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それからしばらく。店内での戦闘は、まだ続いていた。
ろくな武器もないままに純粋な徒手空拳で戦うことを強いられた二人は、腕や顔にかすり傷を負い、肩で息をしている。
――だが、それもこいつを倒せば終わる。
そう思い、笑みを浮かべつつ最後の一人の背後を取って床に沈めた風。
ついに、二人の視界から動くものが消えた。
念のため背中合わせになった二人は、油断なく周りを見渡しながら言葉を交わす。
「これで、全員?」
「ああ、多分。…いや違う!真凛、拳銃持った奴を倒したか!?」
風の絶叫に真凛が答える前に、どこからか発射された弾丸が風の左肩を貫いた。
その事実に、弛緩しかけた空気が一気に張り詰める。真凛が両手にナイフ構えるのと同時に、風は腰の得物を抜いた。
そしてあたりを見回した風はふと、自身の傷口に付着した破片を見て目を見開く。
一方、真凛は小さくつぶやく。
「油断した…」
二人の足元には、倒した敵が転がっている。
だがその中には、銃器の類を所持している者は誰一人としていない。
「「………」」
二人は息を潜め、身じろぎ一つせずに気配を探る。風の肩からは血が流れ続け、額には脂汗が浮かんでくる。
時計のカチカチという音が、いやに耳につく。すでに、秒針が五周と半分ほど、動いた。
しかし、待てど暮らせど攻撃は来ない。
「動きは?」
「無い」
風は真凛に声をかける。それに真凛が短く返し、再び店内に沈黙が下りる。
グラスの反射の中に人影を見出そうと目を凝らした風は、ふと、唯人の話を思い出した。
それは確か、風が防衛課としての訓練を始めたばかりだったころ。
初めて、訓練場で仮想敵たる唯人と相対した時だった。
ろくに照準も定めず撃っては弾を無駄にし、唯人の隠れた壁に向かって撃っては瓦礫という遮蔽物の増産に勤しんでいた風に、唯人は言ったのだ。
『銃器は確かにアドバンテージではあるものの、一対多においては状況次第で不利になる危険性もはらんでいる』
その言葉を体現するかのようにガスガンを持った風を素手で制圧しきった唯人の、冷徹無比なその顔は風の記憶に焼きついている。
風がリロードをするために下を向いたその刹那。一瞬で距離を詰められ、背後にまわられて敗け。
ならば、と遮蔽物の向こうに自分から攻めていくと、真っ直ぐ突っ込んできた唯人に意表を突かれ、徒手空拳に持ち込まれて負け。
狙撃に切り替えても、立ち上る硝煙に位置を割り出され。
その時風は、最強は火器ではないのだと、知ったのだ。
――なればこそ、攻撃の糸口を掴めずにいるのだろう。
そして、たとえ撃たれたとしても、俺は敵の銃では怪我しないでいられるはずだ。
風はそう考えて、意図的に隙を作った。
気を抜いたふりをして自身の得物たる刺突武器をしまい、真凛の方に振り向いたのだ。
「!」
その刹那、風は、背後で殺気が膨れ上がるのを感じた。咄嗟に頭の前に掲げた右腕に、鈍い痛みが走る。
振り返ると、厨房の入り口から銃口がのぞいていた。そしてそれを持つ男の額には、ナイフが刺さっている。風が疑問を持つ間もなく、彼の体は崩れ落ちた。
風の横では真凛が腕を振り抜いた姿勢を解き、どこからともなく包帯を取り出す。
「風、撃たれた腕見せなさい」
「大した傷じゃないからいいのに」
口ではそう言いつつも素直に従った風は、撃たれた肩を真凛の前に突き出す。
真凛は手早く肩の止血を終える。それから、「弾が中に残ってるから、ちゃんと摘出しなさいよ?」と言いつつ風の右腕をとる。そちらも肩と同じく撃たれていたはずなのに、まったく血が滲んでいない。そのことに首を傾げつつ風の袖をまくり上げた真凛は、仕込まれたアームカバーに肩の力を抜く。
「なんであんたが、夏にもかかわらず常に長袖でいるのか不思議だったけど、そういうことね」
「これは一応、ファッション性? とかを気にしたあれだからな。まじで。今日のこの服は。
そして学校では、ジャケットが長袖だから仕方ないし。……聞いてる?」
風の力説を聞き流しつつアームカバーを外して風の腕の状態を確認した真凛は、首を振ってため息を吐く。
「あざにすらなってないじゃない。心配して損した。フランジブル弾でよかったわね」
「だから大した傷じゃないって言ったろ?」
「腕のほうはね。肩は結構な重症だったと思うんだけど…?」
応急処置が終わり、二人は床に転がった敵たちを避けながら出入り口のほうへと歩いていく。
が、真凛はその途中で何かに気が付いたのか、風に一言断りを入れて引き返した。
そして拳銃を持っていた男のもとへと行くとしゃがみ込み、顔を自分のほうへと向け、人相を確認する。血で染まったその顔に、真凛は一つ頷いた。
「…やっぱりこの人、知ってる気がする」
風はその言葉にその人を観察し――。
そして恐ろしいことに気が付いて、生唾を飲み込んだ。




