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⑧章ラストカット
広大な麦畑が続いている。
地平線まで、金色。
風が吹く。
穂が揺れる。
さざ波のように、同じ方向へ倒れ、
同じ速度で戻る。
音はやわらかい。
乾いた擦過音のはずなのに、
どこか湿りを帯びている。
鳥が一羽、上空を横切る。
視点が上がる。
畑は模様になる。
区画ごとに刈られ、
道が縫い、
水路が走る。
その全体が、ゆるやかな輪を描いている。
偶然のはずだ。
だが、うっすらと。
円環状。
中心は空いている。
そこだけ、色が薄い。
風は止まらない。
穂は揺れ続ける。
甘さは風に乗った。
年輪は水に浮いた。
世界は静かに増えている。
遠くで、川が光る。
森は実り、
市場は箱を積む。
赤子は整い、
城は報告を受ける。
最後に、声は落ちる。
経過は観察されない。




