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 「榊真凛。お前――裏の人間だろ?」


 脈絡もなくそう問うた風に、真凛は笑って返す。


 「()…? なにそれ風くん、中二病ってやつ?」

 「あいにく俺は、真面目に言っている」


 視線を外そうとする真凛を、真正面から見つめる風。

 そこに注文のブレンドコーヒーが運ばれてくる。カップをテーブルに置くと、店員さんは音もたてずに去っていった。


 「もしかして、あれ? この前ショッピングモールで会った時のこと? それなら、私の親がクラウ・マガの師範でさ、」

 「それもそうだが、そうじゃない。これに見覚えはあるか?」


 そう言って風は、ポケットから一枚のハンカチを取り出す。ジップロックに入ったそれは、先日風が、ショッピングモールで真凛に渡したものだ。


 「風が貸してくれたやつね。でもそれがどうしてそんな話につながるの?」


 本当にわからない、といった顔をする真凛。

 風の頭に、LLの顔が浮かぶ。

 昨日の夜。ハンマーを手にした風は、帰ってきた虎に(ゲームのデータを)頼み込んで(人質に取って)、LLに連絡をしてもらった。風はLLの連絡先を持っていなかったから、めんどくさいと渋る虎を()()する羽目になったのだ。

 突然の呼び出しにもかかわらずすぐに待ち合わせ場所にやってきたLLに、風は袋に入れたハンカチを突きつけ、それの分析を頼んだのだ。(…LLが嫌がらなかったかって? そんなこと気にしちゃいけません。すべてはハンマー様が解決してくれます。 by風)


 「これから、硝煙反応が出た。そしてLLによると、人特有の発汗パターンが検出されなかったことから、指紋がフェイクの可能性もあるそうなんだが……」


 それを聞いた真凛は、あちゃーという顔をして額に手を置き上を向いた。

 そしてすぐに、視線を風に合わせなおす。その表情はどこまでも冷酷で、窓から差し込んだ光がその顔に影を落とす。


 「…で、そこまで分かったうえで、のこのこ一人で出てきたその思惑は、何?」

 「お前は、俺の敵か? それが知りたかった」


 そういい切ってコーヒーに口をつける風を、射抜くような視線で見つめる真凛。人差し指でテーブルをコツコツと叩きながら言う。


 「正直に言うとでも思った?」


 そしてそれに答えようと口を開く風を、手で制して続ける。


 「それでこの、周りで殺気立ってる人たちはあなたのお仲間?

  そうだとしたら、さっきの発言は謝るわ」


 その言葉に風は、驚くでもなく平然と「違う」といい切る。

 てっきり真凛の仲間なのだと思っていた風は内心心底驚いていたが、それを顔に出すことはしない。


 「そっちが呼んだんじゃないのか?」

 「あいにく、こんなに素敵なお友達は知らないわね」


 二人はどちらからともなく頷くと、自然な足取りで席を立ち何食わぬ顔で店を出る。

 慌てて伝票を持って走ってくる店員さんに、コーヒー代として千円札を握らせようとして――気づく。


 「なっ!?」


 その店員が握っていたナイフを反射的に叩き落とした風。真凛がそれに驚愕しつつ店員の腹を蹴り飛ばして気絶させ、風に疑いの視線を向ける。


 「ねぇこれこの店自体が敵に回ってんじゃないの!? このお店のチョイス風でしょ? これでも何も知らないっていうつもり?」

 「いや俺は、ただ梨奈ねぇにクーポンもらったからここ選んだだけだ、っとぉ!? あぶねぇな!

  おいここ市街地だぞ、誰だ銃なんか持ち込んだのは」


 真凛の疑いを晴らすべくしゃべりだしたその刹那。頬をかすめた熱い感触に、風は驚いて声を上げる。

 弾が飛んで行った方向を見た風。そこにあった電柱が銃弾を受け止め、ほかの人に当たることを防いでくれていたため、胸をなでおろした。

 そしてそれを見た風は、民間人を巻き込むくらいなら店内の方がやりやすい、と考えた。

 一方真凛は、一般人の中に紛れて不意打ちされるという流れが一番いやだ、と思った。

 思考経路は違えど、たどり着いた結論は同じ。二人は同時に、カフェの店内へと駆け出した。


 「ドアを開けて…失礼するぜ、っと…らァ!」


 風は乱暴に店のドアを押し開けると、真凛とタイミングを合わせて店内に入る。

 するとドアの陰に隠れていたウェイターに襲われたので気合一閃、昏倒させる。


 「流血沙汰はやめてね、返り血を落とすのが大変だし」


 背中側から襲ってきた敵の顎をノールックで打ちながら、真凛は言う。

 それを聞いて風は、相対していた男から奪ったナイフを順手に持ち直し柄の方で打撃を加えつつ、口を開く。


 「お前が怖がってんのは、現場の偽装が難しくなることと通報されること、だろ? 安心していい、(やっこ)さんも見られるのは嫌らしいぜ。……だがまぁ、返り血浴びた服で帰るのはまずいか」


 そう言って風がナイフで指し示したのは、窓。いつの間にかブラインドが降り、外から全く見えないようになっている。それは、敵方が初めから店内で戦うつもりだったことの証左であり、二人が誘い込まれたことを示してもいる。

 銃弾一発で二人を店内での戦闘に誘導したその手腕は、二人のうちどちらか、あるいは両方と親密な関わりがあるものにしかできない芸当だ。

 だが風も真凛も、そこまでの考えに至るには若すぎた。

 故に、この襲撃事件の黒幕が誰なのかを、二人が知ることはなかった――。



 






<少し重要な裏設定>


風との会話中に真凛が机をコツコツと叩いたシーン。

あの時に真凛は、”仲間内の合図”をモールス符号で送って仲間でないと確信を得ました。



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