第三幕|初接触
視線を感じて、ケインは顔を上げた。
高台の縁に、人影がある。
逆光の中で、輪郭だけがはっきりしている。
少女だった。
乾いた髪が、風に広がっている。
結ばれていない。
結んでも、まとまらないのだろう。
片手に、角ばった木皿。
縁は直線で、角はきちんと残されている。
削られて丸くなった形跡がない。
彼女は斜面を下りてくる。
足音が軽い。
粉を踏む、乾いた高い音。
止まる。
一定の距離を保ったまま、ケインを見る。
まばたきが少ない。
観察している。
そして、言う。
「湿ってる人だ」
事実の確認。
声は平坦。
敵意はない。
珍しさも、警戒も、ほとんど混じっていない。
ただ、分類。
ケインは否定しない。
袖口に残る霧を、自分でも感じている。
彼は、この土地では異物だ。
湿度をまとったまま立っている。
シーン4:村(裂土の集落)
リオに先導され、ケインは集落へ入る。
建物は低い。
石と木で組まれている。
直線構造。
梁も壁も、角を保っている。
円窓はない。
屋根は傾斜しているが、弧を描かない。
広場のような空間に出る。
そこもまた、歪な多角形。
中心は定まらない。
人々がいる。
だが集まっているというより、
“点在している”。
器を見る。
丸いものがない。
皿は浅く、角ばっている。
水は浅い皿に入れられている。
深い器は使わない。
こぼれるからではない。
形が保てないからだ。
保存食が並んでいる。
硬い。
乾燥肉、干した根菜。
甘い匂いはない。
砂糖の光沢もない。
ケインが問う。
「甘いものは?」
リオが答える。
「溶けないから」
それだけ。
甘さはここでは広がらない。
水に落としても、溶けない。
舌に乗せても、まとまらない。
保存にも向かない。
意味を持たない。
風が通り抜ける。
匂いを運ばない風。
村の空気は軽い。
整ってはいない。
だが、崩れてもいない。
ただ、湿っていない。




