あら?シオン、ウサギさんはどうしたの?」

そう言えば背負ってないな。

「……れち」

「ん?レティシア?」

「うしゃしゃん、れち」

単語だけの羅列に首を傾げると、ルシウス様が笑って教えてくれた。

「レティシアに貸してあげたんだよ。泣きながら連れて行かれる時に、一度レティシアを見たんだ。抱っこから降りて、レティシアのところにウサギを並べて、それからまた泣きながら僕のとこに来た」

涙がまだ流れてる頬を拭きながら、優しい目でシオンを見詰めてる。


「レティシアに貸してあげたの?」

「たい」

「シオンってば、やっぱり素敵なお兄様ね。お父様みたい」

「……しょん、いーこ?」

「シオンはいい子ね〜」

「しょん、かーい?」

「もちろん!シオンはいい子で可愛くて素敵なお兄様だわ。お母様、シオンが大好き」

「……たしゃ、だちゅき」


シオンが嬉しそうに抱き着いてきた。

おお!初めて「だちゅき」が出たぞ!

「お父様も混ぜてよ、二人とも」

またもやまとめてギュッとしてくるルシウス様に、シオンは「ぷあ、だちゅき〜」と安定の相思相愛っぷりである。

「僕もシオン大好き。ミューのことも好きだよ」

「ルシウス様、ここではやめましょうか?」

「駄目?」

「皆様の前は駄目です。シオンへならいくらでも言ってください」

「じゃあ、ミューは馬車の中でだね」

せめて家に着くまで待てないのか?

ちなみに周囲は、声も出さずに身悶えている。

シオンの泣き顔とルシウス様の蕩ける笑顔にヤラれてるらしい。

まあいつものことかな!


「シオン様、喉は渇きませんか?苺水がございます」

「ルシウス様ってば、ついにシオンと共に乗り込んできたのね」


苺水を持ってきたサリーと共にマリーがやってきた。

「苺のお水飲む人〜?」

「たい!」

「「「可愛いっっ!」」」

ご機嫌になってきたシオンはお返事も元気である。

「マリアベル様、申し訳ございません。息子と共に入り口で妻を待とうとしていたのですが、息子の泣き顔に負けた侍女長が通してくれました」

ルシウス様がニッコリ笑うと、マリーも苦笑した。

「そうね、それはわたくしも勝てる気がしないわ。シオン、お腹は減ってない?あちらに果物ならあるわ」

「シオン、マリー様が葡萄食べる?って」

「ぶじょ!」

「じゃあ、ちょうだいな、は?」

「ちょ、らい、にゃ?」

マリーに向かって両手を出し、頭を傾げるシオン。

「〜〜〜〜激可愛っっっ……」

マリーはどうにか威厳を保ちながら傍らのメイドに指示を出し、葡萄が用意された。

「ありゃと!」

「…………!勿体なきお言葉……!」

いや礼は受けようねお嬢さん。

「シオン、起きたばっかりなんだからちょっとだけね?」

隣のルシウス様がシオンを餌付けする。

ちょっとだけと言いつつ、シオンが口を開けたら放り込んじゃうんだよなぁ。

「ちょっと、と言うならルシウス様が止めては?」

「それが出来たら苦労しない」

「何を堂々と……」

ま、そんなに数を持ってきた訳ではないので。これくらいは平らげてもいいか。


メイドの用意してくれた温かい濡れタオルで、シオンのお口の周りと涙跡が残る頬を一緒に拭き取る。

「はいシオン、お顔綺麗になった。さっきよりももっと可愛い!」

「うふふ!」

「ご機嫌になったねシオン。お父様のところに来る?」

「や。たしゃ、しゅき〜」

「シオンにフラれた……!」

初めてつれなくされて、本当にショックを受けてる。

「シオン、お父様泣いちゃうってよ?」

「ぷあ!よちよち!」

「……ありがとシオン」

「うふふ!」

楽しそうに笑うので、結局ルシウス様も苦笑した。


「あ、そうだ。ルシウス様、こちら旧友のミノリ様よ。アマツクニからいらしたの」

「は、初めまして!アマツクニがら参った、ミノリ・メイフィールドど申します!おまなぐに掛がれで光栄だす!」

「……なんて?」


さすがのルシウス様も、アマツクニ訛は聞き取れないらしい。

三回深呼吸させて、自己紹介を一文ずつ区切らせてようやく伝わった。

「ミューの夫のルシウスです。初めまして」

「はわ、あの、アイゼンバーグ卿のことはアマツクニでも有名でして……!夫もぜひ一度お会いできたらと!」

「ミノリ様の旦那様は、アマツクニからいらした外交官ですよ」

「外交官……」

「なして?なしてお二人どもそんたに険しぇ顔するんだすか??外交官ってそんたにやざね?!」

深呼吸、台無し。

シオンはなんだかわかってないけどキャッキャ笑ってる。

貴婦人達のお茶会に居座ってるのに、ほぼ全員からうっとりした目で見られてる夫と息子。

さすがだわー。


とにかく。珍しいシオンの泣きが止められて良かった。

可愛い息子にも可愛い夫にも、なるべく笑っていてほしいものである。


◇◇◇◇◇◇◇


その後親子三人プラスサリーでレティシアとサミュエルを迎えに行ったら、「シオンが笑ってる!」と預かり部屋にいた人達から拍手で逆に迎えられた。

どうやらシオンは自分よりも小さい赤ちゃん達がいる状況にやたら張り切ってたらしく、お世話焼く真似をしたり頭を撫でたり、とにかくお兄ちゃん!として振る舞っていたそうだ。

そこからのお昼寝でたぶん緊張の糸がプツッと切れて、大泣きに至ったのではないかと。

うちの息子はなんて可愛い行動を取るの!と感極まってまた抱き締め合った親子である。


夕食も食べて行きなさい、なんなら泊まって行きなさい、部屋も用意してある!と言う王族を振り切って屋敷に戻ると、案の定ヴィンスが寛いだまま「お帰りー」と家主一家を迎えた。もはや何も言うまい。



お茶会から一週間。

頑張った反動からか、夫によく似たベッタリモードのシオンを隣に置きつつ手紙の仕分けをしていると、あまり付き合いのない令嬢からの封筒を見つけた。

ルシウス様へのラブレターはこちらには回ってこない。

むしろルシウス様にも回らないらしいが、とにかくこれは私宛なんだろう。

心当たりのないまま便箋を取り出すと、流麗な文字で先日のお茶会に参加していた旨から文章が始まっていた。



『ーー付きましては、ルシウス・フォン・アイゼンバーグ様のフ(・)ァ(・)ン(・)ク(・)ラ(・)ブ(・)を設立させていただきたく、奥様であるミュリエル様へと便りを認めた次第ですーー』



なんか面白いことが書いてあるな?!



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― 新着の感想 ―
ルシウスのファンクラブ? 非公式のものなら何個かありそうですね。 基本的に関われないはずだから、ファンクラブという名目作りなのだろうか?
ルシウスはシオンとミューのことになると、制御がー どうかレティシアには、そんなデレデレパパンを指摘して、ママの苦労を軽減するよい子に育ってもらいたいと思いつつ、あまり良い子だと、書くことが無くなって…
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