長女と甥とウサ耳長男のお披露目
さて。期せずして誕生したオッドアイと、そっくりな従弟をどう世間にお披露目するか。
普通の公爵家令嬢とその従弟の伯爵令息であれば、普通に詣で客を待てばいい。
シオンの時の詣でが普通か……?と言うのはさておき。
しかし、現在もっとも話題を浚うオッドアイのグリフィス伯爵令息にそっくりな息子と姪の誕生は、放っといたら貴族社会が炎上間違い無しである。
なので一番最初に、王家にお披露目することにした。
前回のように波状で何回も来られるのは困るので、ヴィンスと検討した選出方法を出仕するルシウス様から伝えてもらった。
「ちゃんと伝えたよ。大騒ぎだったけど、なんとか決まった」
夜、子どもたちを愛でまくった旦那様と二人だけの時間に、お膝の上で報告を受ける。
……?なんか浮かない感じ?
「揉めたんですか?」
「そりゃね。厳選三名、うち一人は肉親であるマリアベル様プラスお子様のカイリュート様に決定だもん。ユーリウス様が連れてけ!って叫ぶし、夫婦を分けて別々に選びますって言った途端ホノカ様が距離をお取りになるから、ヴィンセント様も騒いだよ」
「騒ぐから厳選したんです」
「で、宰相閣下の作られたくじ引きを引いて当のヴィンセント様と王妃陛下が当たった。ホノカ様はにこやかにしてたけど、三日間はエリカ様に会わせないとか言い出してまた大騒ぎ。あと、ヒムロ様は学生枠で連れてくと言ったら陛下が保護者としてついてく!と叫んで、直後王妃陛下が『ヒムロの保護者がわたくしでは信用ならないと仰るのかしら?』って凄むから室内が寒くなって、早々に退散してきた」
だって、あの子勝手に来そうなんだもの。
せめて責任を押し付けられる人と来てくれなきゃ……ゴホン。
「お遣いありがとうございました。それで?ルシウス様はどうして浮かない顔をしてらっしゃるの?」
笑顔のまま振り仰ぐと、夫は眉をへにょりとさせた。
「……情けない話なんだけど」
「ルシウス様が情けないのは、今に始まったことではないです全然」
「……それも情けない」
「でも情けないルシウス様も好きですよ」
「うぐ」
少し頬を赤らめたのち、渋々と話し出す。
「シオンが」
「はい」
「……お見送りの時に、泣かなくなったなと」
「……?泣かなくなったのは少し前からそうでしょ?」
「でも涙目だったじゃないか。それが今は満面の笑みで送り出すから……。ありがたくはあるけど、少し寂しい」
ギュ、とお腹に回る腕の力が強くなった。
なんてこと……!
クルッと振り向き、こちらから逆に抱きつく。
「?!」
「もう〜〜!なんなのルシウス様、ホントに可愛い!なんでそんなに可愛いの!」
心の声がダダ漏れた。
まぁ仕方ない、夫がこんなに可愛いのだから!
「うえ、ミュー、なに?」
「シオンはね、お見送りの時はレティシアとお父様の前でカッコよくしたいだけなんですよ。お父様の真似」
目を見て告げると、大きな紫の目がゆっくりと瞬く。
「……僕の?」
「ここ最近はずっとそうです。レティシアの前だと、とにかくカッコよく!って思ってるみたいで。変に気合が入ってるの。お父様みたいね〜って声掛けたらやたら張り切っちゃって。だから、行ってきますのお見送りで泣くなんて以ての外なんです。でも、馬車が見えなくなると途端にへにょっとなりますよ」
見せてあげたい、あの萎れたシオン(韻を踏んでる)。
「日中もね、レティシアが起きてる時はお兄ちゃん振ってるんです。れち、れちってちょっかい出し続けてるんですけど。レティシアが寝てるなーと思ったら、反動で甘えっ子になります。お迎えの頃は大体レティシアが寝てるから、いつも通りべったりしてるでしょ?」
「……言われてみれば、そうかも」
ふふ、と二人で笑い合った。
「ねえルシウス様。ご自分のこと情けないって思うみたいですけど、シオンにとってはカッコよくてずっと憧れのお父様ですよ。特別見栄を張るわけじゃない、今のままで一番格好良いと思われてるんですから。そこは自信を持ってくださいね」
「……わかった」
額が合わせられる。
「……ミュー、僕は格好良い?」
「もちろん。世界で一番格好良いですよ、旦那様」
私の人生で『格好良い』と思える姿は、どんな時だってルシウス様のことなのだ。
「でも、息子とどちらが可愛いかと問われたら、甲乙つけがたい」
「それもどうなの……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
王家を招待した日。
マリーはカイリを連れて、王妃陛下はヒムロを連れて、ヴィンセント様はホノカ様にエリカ様面会制限を言い渡されて少し萎れていたそうだが、それでも期待にワクワクしてサロンで待っていた。
レティシアはヴィンス達夫婦に任せ、私とルシウス様は左右からシオンと手を繋いで歩く。
シオンはニッコニコで、本当にニッコニコで、私のこともルシウス様のことも見上げてはうふふと笑ってる。
足がるんたかしてて、なんかスキップみたいに弾んでる。
時折リズムを間違えて、急に浮き上がるから私達の手に体重が掛かって怖い。
それでも「にゃは!」と喜んで、また短い足を一生懸命交互に出す……尊い!
廊下に並ぶ使用人達が、顔は微笑んだままだが拳を握ったり服を掴んだりしてるな。
頬肉噛むのは程々にね……。
サロン前で一旦停止。
「さて。シオン、ご挨拶できるかな?」
「たい!」
「良いお返事ね〜」
シオンの笑顔を見届けたノアが、こちらもいい笑顔で扉を開けた。
「皆様、ようこそアイゼンバーグ邸へ」
「公爵家一同、歓迎致します」
「ごち、よぅ!しょんよ!」
「「「「ーーーー!」」」」
三人で歩幅をシオンに合わせて入室する。
トコトコ、と頑張るシオンを見て、ヴィンセント様が耐え切れずに立ち上がった。
「シオン!ついにウサ耳が生えたのか?!」
ついにって。
まあ、見えるけどねー。
「生えてませんけど」
「生えてないわねー」
ルシウス様と目を合わせ、私は手を離した。
「たしゃ?」
シオンが私を見上げたところで、ルシウス様が脇から手を差し入れて持ち上げた。
「シオン、ぴょーん」
「!きゃは!」
ルシウス様がシオンをそのまま抱っこしたことで、背中が見える。
「あら、ウサギ」
王妃陛下が驚いた声をあげた。
そう、シオンは相棒ウサギを背中に背負っていたのだ!
ずっと自分で抱えていたが、最近はレティシアを触りたいし自分も抱っこしてほしい時にウサギが邪魔をする、と葛藤が見え出した。
苛々してるけどウサギに当たりたくなくて、涙目で唸ってる姿は本気で可愛かった……!
たまたま商談に来ていたタスクが鼻を抑えながら、「シオン様、後ろに背負いましょうか?」と簡単なおぶい紐を用意してくれた。
もちろん、間違ってもシオンの首が締まることのない安全使用。
最初に背負った時、「うしゃしゃん?うしゃしゃん??」とウサギを探してクルクル回ってたのが、また目眩がするくらい可愛かった!!
姿見で見せてようやく見付けた時も、「たしゃ!うしゃしゃんよ!たしゃ!」と興奮してる姿も……以下同文。
大きさの都合上、ウサギの耳がちょうどシオンに生えてるように見える。
タスクの緻密な計算に、全員「グッジョブ!」と褒め称えたのも当然だ。
「いや〜シオン、可愛すぎる〜〜」
「本物のウサギさんみたいよシオン」
「シオンがウサギなら、俺は何になるべきだ?」
「来て良かった……くじの右端を引いた自分を褒めたい!」
なんでかヴィンセント様は自分を褒めてる。
「しょん、かーい?」
「「「可愛い!」」」
「可愛いなぁシオン、ウサギも似合うぞ」
「うふふ!」
ウサギを背負ったままシオンはルシウス様に抱っこされ、私も夫に手を引かれながらソファに座った。
「三人だけ?レティシアは?」
「ヴィンスとサリーがサミュエルと一緒に連れてくるわ」
「まあ、楽しみだこと」
「シオンの妹なら俺の妹だな!」
「根本的に間違ってるんだぞ、ヒムロ……」
「ひーく!れちよ!」
「れち?」
「レティシア、よヒムロ」
「レティシア」
ヒムロが名前を噛み締めている時、ノックが響いた。
「ようこそ、王族の皆様。さあ!サミュエルとレティシアを連れてきたぞ、どっちがどっちか当ててくれ!」
高らかに宣言したヴィンスとサリーは、それぞれ赤ん坊を抱いてやってきた。
ようこそ、つってもあんたの家じゃない……とはもう面倒なので言わないが。
「「「当てる?」」」
王族方の不思議そうな顔。
二人は赤ん坊を抱いたままソファに腰掛ける。
レティシアもサミュエルも昼寝の最中なので、瞳は見えない。
「れち!」
「シオン、レティシア寝てるよ」
「ねんね、しー」
最近のお約束、レティシアとサミュエルが寝てたら静かにする合図。
口の前に短い人差し指を立てるけど、目測を誤り過ぎて唇に押し付けてるのがなんとも可愛い。
「くっ……赤ん坊を見たいのに、シオンが可愛過ぎて目が離せん」
「シオンは当てちゃうから駄目なんですよ。早く見て来てください、ヴィンセント様」
目を抑えてるヴィンセント様をしっしと追い払う。
「当てるってなんだ?」
ヒムロ、王妃陛下、ヴィンセント様が立ち上がって覗きに行った。
マリーはいったんカイリを私に預けてから向かう。
「ぷ?」
「カイリュート様だよシオン」
「かりゅ?」
「カイリよ」
「かり?」
二文字が限界か……。
カイリもシオンに興味があるらしく、ちっさいのとちっさいのが手を伸ばし合ってきゃいきゃいやってる。
こちらも尊い。
一方、覗き込んだ王族達は一様に首を傾げてる?
「……双子?」
「いえ違うでしょ?母親が二人いるのよ?」
「父親も二人いるぞー」
「ミューにもヴィンスにもそっくり」
「同じ赤ん坊だ。真似したのか?」
「赤ん坊は真似できないぞヒムロ……」
「サリーの力技でしょう?」
「一理あります」
「あんのかい」
ケラケラとヴィンスが笑う。
「こいつらは誕生日が三日違いの従姉弟だが、なぜか双子並みにそっくりに生まれたんだ。今はサイズもほぼ一緒だ。目を覚ましたらすぐわかってしまうからな、今のうちにどっちがどっちか当ててくれ」
「あんたはまたそうやって……自分の息子ですら娯楽な訳?」
マリーが呆れたように言うが、ヴィンスにはまったく響かない。
「……わからん、どっちだ?」
「名前からして男女なのよね?でも全然差がないわ」
「男女?どっちが男の名前だ?」
「……サミュエルが男の子よひーくん」
「そうなのか、マリ姉ありがとう」
「どういたしまして」
結果、王族の予想は半分に割れた。
「こんなにそっくりなんだがな、なぜかシオンは分かるらしい。なので起こす前に予想を聞こう。シオン、おいで」
ヴィンスの呼び掛けにルシウス様が立ち上がった。
私もカイリを抱いて向かう。
……最近レティシアに慣れてるから、生後五ヶ月は重く感じるなー。
シオンを抱き上げる時は覚悟を持って取り組むから、重いとか考えてる暇はないが。
「びー」
「シオン、レティシアはどっちだ?」
「れち?れち!」
シオンはサリーの抱いている方をレティシアだと判断した。
「……ミューとルシウス様は、どっちかわかるの?」
「「全然」」
夫婦で声が揃ってしまった。
「まあ起きてればわかるけど。寝起きで泣いてる時に抱き上げてあやすのにも、目の色を確認しないと呼び掛けられないわ。もしくはシオンに聞くか」
「そこまで?」
「わかんねーんだよなぁ。俺も寝てる間に差異を探すけど、今の所ない。……お、こっちが目を覚ますぞ」
ヴィンスの抱いてる方が目を開けた。
サリーと同じ焦げ茶色。
「おお〜、シオン当たり。こっちがサミュエルだった」
「さみゅ!」
その様子だと、ヴィンスもどっちか分からずに抱っこしてたらしい。
隣の騒ぎを聞き、レティシアも目を開け出した。
「「「「ーーーー!!」」」」
「れち、はよ!」
紫と青のオッドアイ。
王族がレティシアの瞳に驚いている間、シオンはご機嫌でレティシアに話し掛ける。
……お?
なんだか私の抱いてるカイリももぞもぞし出したぞ?
「カイリ?」
マリーも訝しげに問う。
レティシアに向かってもぞもぞするので、近付けてみた。
レティシアがカイリを見、カイリがレティシアを見つめ、手を伸ばす。
レティシアは不思議そうにカイリを見たままだ。
「「…………」」
「これは、もうカイリとレティシアをこん「気が早いです。させません!」」
ヴィンセント様の言葉をルシウス様が必死に遮った。
不敬だけどね……。
「まぁでも、オッドアイの令嬢を守るためにも王族との婚約は有益ではなくて?」
マリーが優雅に微笑むけど、ルシウス様はガルガル状態だ。
「マリー。あんまりルシウス様を刺激すると、カイリがこの家を出入り禁止にされるわよ」
「それは良くないわ。ルシウス様、忘れてちょうだいな」
「……マリアベル様のお言葉を忘れても、ヴィンセント様は取り消してないですから」
ジト目でルシウス様がヴィンセント様を睨む。
「私は取り消さないぞ!気が合いそうなら早々に結んだ方が良いじゃないか!」
「気が合うも何も、まだ赤ん坊です!」
まぁ困ったわ、夫が王太子殿下に楯突いてます!
不敬〜。
レティシアをガン見しているカイリをマリーに返して、ルシウス様とシオンの隣に戻る。
「ルシウス様、安心なさって。私がすぐに取り消させますから」
「ミュー……」
「ほう、自信ありげだな?ミュー」
面白そうな顔をするヴィンセント様に向き直って、笑顔で告げる。
「王太子殿下。当家の娘と第二王子殿下のご子息が縁を結ぶと言うのであれば、当家の息子と殿下のご息女の縁は到底結ばれませ「取り消すぞ!カイリとレティシアの縁はなしだ!忘れろ、ルシウス!ミュー!」」
ほら、撤回完了。
「ミュー……確かにレティシアの縁は取り消されたけど……」
「わたくし、シオンとエリカ様の縁が結ばれないと言っただけですの。『取り消したら結ぶ』なんて一言も言ってませんのよ?」
オホホ……とやってみたかった公爵家貴婦人笑いを見せる。
扇がないのが残念だ!
ヴィンセント様もわかってはいるだろうが、これ以上刺激をするのは良くないと判断したらしく何も言わなかった。
てゆか、王太女になる予定のエリカ様と、アイゼンバーグ公爵家の跡継ぎであるシオンが結婚とか、相当あちこち手を回さないと無理じゃない?
本人達が望むならまぁ……て感じだけど、現時点では気乗りしない。
そしてハタと思い出す。
……もしこの縁が結ばれたら、シオンはエリカ様に『君を愛することはない!』と叫ぶのかしら。
王家にそれはやめてよね〜シオン、サイアク首が飛ぶかもよ?
テンプレートな呪いが発動する可能性がある男は、少なくとも王配には確実に向いてないと思う。
ニコニコのシオンのほっぺたを突きながら、数ある未来のうち最もバッドエンドな道を選ぶなよ〜と、内心念を押しといた。




