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⑧章ラストカット
玉座の間は静まり返っている。
豪奢な天蓋。
磨かれた床。
重厚な赤い絨毯。
甘い匂いが、均一に漂う。
王子の円は玉座に立てかけられている。
艶は保たれ、層は崩れない。
その少し手前、ヒロインはしっとりと佇む。
頬に淡い光を宿し、指先はやわらかく丸い。
そして、中央。
レティシアの完璧な円。
誤差のない外周。
過不足のない空洞。
放射状に整った衣の線。
三つの円。
均衡。
完成。
静止。
その中心に、ケインは立っている。
直線。
肩は閉じず、
背は曲がらず、
影はまっすぐ床を横切る。
甘い匂いは彼を包むが、
染み込まない。
吸われない。
広間は美しい。
過不足がない。
整っている。
だが、一本の線がそこに残っている。
誰もそれを指摘しない。
誰も命じない。
ただ、在る。
ナレーション:
甘さは広がった。
だが、乾きは残った。
そして円は、完成した。




