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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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29/90

⑤観察の不在

経過は観察されない。


医師は帳面を閉じる。

商人は箱を積む。

母は静かに眠る子を見下ろす。


問題がないから。


熱は出ない。

腐らない。

崩れない。


不利益がないから。


収穫は増え、

輸送は滞らず、

乳児はよく眠る。


便利だから。


丸い作物は積みやすい。

均一な艶は売れやすい。

泣き止む赤子は育てやすい。


観察とは、異常があって成立する。


逸脱。

誤差。

破損。


それらがあって、初めて目は留まる。


だが世界は、整っている。


甘さは適切。

空洞は均衡。

層は均一。


誰も立ち止まらない。


立ち止まる理由がない。


川は輪を運び、

森は丸い実を落とし、

市場は箱を重ねる。


赤子は整い、

母は安心し、

医師は頷く。


経過は観察されない。


異常を感じない世界では、

変化はただの改善に見える。


甘い匂いは、もう背景だ。


風はそれを運び続ける。


世界は、静かに増えている。


だが、それを測る者はいない。

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