第六幕|ケインの理解
夕暮れは、裂土をさらに乾かす。
光は低く、
影は長く、
亀裂は深く見える。
鍛冶場から少し離れた石の上に、
ケインは座っている。
手の中には、欠けた円環。
割れた断面は鋭い。
指を滑らせれば、皮膚を裂く。
彼は小さな砥石を取り出す。
削る。
音は静かだ。
砂を擦るような、乾いた摩擦。
丸く戻すためではない。
欠けた部分を埋めることも、
完全な円へ戻すことも、
もう考えていない。
彼は欠け目を残す。
ただ、整える。
鋭すぎる部分を落とし、
不均衡な重みを削り、
指に馴染むだけの滑らかさを与える。
角は消えない。
だが、刺さりは弱まる。
円でもない。
直線でもない。
連続していた曲線は、
一箇所で折れ、
また曲がる。
形は、そこで呼吸を変える。
風が吹く。
粉が舞う。
だが匂いはない。
甘さは、ここではただの記憶だ。
ケインは削り続ける。
壊れた事実は消さない。
壊れた結果を、
なかったことにしない。
ただ、壊れたまま使える形を探す。
足音が近づく。
軽い。
リオだ。
彼女は少し離れた位置で立ち止まり、
手元を見つめる。
「丸くしないの?」
問いは静かだ。
「戻らない」
ケインは短く答える。
「戻す気もない」
削る音が止まる。
彼は形を持ち上げる。
欠け目は残っている。
だが先ほどのような攻撃性はない。
歪んだ曲線。
途中で折れ、
しかし断ち切れてはいない。
リオが近づく。
指先で触れる。
「冷たい」
乾いた金属の温度。
「それは、何?」
ケインは少し考える。
円ではない。
角でもない。
割れの痕跡を抱えたまま、
両方を含んでいる。
「まだ名前はない」
正直に言う。
名前を与えれば、
それは定義になる。
定義は固定になる。
いまは、まだ途中だ。
リオは形を見つめる。
「ここで使える?」
「わからない」
ケインは答える。
「でも、割れたままなら、持てる」
丸さを捨てていない。
乾燥に完全に従ってもいない。
壊れたという事実を通過して、
別の形に触れている。
遠くで、鍛冶の音が鳴る。
規則正しい、確かな打撃。
裂土は今日も直線を選ぶ。
だがケインの手の中には、
どちらにも属さない形がある。
リオが小さく息を吐く。
「変なの」
否定ではない。
未知への言葉。
夕日が沈みかける。
歪んだ輪郭が、
地面に長い影を落とす。
円では描けない影。
直線では切れない影。
その形は、まだ名を持たない。
だが確かに、ここにある。




