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追放されたタコの獣人、海の賢者として覚醒する 〜異国で勇者と公爵令嬢に見出され、大賢者へ〜  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
八章 白翼の神と邪竜編

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悲しい叫びに直面したので望みを叶えてやった、けどわけがわからない

 対したトラブルもなく、無事に国境を越えてやってきた。


 ルーンベルク。


 ……フレッドさん。それから、フレッドさんのお母さん。着いたぞ。


 心の中でそう言いつつ、胸ポケットに入れているベンダントに、服の上からそっと触れた。


 馬車から降り、俺は目を丸くした。



「すーげぇ……にぎわってんな?」


「たしかに」



 横に立つライリーさんも、意外そうに、興味深そうにあたりを見回していた。


 検問所を越えてしばらく行った先に市場があって、大勢の人が行きかっていた。


 ……戦争で負けたばっかの国、なんだよな?


 国王が退位して、混乱しているはずじゃないのか?


 しかしまぁ、それでも人々は生活していかなきゃいけないからな。必死に元気を振りしぼっているだけかも。



「教団が倒れたせいだろうね」



 想定していたのか、平然とした顔でルーファス先生が言った。



「教団が?」


「そういうことか」


「え、いや、どういうこと?」


「奴らは民衆にとっても厄介な存在だった、ってことだよ」



 ライリーさんに言われ、やっと俺も理解し「ほお」と声をもらした。


 教団は、異端者を排除してきた。


 意味不明にも、獣人がそれに加えられてしまった点からも察する。


 国のトップですら逆らえなかった教団。民衆は、もっとそうだろう。


 教団が倒れ、国王が退いた件は、民衆側から見たらもう、「解放感半端ない!」……ってところか?



「自由に……なんて、夢みたいね」


「本当!……おばあちゃんが言ってた……ルーン様が……って」



 ぼんやり聞こえてきた、慣れないルーンベルクの言葉に、聞き耳を立てる。


 なんとなくだが、「おばあちゃん」と「ルーン様」って言葉は聞きとれたぞ。



「ルーン様って?」


「さぁ? この国の……とか? よくわからない」



 この国の……? なんて言ったんだろう。


 っていうか、ルーン様を知らないのか? この人たち。


 悪しき教団が崇拝してきた神だから、良いものだと思っていないせいなのか?


 いやいや。ルーン様は、元は光り輝く美しい慈愛の神様だったんだぞ!


 ……って、よく知らない俺が心の中で言っててもしょうがないか。



「では、私は統治者とお会いしてくるよ。ライリーとポルテくんは町を見学しているといい」


「いいんですか?」


「念のため言っておくけど、『ルーンベルク国内の現状視察』という名目でね」


「肝に銘じておきます!」



 ルーファス先生に敬礼。


 アシュリーさんとローワンさんの二人を連れて去っていく先生を、見送った。


 さぁて、どこに行こうかな!?


 ……じゃなくて。



「フレドリックの家、どこらへんかわかるのか?」


「まさか。一応、ルーンベルクの中ならどこでもいい……ってわけにはいかないか?」


「どうだかな。けど……あいつなら許すかもな」



 ライリーさんは、上着のポケットに手を入れて苦笑していた。


 さすがに、人の通りが激しい場所――埋めた上を大勢の人が通るような場所は、どうかと思う。


 ライリーさんとすこし移動して市場から出て、人気のないところにやってきた。


 すぐそばには、木が鬱蒼と茂っている森がある。


 森の入口付近なら、そうそう踏みつけられはしないだろう。



「ここらへんかな」


「いいんじゃねぇの」



 土を掘る道具は持ってこられなかったので、そばに落ちていた木の枝を代用して、なんとか掘っていく。



「あれは……」


「どした?」



 俺が必死に穴を掘っていると、手伝わずに突っ立っていたライリーさんが、不審そうな声をあげた。


 その視線の先には、寂れた廃墟のような建物。


 ……うん? なんか、どっかで見たような。



「礼拝堂じゃねぇか」


「え?……え!? 魔王もどきと戦った、あの!?」


「魔王もどきってなんだ」



 木の枝を放りなげ、その廃墟に近づいてみる。


 外観は、正直あまり覚えがないけれど、割れた窓ガラスの隙間から中を見てみて、確信した。


 まちがいない。あの礼拝堂だ。


 あの不気味な像も、倒れてしまっているけどそのままだ。



「こんなとこにあったんだな……」


「市場の目と鼻の先じゃねぇか……監視してたんだな」


「いやいや。本来はアレだよ。清く正しい宗教団体だったから、民衆に寄りそうように近くに建てたんじゃねぇの?」


「昔はそうだったんだろうけどな」



 ライリーさんが、がれきを足で蹴とばしながら、中へと入っていく。



「え、ちょ、勝手に入っていいのかよ!?」


「いいだろ別に。廃墟なんだから」


「待てって!」



 廃墟でだれもいないからって、勝手に入ったらだめなんだぞ! 普通に不法侵入なんだぞ!


 と、心の中で叫びながらも、ずかずか中へ入っていくライリーさんを追いかけた。



「清く正しい宗教……なぁ。ポルテ」


「なに?」


「ノクスヴァルド――じゃなくて、ノックスか? あいつはどうしてる?」


「どうって、別に? なんの反応もないけど」


「なんで」


「なんでと言われても」


「ルーンとかいう神は、あいつの相棒だったんだろ? その本拠地がこんなになって、なんとも思ってないわけねぇだろ」


「思ってるよ。あいつも心痛めてる。正直会いたくないって……」



 そのとき、奥のほうで妙な気配。


 胸の奥がざわつくような感覚がして、視線をむけた。


 倒れた像のそばに、だれかが座っている。


 人の形をしている。けど、動かない。


 ……いや、待て。ここに入ったときはだれもいなかった、よな?



「ひえ!?」


「あ?」



 急激なホラーな展開に、思わず飛びあがった。


 その人は、倒れた像を悲しそうに見つめている。



「ひどいじゃないか」



 俺はとっさに、耳を手で覆った。


 ――言葉が、直接頭の中に流れこんできているような感覚。



「私だって……こうなりたくてなったわけではないというのに」



 ひび割れたような、耳障りな声だった。


 その人が、こちらをむいた。


 白目と黒目が、普通の人間と真逆になっている。


 背筋に、ぞわりと激しい寒気が走る。



「愚か者」


「!?」



 ノックスの声がした。


 ――次の瞬間。


 突然、目の前に黒い波が出現して、俺を飲みこんだ。




 ◇◇◇




 気づくと、そこは白黒の世界だった。


 え!? なに!? ここどこ!?


 ……声に出したつもりだったが、聞こえなかった。


 なにが起こったんだ!? ライリーさんは!?……おーい!?



「すまない。アーネスト」



 混乱していると、だれかの声が聞こえてきた。


 ベッドに横になっている、一人の男性の姿がぼんやりと見えてきた。


 高齢の男性のように見える。


 さらに、その脇にだれかが立っている。


 こちらも高齢だが、背筋がのびているし、前者ほど老けてはいない。



「お前に大きな負担をかけることになってしまうとは……不甲斐ない」


「なにをおっしゃいます。喜んでお引き受けいたします」


「……ありがとう」



 ベッドに横になっている人は、とても弱々しい声をしていた。今にも死にそうな声だ。


 返事をした人は、悲しそうに目を閉じ、拳を握って必死に震えをおさえようとしているように見える。



「すまない。ノクスヴァルド」


「……っ!?」



 その名を聞いた瞬間、俺は息をのんだ。



「お前にも、相当窮屈な思いをさせてしまうだろう」


「かまわぬ」



 ……ノックスだ。


 姿はどこにもないけれど、声ははっきり聞こえる。



「致し方なきことだ。主の想いに、我も同意する」


「……ああ。ありがとう」



 ベッドに横になった人は、一度目を閉じ、再び瞼を震わせながら開けた。



「いつか……どれくらい先になるかはわからないが。きっと……お前の力を正しく導く者が現れる。それまでの辛抱だ」


「……信じるぞ。その言葉を」


「ああ……頼んだ、ぞ……」



 ベッドの人が、ゆっくりと、目を閉じた。


 それにすがりつく、別の人。


 ――声は、もう聞こえなかった。


 直後に、またあの黒い波に襲われて、なにも見えなくなった。




 ◇◇◇




「……えっ?」



 次に気づくと、そこは元の旧礼拝堂だった。


 ……今のは、なんだ? 夢か?



「こちらにいました!」



 そばで、だれか――ローワンさんの声がした。


 直後、駆けつけてくるライリーさん、ルーファスさん、アシュリーさん。



「ポルテ! てめぇ今までどこに行ってやがったんだ!」


「どこって、別にどこにも――」


「そんなわけねぇだろうが! 急に姿消しやがって!」


「落ちつきなさい、ライリー。とりあえず、無事でよかった」



 俺に食ってかかろうとするライリーさんを、ルーファス先生が彼の肩に手をおいてなだめようとしている。


 ……意味がわからないぞ?


 俺は、突然姿を消したことになっているようだ。


 なんで?


 と、いうか、今のあれはなんだったんだ?



「わからないのか。私の半身を奪った不届き者……レリエルスが死んだときの光景だよ」



 ライリーさんの背後、倒れた像の前にいる人が、言った。


 レリエルス?


 って、え? は?


 ……なんだそれ!? 俺は約千年前の映像を見せられていたとでも!?



「あの者のせいで……私は!」


「おい! 聞いてんのか!」



 像の前にいる人の声と、ライリーさんの怒鳴り声がほぼ同時に響く。


 ……なんで?


 ライリーさんたちには、あの人が見えてないとでも言うのか?


 待って。もう無理だ!


 わけがわからなすぎて、思考回路が破綻しそうだよ!


 ――直後。



「……っう!?」



 ズン、と、重力が急に増したかのような、なにかにのしかかられるような感覚。


 その正体は、すぐにわかった。



「出せ」



 ノックスだ。



「出せって……! ここでか!?」


「あ? お前なに言ってんだ」



 急にうろたえだした俺を見て、ライリーさんが険しい顔をしつつ、反射的に一歩下がる。


 ……どうして急に?


 まさか、ノックスも今の映像を見ていたのか?



「早くしろ! 契約を守らぬか!」


「……っわかった」



 左手で指輪に触れてから、ライリーさんたちのほうにむいた。



「ノックスを出すから」


「はぁ!? 急になに言ってんだ!」


「しょうがないんだよ! あいつが望んでるんだ。それが契約なんだよ!」



 そう言って、ライリーさんにつかまれた手を払い、走ってすこし距離をおいた。


 指輪を上げて、解放の呪文を詠唱。


 そして。



「現れよ、ノックス!」



 直後に、再びとてつもなく重いなにかが落ちてくるような――重圧。


 ……変だな。


 初めて解放したときは、懐かしいような温かささえ感じたのに。


 今は、なぜか悲しい。



「じゃ、邪竜……!?」


「ま、まさか……本物……!?」



 ローワンさんとアシュリーさんが、ノックスを見上げつつ、風圧にのけ反って驚いている。


 ルーファス先生も、似たようなリアクションをしていた。


 けれど、ライリーさんだけは一度見たことがあるせいか、顔の前に腕を上げて強風に耐えているだけだった。


 ……やっちまった。


 どうしたんだよ、ノックス。なんでそんなに、悲しそうなんだ?



「このまま仮の姿でいつづける気か」



 ノックスが、目線の先にいるもの――像の前にいる人に、語りかけた。


 よかった。お前には見えているのか。


 不敵な笑みを浮かべる、その人。


 瞬間、その体がドロリととけて、泥のようになった。


 ――重圧。


 空気が沈む。


 現れたのは、ノックスと同じくらいの背丈の巨人。


 そして、ノックスが低い声で吐きすてた。



「……堕ちたものだな」

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