第6回:70年代、錆びついた黄金時代——プロローグ
こんばんは、みんな。俺だ。
夜更けにこの原稿を書いてる。窓の外は雨だ。60年代の話を終えてからしばらく経った。あの熱狂を反芻する時間が必要だったんだ。でも、そろそろ次の旅に出よう。
70年代。
聞こえはいいか?「黄金時代」なんて言われることもある。でも俺にとっては、もっと錆びついた、もっと痛みを伴う時代だった。
---
■ プロローグ:楽園の後で
1970年1月1日。あけましておめでとう、なんて誰も言わなかった。
前の10年が終わった喪失感が、空気全体を覆ってた。ビートルズはもう実質的に解散していた。ジミはもういない。ジャニスもいない。ジム・モリソンも、もうすぐいなくなる。
俺はロンドンの小さなフラットで、ターンテーブルにかけたレコードの針が落ちる音を聞いてた。かけていたのはニール・ヤングの「After the Gold Rush」。
「I was thinking about what a friend had said / I was hoping it was a lie」
友達が言ったことについて考えてた。それが嘘であってほしいって願ってた。
その「友達」が誰かは、もう覚えてない。でも、あの時代の空気は鮮明に思い出せる。
希望が、ゆっくりと冷めていく感覚。
---
■ 70年代の音楽が持っていたもの
60年代の音楽が「未来への憧れ」だったとすれば、70年代の音楽は「現在の痛み」だった。
もっと具体的に言おう。
60年代のビートルズは「All You Need Is Love」と歌った。70年代のジョン・レノンは「Mother」で叫んだ。
「Mother, you had me, but I never had you」
違うだろ?同じ人間が、たった数年でここまで変わるか?——変わるんだ。時代が変われば、音楽も変わる。いや、逆か。音楽が変われば、時代も変わる。どっちにしろ、70年代は「愛」から「痛み」への移行期だった。
---
■ 錆びついた黄金
でもな、錆びついてたからこそ、リアルだったとも言える。
60年代の「花」は綺麗だったけど、すぐに枯れた。70年代の「錆」は汚いけど、長く残った。
例えば、ローリング・ストーンズの「Exile on Main St.」。あのアルバムは、フランスの別荘の地下で、半分ドラッグで廃人になりながら録音された。音は曇ってて、汚くて、ごちゃごちゃしてる。でも、そこがいい。
キースはあとで言ってた。
「完璧な音を求めるなら、別のバンドを聴け。俺たちは人間の音をやってるんだ。」
その「人間の音」こそが、70年代の本質だったと思う。
---
■ この連載でこれから話すこと
70年代編では、以下のことを掘り下げる予定だ。
1. グラム・ロックと性の革命 — デヴィッド・ボウイがやってきたことの本当の意味
2. パンクの誕生 — なぜ若者たちは「憎しみ」を音楽にしたのか
3. ディスコ vs ロック — あの「対立」の裏にあったもの
4. スタジアム・ロックの興亡 — 音楽が巨大化したとき、何を失い、何を得たか
5. そして、80年代への予兆 — デジタルがアナログを飲み込む前夜
一つだけ約束する。
綺麗な話はしない。でも、本物の話はする。
70年代を生き延びた者の一人として、あの時代の「痛み」と「錆」と、それでも音楽をやめられなかった理由を、ちゃんと伝える。
---
■ 今夜の一枚
この原稿を書き終えたら、一枚だけレコードをかけるつもりだ。
アル・グリーンの「Let's Stay Together」。
70年代の始まりの曲だ。愛の歌だけど、どこか切ない。未来を約束するんじゃなくて、「今だけでも一緒にいよう」って言ってる。
それが70年代の始まりの空気だった。
聴いてみてくれ。もし持ってなかったら、サブスクでもいい。でもできれば、レコードで。針のノイズごと聴いてほしい。
---
■ 次回予告
次回はいよいよ「1971年、ボウイが降りてきた日」。
デヴィッド・ボウイが「ジギー・スターダスト」を産んだ瞬間、何が起きたのか。そして、あのキャラクターがなぜ世界中の若者の心を奪ったのか。
70年代編、ここから始まる。
まだ少しだけ待っててくれ。
ロックンロールは永遠だ。




