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シェルターの端で小声で協議した結果、LLに突きつける条件が、決まった。
なお、穏便に決定できたのは、風が全く意見を出さなかったからである(何も考えていなかったともいう)。
二人はLLの目の前に立ち、交互に条件を突きつける。
「まず一つ。俺たちがお前を開放したなら、虎の目の前でデータ公開のプログラムを破棄すること」
「二つ。<グリモワール>の壊滅に力を貸すこと。これには、虎を採用することも含まれる」
「三つめ。俺たちにも機密データの一部を公開すること。以上が条件で、これを破ったら即座にお前を斬り捨てる(物理)。質問は?」
LLは、しばらく考えてから言った。
「圧倒的に僕に不利な条件だけどまぁいいや。信頼してもらうためには安いさ。
そして質問は二つほど。
まず、僕に与えられた機密データへのアクセス権限はほんの一部。万が一の時に、望みのデータを公開できるかは分からない。それでもいいのかい?」
その質問には、虎が対応する。
「不可抗力によってデータが消去されたなど、LLの故意的な妨害なく公開不可能な状況になったならば条件には抵触しないものとする」
「ではもう一つ。僕の事を対等に扱ってもらえる?」
この質問に、虎と風は顔を見合わせる。お互いに、考えていることが同じなことが分かった。
――LL、明らかにどこかずれている。
ここまで虎と気が合ったのは、俺の人生史上初めてかもしれない。
そう思いながら風は、LLを縛り付けたロープをほどく。
解放されたLLは、言った。
「じゃあこれから末永くよろしくね、虎くん、風くん」
その言葉と共に、LLは椅子から立ち上がる。
一つ伸びをして体をほぐすと、「じゃあ虎くん、入社してくる日を楽しみにしてるよ」と言い、退出していった。
あまりにも自然に出ていったために、しばらく呆けていた風が我に返る。
「……ちょっと待てい!」
LLを追いかけて、シェルターを飛び出す。
だがLLはもう姿を消し、風は地団太を踏む。ワンテンポ遅れて顔を出した虎が、聞く。
「風がそんなに慌ててんのは、解放条件の一つ目の話?」
「当たり前だ! それ以外あるか!」
周りを見ながらLLの影を探して言う風。
その言葉を聞いて、「フっ」と鼻で笑う虎。その笑みが、どこか空虚だ。
「LLの座ってた椅子の上見てみ?」
慌てて風はシェルターの中に舞い戻り、椅子の上をのぞき込む。
その座面には、腕時計が一つ置かれていた。
虎は、風の目の前に一枚の紙を突き出す。そこには『ただの社員の僕が、独断でデータ公開できる権限なんて持ってると思った?』と書かれており。
「あの野郎…ふっざけんな!」
風の怒髪が天をつく。虎はその様子に、同調のため息をつく。
「まったくだ。一杯食わされたよ」
言いながら腕時計を拾い上げる虎、それを調べてみるうちに青筋が浮かぶ。時計がミシミシと音を立て、虎の頭は湯気を立てる。
その腕時計、確かにスマートウォッチであった。
そしてそれに仕込まれた隠しファイルには、確かに防衛課の名簿とそれを公開するためのコマンドが。
「あいつ、二重におちょくりやがって! この腕時計のシリアルナンバーからLLの戸籍を洗い出してやる」
そう決意を口にして、シリアルナンバーを確認する虎。
「…ZannenGisoukosekidayo? 『残念偽装戸籍だよ』じゃねーんだわ! クソ野郎!」
三重におちょくられた虎の額に青筋が浮かぶ。時計がミシミシと以下略。
風はもう思考を切り替えたようだ、先程LLの首筋に当てていたナイフとにらめっこしている。
「なぁ虎、こいつに付いた血、どうやって落とそう?
このままホルダーに入れるのも嫌だし、ここ水道無いんだよねー」
能天気に聞いてくる風。
虎は慎重にそれに付いた血液を採取し、「これであいつの血液型とか諸々の生体情報を手に入れられる…!」と勝ち誇る。
「…嬉しがってるところ悪いんだけど、それ血のりだよ? 明らかにおかしかったでしょ、LLの出血量」
ガッツポーズをする虎に、冷たい目を向けながら巨大爆弾を投下する風。
そのせいで虎の堪忍袋の緒が完全に吹っ飛んだ。
LLの血のりを入れたガラス瓶がミシミシと以下略。割れて、虎の手から血が滴る。
「あの野郎、次会ったら覚えてろよ…」
虎の目がほの暗い炎を宿し、それを見た風がため息を吐く。
――虎がここまでキレたとこ初めて見た。あいつがドッカンするとこうなるのか…
虎を本気で怒らせることだけはやめようと決意した。
だが。
まあ普通にちょっかいかけてる分には面白いんだけどな、と、そう思いなおした風。
前言撤回、虎は受け。これだけは、譲れない。
「くそ、この時計に残った皮脂とかないか…?
不用意に触った過去の自分が憎い」
タールのようなどろどろとした雰囲気を醸し出す虎。その口調が静かなのが、逆に恐ろしい。
命の危険を感じた風は、シェルターから静かに逃げ出した。
のちに風は、この時のことをこう語る。
「目が、虎にとりつかれた悪魔のそれでした。あれは、この世に存在しちゃいけないものだと思います」
虎:「なぁそのインタビューの回答って、俺のことを悪魔よりもたちの悪い何かだって言ってる?
風:「よく分かったな! すごいすごい」
虎:「…俺にとりつかれたいのは分かったから、そんなに褒めるなよ」




