守りたい世界のすべてに、感謝を
ペンダントは光に包まれて、消えてなくなった。
……よかった。
これで、フレッドさんとそのお母さんが、やすらかに眠れる場所に旅立てたのなら。
「ルーン様。感謝いたします」
「こちらこそ。私と闇の竜を救った、その心の強さと優しさに感謝します」
頭を深く下げてお礼を言ったが、直後にお礼で返された。
うわあ。神様にお礼、言われちゃったよ。
なんかもう……なんて言ったらいいかわかんねぇよ。
そして、ルーン様のそばに大人しくしているノックスを見上げる。
……よかったな、本当の居場所が見つかって。
ルーン様のそばこそ、お前の居場所だよ。
「なにを言うか」
「えっ」
ノックスが、くるっと俺のほうに首をむけて、言った。
「我が居場所は、主のもと以外にありえぬ」
「へ……え!? で、でもそれじゃ、お前はまた――」
「我の居場所は、我自身で決める。また、邪竜だなんだと愚かな人間どもに騒がれるのも目障りだ」
不機嫌そうに、強風レベルの鼻息を吹きつけた。
「主が責任をもて。我が力を、正しく導くのだ。命がある限り、な」
ノックスのその言葉が、頭の中を駆けめぐる。
……俺が、ノックスを導く存在に?
「それがいいでしょう。もし人の心に乱れが生じたときは、私が救いましょう。闇の竜は、そなたに託します」
ルーン様が、言った。
お、俺が……世界の均衡を保っていた、神に等しいドラゴンの身元保証人?
やばい言葉ばっかり並んでるな。
――深呼吸を、一回。
「はい。おまかせください! 私の寿命が尽きるまで。その前に、次の守護者を見つけてみせます!」
目を閉じたルーン様が、ゆっくりと頷いた。
「必ずや見つかるでしょう。そなたと同じ、真の力を宿す者が。見守っていますよ……いつまでも」
優しい言葉を残して、ルーン様がまばゆい光に包まれる。
そして、次に目を開けたときには、いなくなっていた。
……ありがとうございます。どうか、末永くよろしくお願いします!
深々と頭を下げ、それから、スカッとした気分でノックスを見上げる。
「ありがとな、ノックス」
「……ふん。さっさと我を戻せ」
ノックスが、首を下げて顔を俺に近づけてくる。
俺は、右手でそれに触れようとして――両腕を回して、抱きついた。
これからも、よろしく。
「……愚かなり。だが……それでいい」
ノックスが、心から笑っているような、そんな声が聞こえた。
◇◇◇
ノックスを指輪に戻して、これで一件落着。
……で、いいのか?
「ポルテ様」
呼ばれて振りむくと、アシュリーさん、ローワンさん、それにルーファス先生がそばにきていた。
アシュリーさんとローワンさんは、なぜか神妙な顔で背筋をのばし、こちらを見ている。
「どうし、ました?」
「…………」
すこしの沈黙のあと、二人は――
「申し訳、ありませんでしたっ!」
腰を90度曲げて、頭を下げてきた。
え? えっと……意味わからん。
「我々は、ポルテ様のことを勘違いしておりました!」
「見下すような態度と発言をした件、どうかお許しください!」
……そう言われても。
「えっと……そうだったんです、か?」
「えっ?」
ローワンさんとアシュリーさんが、同時に声を発して顔を上げる。
「見下すような態度と発言って? そんなの、された覚えないんですけど……なぁ? いつされたっけ?」
隣にいる、呆れたように目を細めて腕を組んでいるライリーさんを見て、聞いた。
「お前に覚えがねぇんなら、それでいいんじゃねぇの」
ライリーさんがそう言って、その後ろにいるルーファス先生が苦笑しながら頷いた。
うん……? まぁ、いいならいっか。
「ってことで。お二人とも、気にしないでください」
ローワンさんとアシュリーさんのほうをむいて言うと、二人は背筋をのばし、ぐっとなにかをこらえるように歯を食いしばった。
「なんて器の大きい……! 感服いたしました!」
「ええ、本当に……! ポルテ様のおっしゃるとおり、ジェイド様のようにではなく、自分たちらしい強さを追いもとめます!」
「そのとおりです! アルケミリアを守る一員として、欠かせない存在になってみせます!」
二人は敬礼して、高らかにそう宣言した。
おお。よくわからないけど、大きな目標ができたみたいだな。よかった。
「よろしくお願いします。一緒にがんばりましょう!」
締めに、感極まって泣きそうな顔をしている二人と、順番に握手。
楽しみだな。この二人、とんでもない強者に化けるんじゃないか?
俺も負けていられないな。
「さぁ、用は済んだね。帰ろうか。アルケミリアへ」
「はい!」
ルーファス先生の掛け声で、馬車をつかまえるため市場の方向へと歩きだす。
……の、前に。
一旦止まって、がれきだらけの、けれど温かい光が降りそそぐ礼拝堂跡地を振りかえる。
――ありがとうございました。
心の中で言って、一礼。
そして、前をいくみんなのもとへ駆けよった。
◇◇◇
アルケミリアに帰還してから、およそ一か月後。
俺は一人、緊張感あふれるある場所で、ひざまずいていた。
赤いじゅうたんの上。その先の数段高い位置に玉座があり、豪奢な正装をまとった女王様が座っている。
そう。ここは、王宮。
いわずとしれた、女王陛下の謁見の間だ。
壁ぞいには、わずかな重臣らしい人たちと、近衛騎士が並んでいる。
その壁にあるものを見て……驚いた。
首を下げたドラゴンと、それに触れようとしている人が描かれたタペストリー。
これが、ローズさんが言っていたもの。
千年前の救世主、レリエルスとノックス――ノクスヴァルドを描いたものなのだ。
なんかもう……感動と緊張がまざって、いい意味で心がぐちゃぐちゃなんですけど。
「ポルテ・リベルテ」
「はっ」
呼ばれたら、すぐに返事。
ライリーさんの声かけで、改めて礼儀作法をきっちり教えてくれたコーデリアさんの教えその一だ。
「今日から賢者の一人として、アルケミリアを守り導く存在となれ」
「……はっ!」
再度大きめの声で返事をした後、わずかに顔を上げる。
玉座の下に、なにかを掲げるようにもっている重臣が一人。
その人が、俺のほうに歩いてこようとした。
――が、そのとき。
布がすれるような音。
女王様が、玉座から降りたのだ。
重臣や近衛騎士たちが息をのむ。
女王様が、重臣が掲げていたもの――金色に輝く勲章を手にとり、こちらに近づいてくる。
呆気にとられている間に、女王様が目の前で膝を折り、俺の胸に勲章をつけた。
「自由であれ」
こっそりと、耳元で告げられる。
……ど、どうしよう。キャパオーバーなんですけど。
こんなの教わってない! このあとどうすりゃいいの!?
俺が、ヒレが動かないように必死に耐えながら混乱している中、女王様はゆっくりと玉座へと戻っていった。
ファサッと音がして、女王様が座ったのを見て、再び頭を下げる。
「……み、身に余る栄誉にございます。女王陛下のため、アルケミリア王国のため、力を尽くしてまいります!」
「ああ。期待している」
女王様の返事を聞き、改めて深く頭を下げる。
そのとき、胸元に光る勲章が見えた。
円形で、中央に国章。
それから、ポルテ・リベルテと刻まれている。
自由を意味する俺の名だ。
こんな栄誉は、他にない。
託されたこの勲章を、胸を張って守りぬこう。
◇◇◇
解放され、外に出ると、そこにはライリーさんがそわそわしながら待っていた。
「粗相――」
「してねぇよ」
開口一番、それはねぇだろって。
組んでいた腕を下ろし、ふう、と安心したように息を吐いたライリーさんを見つつ、苦笑する。
「なにつけてんだよ。しまっとけよ」
「え、でもこれ、陛下に直接つけてもらったものだし。王宮が見えなくなるまではつけておいたほうがいいんじゃ……って、ライリーさん?」
俺の言葉の途中から、額に片手をおいて首をそらし、空を見上げた。
「やらかしてんじゃねぇか」
「俺のせい!? 違うから! 女王様が急に近づいてきて、つけてきたんだよ!」
「なんでだ……? なんでお前のときはそんななんだ? あのお方は……」
ライリーさんの嘆きには、首を傾げるほかなかった。
察するに、ライリーさんの知る女王様は、やはり強権的な面が強いお方なんだろう。
……勲章を胸につけたときのお顔は、まるでいたずらに成功した少女のようだったけどな。ここだけの話。
「まぁ、いいけどな……で? どうだ?」
「なにが?」
「その勲章もらって」
……聞かれて、思いだす。
今の、ここに到達するまでにあったことが、次々と頭の中で流れていく。
生まれ故郷のシャルマンにいた頃。
アルケミリアに来たばかりの頃。
魔導祭で優勝したとき。
数々の難敵とぶつかり、倒してきたこと。
……かけがえのない友人との出会いと、別れ。
すべてが、俺の胸の中にある。
そして、この指輪にも。
「……最高だよ。ライリーさん」
ライリーさんと体ごとむき合って、言った。
「俺のこと拾ってくれて、ありがとう! ライリーさんが一番ありがとうだよ!」
満面の笑顔を浮かべて。
「一番ありがとうってなんだよ。意味わかんねぇんだけど」
「ニュアンスでわかるだろ!?」
「……まぁ、な」
ライリーさんが、俺に拳を差しだしてきた。
「こちらこそ。よくついてきてくれたな……ありがとう」
「……! ああ!」
嬉しさのあまり、ヒレをぴょこぴょこ動かしながら、俺の拳をぶつけた。
そして、快晴の空を見上げる。
――ここが、俺の世界。
俺が選んだ、俺の世界だ。
本話をもちまして、本編は完結となります。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回からは、後日談や別視点のお話を、少し間隔を空けながら更新予定です。
引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。
番外編第1話は、来週火曜日の20時頃の更新を予定しております。




