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⑧章ラストカット
甘い霧の中を、ケインは歩く。
輪郭はすぐに曖昧になる。
肩の線も、背中の角度も、
白い湿気に溶けていく。
それでも、進んでいることだけは分かる。
足音が、一定だからだ。
背後では、円がゆっくり転がり続ける。
ころ。
間。
ころ。
急がない。
止まりもしない。
誰も拾わない限り、
円は自分の形に忠実だ。
霧の粒子が光を受ける。
午後の薄い陽が差し込み、
空中に細かな点を浮かび上がらせる。
それらは一瞬、つながる。
うっすらと、輪を描く。
偶然のはずだ。
だが、どこを見ても
丸い軌跡が残る。
世界は、形を忘れない。
ナレーションが落ちる。
乾きはまだ見つからない。
だが歩くことはできる。
直線は、転がらない。
ケインの姿は、やがて霧の奥へ沈む。
背後の城門も、円も、音も、
湿気に包まれて薄くなる。
最後に残るのは、空気の重さ。
湿度は高いままだった。




