ミューはお茶会に参加したい
レティシアを出産し、王族にも話を通したのでひとまずオッドアイのことは身内以外には広まらないようにしてもらった。
友人達には会いに来たときに見せたけど、公爵家のトップシークレットだと話せば察してくれる。
一番危ないのはヒムロ、ついで商売人達の噂話であるが、ヒムロはシオンが「ひーく!しー!よ!」と釘を刺したので話すことはない。
商売人達も、グリフィス家やヴィンスを敵に回す行為はご法度なので、人に話す時は「若奥様によく似たご令嬢」と表現することになった。
これでひと安心。
「なので、お茶会に行きたいのです」
「流れがわかんない」
社交を再開させたい、と旦那様に告げると、なんだか渋い顔をされた。
「どうしてそんなお顔なの?」
「お茶会にいい思い出がないから」
「それはルシウス様にないのであって、私の思い出ではないですねー」
例をあげるなら、第四王女とのお茶会とか禁断の質問が上がった奴かな?
両頬を挟んでグリグリしてると、ルシウス様はさらに眉間に皺を寄せた。
「まだ早いんじゃないかな?」
「あんまりのんびりしてると、また次の子が!てなりそうなんですもの」
「ぐぅ」
私の主張を聞くと頬を赤らめる。
主な原因は夫にあるからね?
「まあ、私の社交としては置いといてもいいんですけど。今回はサリーを『次期伯爵夫人』として連れて行きたいんですよ」
「サリーを?」
紫の目が丸くなった。
そう、これまで侍女としてしか参加してなかったサリーだが、正式にヴィンスと結婚したので招待客としての参加が可能になったのだ。
「サリーがお茶会……。でも、ヴィンス殿は伯爵夫人としての役割なんかは強要してなかったよね?意見が変わったの?」
スベスベな旦那様の頬の手触りを堪能してると、ルシウス様に聞かれた。
はは、やっぱりそう思うよね。
「ヴィンスが連れて行け、と言ったんじゃないんです。サリーが自分から『連れて行ってください』って言い出したんですよ」
「サリーが?」
また驚きの表情。
可愛く思えてきたので、鼻先にキスをしてしまう。
「出産前は育児と侍女の仕事にのみ専念する気だったみたいですけどね。サミュエルと過ごしてみて、少し考えが変わったみたいです。自分は侍女で問題ないけど、サミュエルの母としてなら社交も経験しておくべきでは?って。愛息の存在は偉大ですね」
自分の望みとしての仕事の他に、息子の為になることはなんなのかを自然と考えるようになったそうだ。
私もその気持ちはよく分かるので、手伝おうと思う。
ルシウス様は頬にキスを返しながら、嘆息した。
「息子の為だと言われたら、反対は出来ないよ……」
「ルシウス様は王宮一の親バカですからね」
「その座はヴィンセント様に脅かされてる」
取り合う座かしら?
「……分かった。でも参加するお茶会は吟味させてもらうよ?」
場所とか参加者とか日程とかかな?
「してもらってもいいですけど、ちょうどいいのがあるんですよ」
「ちょうどいい?何が?」
「サリーが初参加するのにちょうどいいんです。メンバーが大半気心知れてて、日程も悪くなく、会場は安全性においてうちの次くらいに保障されてます」
「……どこ?」
「マリーのサロンです」
「マリアベル様?」
王宮内の第二王子妃殿下専用サロンで、マリーが出産後初のお茶会をするという。
「……それは、そもそもミューの不参加なんてあり得ない奴……」
ルシウス様が渋面になった。
「ルゥが嫌なら断りましたよ?」
「……嫌じゃないよ。僕からしても一番安心出来るお茶会だし。ただ単に、心配してるだけ」
ギュッと抱き締められたので、いつも通り背中をポンポンと叩く。
「マリーと同世代の女性を呼ぶんですって。大半既婚者で、子どももまだ小さい子が多くて。同じような悩みを持つ方々と交流しましょうって試みらしいです。私の友人達も参加するので、サリーも顔見知りがいるのはいいことでしょう?」
「そうだね。その方が安心すると思う」
「それで、私とサリーが参加するならうちの子たちも交流させましょうってホノカ様が。シオンとレティシアとサミュエルを、エリカ様とカイリと王宮で遊ばせたいそうです」
「え?!」
驚いて顔が離れた。
「シオンたち、王宮に来るの?」
「母親達のお茶会の間、面倒を見てくれる……と言う建前で、シオンに会いたがるうるさいじっじが騒がしいと」
「そっちか!」
「まあ、話を通しただけでレティシアを実際には見せてませんからね……。そんな訳で、うちの天使達が最高権力者に攫われないよう、時折様子を見に行ってくださる?」
「ずっと二人についててもいいけど」
「働いてください」
「……もしくは、総務の部屋で遊ばせておくとか」
「レティシアの目はまだ総務室にも公開してませんよ?」
「そうだった」
はぁ、とため息をついてルシウス様は額を合わせてきた。
「……終わる頃にお迎えに行くよ」
「シオンとレティシアの様子次第では?」
「……多少遅れても必ず行くから、待ってて」
「はいはい」
相変わらずお迎え好きの旦那様である。
シオンに性質が脈々と受け継がれてる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現状、サリーは一応育休扱い中。
……の筈なのだか、結局朝はサミュエルと二人でアイゼンバーグ邸にやってきて微妙に働き、夕方迎えに来るヴィンスと共にグリフィス邸へ帰宅する。
場合によってはそのまま親子三人で泊まっていくし、義父母も何も咎めない。どころかサミュエルとレティシアをセットで考えてる節が見られる。
時折「レティシア、片割れはどうした?」「あらどこに行ったの?」と不思議そうに聞くからだ。
どうしたも何も、自宅へ帰りましたが?とは言えないので、嫁はニコニコするばかりだ。
と言うことで、今日も相変わらずサリーは私の側にいる。
侍女モードではなく、向かいのソファで居心地悪そうにお茶を飲んでる。
お茶会の練習中ー。
「マナーの基礎は出来てるんだから、あとはどれだけ話題に食い付けるかかしらね?」
「……はい」
「顔、しっぶ!」
いつものサリーの渋面がより険しかったので、つい笑ってしまった。
「だって、社交しに行くんでしょ?」
「……貴族女性の話題など知りません」
「別に貴族目線じゃなくて良いのよ。侍女として培った知識だって、立派な話題よ?例えばほら、この紅茶が美味しくって『どこの産地かしら?』ってなったら、サリーは教えられる訳でしょう?」
「はい」
「そこからその産地の話題だとか、お茶についてであればこの茶葉に合う菓子は何系かとか、キッカケから話を転じていくのが女性の会話よ?普段から私や他のメイド達と話してることと一緒」
「……なるほど」
「皆さんあなたが侍女をしてることだって承知してるんだから、臆せず話をすれば良いのよ」
「わかりました」
ようやくサリーの体の強ばりが解けたところで、シオンがジュリアに抱っこされてやってきた。
「たしゃ〜〜」
あら涙目。寝起きの良いシオンくんに戻ったと思ったのに。
「シオンいらっしゃい。おはよう」
「はよ、ないー」
「おはようしないの?」
「ない〜」
ぐずぐず言ってるシオンを受け取り背中を叩くと、胸元に頭を擦りつけながら安定する場所を探してるらしい。
どうやら起きてはみたものの、眠気が残っていたようだ。
しばらくぐずってたが、そのまままた眠ってしまった。
「申し訳ございません、若奥様」
ジュリアが小声で謝るが、問題ない。
「気にしなくて良いわ。サリーも一段落した所なの。このまま預かるから、起きた後の準備をお願い。ウサギも必要よね?」
「承知しました。失礼致します」
ジュリアが一礼して去っていく姿を見送って、サリーがポツンと呟いた。
「……ジュリアさんは、すごいと思います」
「ん?」
「ご自分もお子さんがいらっしゃるのに、シオン様の乳母として務めを果たされてます」
「あー、ねー」
ジュリアは元男爵家の娘さんで、平民の旦那様と結婚して子どもを産んだ。
シオンより半年誕生日の早いお嬢さんらしいが、お子さんは旦那さんの実家で面倒を見てるらしい。
と言うのも、家族経営の食堂でちょうど義理の妹さんも同じ時期に息子を産んだそうで、まとめて子育てをしているとのこと。
もちろんジュリアも娘さんの世話をしているのだが、シオンの世話と両立させ、さらに三日に一回はアイゼンバーグ邸に泊まりなのは、やはりすごい。
加えて、アイゼンバーグ領にまで来てくれてるしね。
あの時は旦那さんと娘さんも旅行感覚でどうぞ!とお供に参加させたけど。
「……私は、ミュリエル様のお子様と同時期に出産したら、お子様の乳母になるつもりでいたのですが……」
「サリーが乳母、ねえ。まあ近いもんはあると思うけど」
なんせ双子のような従姉弟達なので、授乳のタイミングが被ったら二人同時に面倒を見るのはもはや当たり前だ。
サリーがレティシアの乳母なら、私もサミュエルの乳母と言える。
レティシアもサミュエルもシオン並みに手が掛からないので、私とサリーとメイド達、たまにシオンのメイドも見てくれるから改めて乳母役を雇うことはしなかった。
「ですが、今サミュエルを置いてレティシア様の世話を出来るかと言われたら……」
なんか悩ましげな顔をしてるぞ?
「言わないわよ。サミュエル持ってきてよ」
「ミュリエル様……」
「ジュリアにだって、連れてきてくれていいって言ってるのよ?でも平民の育ちなので、粗相をしたら怖いって。赤ちゃんなんだから粗相も何もないと思うんだけど」
まあ、恐縮している人を無理に連れて来いとは言わない。ジュリアのお子さんは女の子だし、シオンと合うかもわからないしね。
「シオンだっているんだもの、まさにこういう時にサリーがレティシアのことも見てくれるから助かってるわ。逆もね。あんまり思い詰めないでよ」
「……はい」
どこかホッとした顔でサリーは頷いた。
やれやれ。
「今度のお茶会は同世代の子育てママが多いらしいから、似たような話を聞けるかもね。楽しみ」
「はい」
「……っと、サリーごめん。そろそろあっちが起きるかも。私、シオンが起きるまでここにいるからお願いしていい?」
「承知しました。後ほどお連れします」
サリーは立ち上がると、侍女の礼をして赤ん坊達の元へ向かう。
……咄嗟に出るあの礼だけは、直させなきゃなー。
すぴすぴ眠る幸せそうなシオンの寝顔を堪能しつつ、サリーのお茶会デビューに向けて教育スケジュールを検討していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「「最強騎士トーナメント……!」」
「すごいだろう?ヴィンスは天才だ!マリ姉が騎士科の学生も参加する手配をしてくれるから、俺も参加したいんだ!リヒト、セシリス嬢、協力してくれ!」
「「承知しました先輩」」
「ただ全員参加とはいかないから、騎士科でも選抜の試合とかするだろうなー」
「皆様、お強くなりましたよね。やはり現役近衛騎士方のアドバイスは違いますよ!」
「そうだな、ひとつ変えただけですぐ差が分かるのは流石だ。ありがとう、セネカ」
「身に余る光栄でございます(ミュリエル様アドバイス『騎士科の鍛錬中に警護なんていらないんだから、指導とかさせときなさいよ。贔屓とか職分とかケチ付けられないように、ちゃんと許可も取ってね』が、最大限活用されてる……)」
「……」
「セシリス?どうしました?」
「いえ、せっかくでしたらこのトーナメントにわたくしも参加したいなと」
「セシリス嬢が戦うのか?」
「違います!無理です!ではなく、先輩のサポート役として。観客としてなら見れると思いますけど、これまでの成果を間近で見たいですし、勝ち進むなら一緒に戦略を考えたいと……」
「「確かに……!」」
「でもわたくしもリヒト様も騎士科ではないですから、難しいですわよね」
「そんなことはないぞ!マリ姉に頼めば、一緒に参加させてもらえるさ!なぁセネカ」
「御意(第二王子妃殿下の仕事が増えたー)」
「ほら!安心していいぞセシリス嬢、リヒト!あ、そうだ、頼めばで思い出した。今度俺をイメージした動物のお人形を作ってもらうんだが、二人もどうだ?」
「お人形?ですか?」
「うん。シオンとルー兄がウサギで、サリーとハリーがキツネなんだ。ミュー達はクマなんだって。カイリやエリカの分も作るから、俺の分も」
「へぇ素敵ですね!一緒によろしいんですか?」
「俺が一緒がいいんだ」
「ありがとうございます!ぜひ僕達もお願いします。ね、セシリス」
「先輩、あの……」
「ん?」
「それ、一体ずつでないと駄目ですの?」
「んん?」
「出来ればその、わたくしのお人形と一緒にリヒト様のお人形も並べたいな、と……」
「!あぁ、それいいですね!僕もセシリスのお人形と並べたいです。先輩、代金はきちんと払いますので聞いてみていただけますか?」
「わかった。聞いてみよう」
「ミュリエル様からのお返事ですか」
「うん。代読、と言うらしい。読むぞ?」
「「はい」」
「『お二人のお互いを思うお気持ちは大変伝わりました。その上で問うのですが、お二人は将来結婚して一つのお屋敷で一緒に住まわれますよね?』」
「「?はい」」
「『その際、お人形はいかがされますか?ご実家に取り残す?新しい家に持ち込みますか?そうすると、新居に計4体の人形がいらっしゃることになります』」
「「……」」
「『結婚までの間に所有していたお人形は、それぞれ愛着が湧くことでしょう。お互いの持っているお人形に、差がつきませんか?どちらがどちらのお人形で、どれをより可愛がっているなど、喧嘩の元にならないかと懸念しております』」
「「……確かに」」
「『何より、お二人はご結婚まで一緒に暮らせないのに、お人形は先に一緒に並んでいると言うのは、ちょっと悔しい気がします』」
「「確かに!」」
「『お二人のご判断にお任せしますが、当家ではこのお人形は一人一体のモノとして作成してもらってます。いつか結婚した時に初めてお人形が並ぶ、その光景を楽しみにするのも良いのではないのでしょうか。そしてたまにはお人形を貸し借りして、〝お人形のお泊まり会〟をしても良いかと思いますので、ご検討ください』だそうだ。以上」
「お人形のお泊まり会!いいですね!」
「そうしましたら、先輩のお人形もお借りして、三人で持ち回るのも良いですね!」
「!俺も良いのか?」
「ええ。わたくし達人間は性別がありますのでお泊まり会は無理ですけど、代わりにお人形がしてくれたらおもてなししますわ」
「いいな!俺もトーナメントで頑張ったら、シオンの家にお泊まりするんだ!お人形もお泊まりしたらいい」
「わぁ、それは楽しそうですね!頑張りましょうね先輩!」
「うん!……あ、ごめん手紙もうちょっとあった。『お人形は、ぜひご家族やお友達にも紹介してあげてください。兄弟のお人形やご家族でセットなどもお作りしております』だって。確かに、うちはほぼ全員作るぞ」
「まあ!それでしたら、わたくしお姉様とお揃いがいいです!」
「僕は兄上達でしょうか。アサト兄様は恥ずかしがりそうなので、居間にでもセットで置きましょうかね」
「アサト兄様は恥ずかしがりなのか。ルー兄も持ってるんだ、恥ずかしいことなんてないぞ!」
「そうですよね〜。よし、サプライズで作ってもらって、驚かせましょう!」
「サプライズ、そうか!じゃあしー!だな!セネカ、しー!だぞ!」
「承知しました(めっちゃ営業入ってる……)」




