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年輪はまだ柔らかい  作者: 南蛇井


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③経済と倫理の転換

市場は朝から賑わっている。


木箱の蓋が開き、布がめくられる。


並ぶのは、丸い作物。


例年の歪みがない。

大きさが揃い、表面は均一。

指で撫でれば、しっとりとした抵抗がある。


商人が一つ持ち上げ、光にかざす。


「扱いやすいな」


それは感想ではなく、評価だ。


転がしても止まる。

積み上げても崩れない。

互いに傷をつけない。


箱詰めがしやすい。


隙間が少ない。

緩衝材が要らない。


蓋を閉じれば、ぴたりと収まる。


輸送効率が良い。


馬車の揺れにも耐え、

湿気にも強く、

遠方の都市まで形を保つ。


第二章で囁かれた「箱」が、

今や町のあちこちで使われている。


木工職人は寸法を統一し、

商人は規格を決め、

値札は大きさで揃えられる。


世界は静かに、規格化へ進む。


丸さは利便になる。


均一さは価値になる。


倫理的疑問は出ない。


腐らない。


甘い。


保存可能。


すべて利点だからだ。


損をする者はいない。


むしろ、利益が増える。


子どもは甘い実を喜び、

老人は長持ちする保存食に感謝する。


誰も問わない。


なぜ丸いのか。

なぜ中央が薄いのか。


市場は回る。


箱は積まれる。


甘さは広がる。


世界は、便利な方向へ整っていく。


それが正しいかどうかを、

確かめる必要はまだない。

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