勘違いをしているようなので指摘してみた
ジェイドさんが推薦した騎士団の二人とは、意外な人たちだった。
「アシュリー・ビヴァリーと申します。それから――」
「ローワン・ビヴァリーと申します。このたび、お三方の護衛役に任命されました」
「よろしくお願いいたします!」
最後のあいさつは、二人で一瞬アイコンタクトをしてから、敬礼して合わせていた。
なるほど、そういうことか。
ビヴァリーとは、ジェイドさんと同じ家名だ。つまり、出自が彼と同じ一族。
二人ともかなり若そうに見えるけど、ジェイドさんとはどういう関係なんだ?
「ビヴァリーっていうと……ジェイドと同じ一族か」
「は。甥と姪にあたります」
ローワンさんが答えた。
結構血縁関係近かったんだな。顔はどちらも、全然似ていないけど。
ローワンさんは、ジェイドさんのようなごつい感じはないが、鎧ごしでもわかるほど鍛えぬかれた体躯をしている。
アシュリーさんは、細身ながらしなやかに引きしまった体つきをしている。背丈もローワンさんとほぼ同じ、ライリーさんよりすこし低い程度。
声も似ている気がするし……もしや、双子か?
それにしても、珍しいな。
「よろしくお願いします。っていうか、女性の騎士なんていたんですね」
そう言った瞬間――アシュリーさんとローワンさんが目を見開いて固まった。
あれ。言ったらまずかった?
「女性って、だれのこと言ってんだ?」
「え? アシュリーさんだけど。すみません、まちがいでしたか?」
「……いえ。そのとおりで、ございます」
アシュリーさんが肯定すると、今度はライリーさんとルーファス先生が目を丸くした。
彼女は、その視線に耐えられなくなったのか、手を後ろにまわしてすこしあごを引き、視線をずらした。
「……そうか。ジェイドと同じ一族だから、特例が認められたってことか」
「おっしゃるとおりでございます」
「ジェイドさんと同じ一族だから、って?」
「ビヴァリー家は、代々優秀な騎士を輩出してきた名門一族なんだよ。だからこそ……大変な苦労をしてきただろうね」
「ご心配には及びません。どうか、お気になさらず」
アシュリーさんが、表情を変えずに最敬礼をする。
なるほどなぁ。ジェイドさんのお家事情にそんな背景があったとは。
しかし……この二人、なんかよそよそしいな。
別に俺たち、高身分の貴族じゃないんだけど。意識的に距離をとっているのか?
護衛役は、必要以上に警護対象と仲よくなったらいけない、みたいな規定があるのかもしれないな。
考えていると、ライリーさんに肘で軽く突かれたので、そちらをむいた。
「よくわかったな?」
「いや、わかるだろ。名前が女の人っぽいじゃん」
「そうか?」
ライリーさんは、不思議そうに腕を組んで首を傾げていた。
俺こそそうしたい気分なんですけど?
こちらの世界では、「アシュリー」は男っぽい名前なのか? 軽くカルチャーショックなんですけど。
あいさつはほどほどに、手配した馬車に乗りこんで、ルーンベルクにむけて出発した。
御者台にローワンさんが乗り、アシュリーさんが俺たちと一緒に座席に乗っている。
「ポルテくん。ルーンベルクについての勉強は完璧かな?」
「完璧……とは言えないかもしれませんが。コーデリアさんが集めてくれた資料のおかげで、いろいろ知りました」
「そう。まぁ、基本的な部分だけでも頭に入っていれば問題ないだろう」
ルーファス先生が、にっこり笑顔で言う。
基本的な部分、かぁ。歴史をちょろっと調べただけなんですけど、大丈夫かな。
「君の目的は把握しているけど、本来は復興支援の具体的な内容の精査のためにいくんだ。
旅行気分は今のうちになくしておくようにね」
「はい、もちろん。で……それ、具体的にはなにするんですか?」
「簡単に言うと……まず、統治者と会合して、どこで我々の手が必要かを整理する。
そして、こちらでできることをまとめて、国に帰って報告。そんな感じかな」
「統治者? 国王、ですよね?」
「あちこちから非難されて、早々に退いたんだとよ。戦争の責任を一手に負わされたんだろ」
ライリーさんの補足に感心して、「へぇ」と声をもらした。
つまり、今は仮というかたちで、国をまとめる役を担っている人がいるのか。
あの弱腰国王、王座にこだわり強そうな雰囲気だったけどな。
あとで改めて選挙的なものが行われるのだろうが、もしかしたら王政が廃止される可能性もあるかもな。
……問題、山積してるなぁ。俺たちにできる支援って、なんだろう。
っていうか、宣戦布告してきた相手を支援ってさぁ。裏にドロドロした政治的目的が見え隠れしているんですけど。
「しかしまぁ……この役に抜擢された件は驚いたけど、よかったよ。
ルーンベルクの実地調査はぜひともしておきたかったんだ。我らがアルケミリアの――例の件を含めた歴史を調べるためにもね」
聞いたときはわからなかったけれど、しばらくして「ジルドレの魔女狩り」のことじゃないかと思いついた。
先生、国にとって都合の悪い話があきらかになってもかまわない、と意気込んでいたもんな。
「やっぱり、戦争のせいで滞ってた感じですか?」
「そうでもないよ。君の中に眠るドラゴンの存在があきらかになったしね」
ああなるほど、と思ったけれど、なぜかルーファス先生が身を乗りだしてきたので、すこしのけ反った。
「そのドラゴンについて、詳しく知れたらありがたいんだけどねぇ」
「いいですよ。よければ、ノックスに教えてもらったことをお話ししますよ」
そう言うと、ルーファス先生は意外そうに目を丸くしていたが、さっそく手のひらサイズのメモ帳とペンを取りだして、聞く体勢になった。
あいつには、むしろ話しておけって言われてたからな。ちょうどいい。
「……ルーンベルクの神と対をなす存在……そうか……そういうことか……!」
俺の話を聞いたあと、ルーファス先生は一人で納得した様子で、ぶつぶつ言っていた。
「今の話、いつどうやって聞いたんだ?」
「夢の中だよ。ノックスはいつも夢の中で話しかけてくるんだ」
「では、それはただの夢、妄想であって事実とは違うともとれるのでは?」
「そうなんですよね。そこが非常にあいまいでして。ルーファス先生、鵜呑みにしないでください?」
「…………」
だめだ。先生、メモを見ながら自分の世界に入ってて反応がない。
けど、俺はどうしてもただの夢だとは思えないんだよな。
ノックスのあの話は、とても重くて現実味があった。
……まぁ、夢の中の出来事に現実味があるっていうのは、矛盾しているかもしれないけど。
「なかなか鋭い指摘するじゃねぇか、一端の騎士が。
今回の件に抜擢されたのもあるし、ジェイドの奴にずいぶん目をかけてもらってるようだな?」
ライリーさんが、なぜか不機嫌そうに足を組みかえて、背中をすこしそらしてアシュリーさんを見た。
……え? 急にどうした?
「そんなことはありません。私とローワンは、つい最近になってやっと騎士団員の称号を得られたばかりですし。ジェイド様からは、むしろ……」
そこまで言って、アシュリーさんはなぜか恥じらうように視線を外し、唇を噛んだ。
むしろ?……むしろ逆、とか?
「ジェイドさんに厳しくされてるんですか?」
「……いいえ。特に指導などはいただいておりません。志願したことはあるのですが」
「見放されたか」
「……っ」
アシュリーさんが立ちあがりかけて寸前でこらえ、咳払いをして座席に深く座りなおした。
……おいおいおい? ライリーさん、なんでアシュリーさんにそんなケンカ腰なんだ?
「ライリー」
「……けっ」
ルーファス先生にたしなめられて、つまらなそうにそっぽをむく。
なにかあったんだろうけど……うーん、わからん。
会ったばかりの人と、いつの間に確執が生まれたんだ?
考えながら前を見ると、悲しげに俯くアシュリーさんが目に入った。
……うわ、これマジで落ちこんでるやつ。まずいまずい。
「あ! あれじゃないですか? かわいい子には旅をさせよってやつ!」
「……かわいい?」
「はい。ジェイドさん、きっとお二人のことを大事に思ってるんですよ。だからこそ突きはなしてるんじゃ――」
「それはありえません」
「……なんでですか?」
顔を上げたアシュリーさんが、吐きすてるように軽く鼻で笑った。
人に対してではなく、自分を嘲っているように見える。
「私たちはずっと、ジェイド様を目標にしてきたのです。
あの若さで賢者、さらには次期団長の有力候補にまでのし上がったあの方のようになりたいと、常々思っておりました。
それを、ご本人にも打ち明けた……途端に、ですから」
「ああ。それは……えっと、こういう言い方は自分でもどうかと思うんですけど……しょうがないのでは」
「しょうがない? どういう意味ですか」
じろり、とアシュリーさんが鋭い目線をむけてくる。
「や、だってそこがゴールになっちゃってるから」
「……は?」
「お二人は、『ジェイドさんのように』なりたいんですよね? じゃあ、もしそうなれたとしたら、その先はどうするんですか?」
「……その先、など……今は考えるときではありません」
「それ、自分で自分の限界を決めてるようなものだと思いませんか?」
瞬間、ひゅっと音がして、アシュリーさんが息をのんだ。
論破したかったわけでは、決してないぞ。
ただ、ジェイドさんがなにを思って二人を突きはなしたのかが手にとるようにわかったから、言っておきたかったのだ。
けど……やっぱり、上から目線になっちゃってたよな。
「すみません。別にお二人のこと批判してるわけじゃなくて――」
「いいじゃねぇか、別に。正論だろ」
「ライリーさん、あんたさっきからどうしたっ?」
「だれかさんがバカすぎてまったく気づいてないから、代わりに怒ってやってるだけだ」
「ごめん、ちょっとなんの話かさっぱりわからねぇ!」
ライリーさんの体を窓のほうにむけて、強制シャットダウン。
アシュリーさんを見ると、彼女は膝の上においた手を小刻みに震わせて、目線を下にしてぐっと唇を噛んでいた。
ああ……やらかした。
初対面の人に、なんてことを言うんだ俺!
これ以上余計な発言をしないようにと、俺も唇をキュッと噛みしめ、大人しく座席に沈んだ。
ルーファス先生が苦笑しながら見てきたけれど、その意味はわからなかった。




