第4回:1968年、転換点——すべてが壊れ、そして生まれ変わった年
みんな、待たせたな。俺だ。
前回は1967年、サマー・オブ・ラブの話をした。花と愛と音楽に包まれた、あの狂騒の夏。でも、その後に何が来たか、知ってるか?
1968年。すべてが壊れた年だ。
今回は、あの混沌の一年を、もう一人の伝説的ミュージシャンと共に振り返る。
---
■ プロローグ:楽園の終わり
1968年、1月。
俺はロンドンの寒いアパートで、ラジオから流れるニュースに耳を傾けてた。ベトナムでテト攻勢。アメリカ国内の混乱。キング牧師が撃たれ、その数ヶ月後にはロバート・ケネディも。
あの「愛と平和」を歌っていた時代が、一瞬で終わった。まるで誰かがスイッチを切ったみたいに。
音楽も変わった。ロックはもはや「踊るためのもの」じゃなくなってた。誰もが内側に向かい始めた。
---
■ ビートルズ、インドへの旅
1968年2月。ビートルズがインドのリシケーシュに向かった。超越瞑想を学ぶために。
当時、俺はポールとたまたまロンドンで会う機会があって、聞いたんだ。
「インドで何をやるんだ?」
彼はちょっと疲れた顔で言った。
「探してるんだ。新しい何かを。音楽だけじゃ足りない気がしてな。」
あの4人は、もう「ロックンロール・バンド」じゃなかった。何かもっと大きなものを求めてた。その結果が「The Beatles」だ。
あのアルバムを初めて聴いた時、俺は混乱した。ロックあり、ブルースあり、インド音楽あり、ノイズあり。バラバラで、まとまりがない。でも何度も聴くうちにわかった。
あれは「崩壊の音」だったんだ。
バンドがバラバラになっていく過程を、そのまま録音した。完成形を目指すんじゃなく、途中経過をそのまま聴かせる。そんなアルバム、今までなかった。
ジョンは後に言ってた。「俺たちは録音スタジオの中で、ゆっくりと別れていた」って。
---
■ ストーンズ、転落と再生
同じ1968年。ローリング・ストーンズにも転機が訪れた。
ブライアン・ジョーンズがバンドから事実上追放され、ドラッグと酒に溺れていく。代わりにミック・テイラーが加入した。そして彼らが出したのが「Beggar's Banquet」だ。
俺はあのアルバムのレコーディング中にスタジオを訪れたことがある。キースが隅っこでギターを弾きながら、ボソッと言った。
「ビートルズは空を飛んでる。でも俺たちはずっと地面を這ってるんだ。それが俺たちの音楽だ。」
「Sympathy for the Devil」のあの不気味なグルーヴ。ジャンピン・ジャック・フラッシュの汚いリズム。彼らは「悪魔」という仮面を被ることで、崩壊していく世界を表現したんだと思う。
---
■ アメリカ、もう一つの革命
1968年、アメリカでは別の革命が起きていた。
ジェイムス・ブラウン。「Say It Loud – I'm Black and I'm Proud」。
あの曲が持つリズムは、それまでのロックやR&Bとは完全に別物だった。ベースのうねり、ドラムの切れ味、そして何より「食い」と「タメ」の絶妙なバランス。
俺はあの曲を聴いた瞬間、身体が勝手に動き出した。
ジェイムスに直接会ったのは数年後だが、彼はこう言ってた。
「リズムは政治だ。どこにアクセントを置くかで、世界の見え方が変わる。」
1968年、黒人音楽は「踊るためのもの」から「叫びのためのもの」へと変わった。それが後のファンク、そしてヒップホップにつながっていく。
---
■ あの年、俺が見た風景
1968年の夏。俺はニューヨークにいた。
グリニッジ・ヴィレッジの小さなクラブで、ボブ・ディランがたまたまステージに上がった。バイク事故から復帰して間もない頃だ。
彼はアコースティックギター一本で、「The Times They Are A-Changin'」を歌った。でも歌詞を変えていた。
「The times, they are a-changin'… but nothing really changes, man.」
観客は笑った。でも誰もがわかっていた。あの60年代半ばの「変革の熱狂」はもう終わったんだ。残るのは冷めた現実だけ。
---
■ 崩壊が生んだもの
1968年は「終わり」の年だった。
ビートルズの結束は終わった。ストーンズの純真さは終わった。サマー・オブ・ラブの幻想は終わった。
でもな、崩壊がなければ生まれなかった音楽もある。
「ホワイト・アルバム」の混沌。
「Beggar's Banquet」の汚さ。
ジェイムス・ブラウンの叫び。
それらは全部、「綺麗なもの」が壊れた後にしか生まれなかった。
---
■ エピローグ:50年後の問いかけ
去年、ある若いミュージシャンがインタビューで聞いてきた。
「60年代って、やっぱり特別だったんですか?」
俺は答えた。
「特別だったよ。でもな、特別なのは時代じゃない。その時代にどう向き合ったかだ。」
1968年、俺たちは混乱の中で音楽を作った。答えなんてなかった。ただ「何かが違う」っていう感覚だけがあった。
今の若い連中も同じだろ?
世界はいつだって崩壊と再生の間にある。大切なのは、そのどちらの側に立つかじゃない。その狭間で、どう音を出すかだ。
ロックンロールは、その狭間で生まれる。
---
■ 次回予告
次回は「1969年、ウッドストックと終焉」だ。
あの伝説的なフェスティバルで、俺が見たもの、聞いたもの。そして「60年代」が完全に終わったあの瞬間の話をしよう。
それまで、1968年の名盤をもう一度聴いてみてくれ。
ロックンロールは永遠だ。
---
【編集部注】今回は予告通りのページ数で収まりました。引き続き、熱量と文字数のバランスにご注意ください。




