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第五章「旅立ちは湿度80%」①城門という境界
城門は、開いている。
閉める理由がないからだ。
内側には、積み上げられた円環。
王子。
試作。
規格品。
贈答用。
大きさごとに整列し、光を受けて、同じ艶を返す。
角がないというだけで、こうも静かになるのかと、誰かが感心したことがある。
崩れない。
崩れる理由がない。
外側には、甘い霧。
森と街道の境目を曖昧にする、白い湿気。
輪郭はあるはずなのに、線が溶ける。
匂いは、砂糖を溶かした湯気に似ている。
息を吸えば、喉の奥がわずかに重くなる。
湿度は高い。
乾きは、確かに存在している。
だが、居場所を失っている。
ぱきり、とした空気は、ここでは浮く。
すぐに周囲と馴染まず、異物になる。
ケインは門に立つ。
背後には円。
前方には霧。
彼だけが、直線のまま。
背筋が伸びているわけではない。
ただ、曲がっていない。
風が吹く。
円環のいくつかが、かすかに転がる。
音は小さい。
規則正しい。
霧は動かない。
ただ、厚みを変える。
境界は、はっきりしているようで、どこにも線が引かれていない。
それでも、ここが境だと分かる。
直線が、そこに立っているからだ。




