↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

22



 そして、明くる日。

 無事に入社試験に合格した虎が、<グリモワール>で働くようになってから約半月。

 虎もかなり、仕事に慣れてきた頃。(この間虎は、大病を患って学校を休んでいることになっている。)

 昼休憩の時間になった。虎は、昼食を買いにオフィスを出る。

 ちなみに風は、いたるところに設置された隠しカメラを通して虎達のことを監視・護衛している。


 そして十数分後。

 わさびシーチキンめんたいおにぎりの入ったコンビニの袋を持ち、虎がオフィスに戻ってきた。そして、自分のデスクを見た虎は、叫んだ。


 「おいコラちょっと…ふう。ブチコロ案件じゃねぇか!」


 周りの同僚が、なんだなんだと虎の方を見る。虎は慌てて、頭を下げまくってその場を収める。

 そしてコンビニで買ってきたわさびシーチキンめんたいおにぎりを放り投げ、デスクに置いてあったペン型カメラのデータを見る。


 「どこのどいつだ、こんなことしたのは。………LLか」


 カメラの画像から犯人を特定した虎は、すぐにLLの首根っこを掴み廊下へと引きずり出す。

 そして、鬼の形相で責め立てる。

 

 「何でこうなった!? おいコラ早よ説明しろや」


 もちろん、ほかの人の迷惑にならないよう小声で、だ。

 虎はさっきの一件で学習したんだなぁ。そう思い、カメラ越しに見守っていた風が涙を流した。

 別に、虎の反応がおもしろすぎて笑い転げていたわけではない。断じて、違う。


 普段の言葉遣いが乱れるほどの、虎のぶち切れ。

 その対象であるLLが、何をしたのか。

 …虎が、端的に言ってくれたようだ。


 「てめぇ、何俺の作ったPCウイルスを入れたUSBを真っ二つに折ってくれてんの!?」


 虎のその爆発に対してLLは、「ごめん、うっかりクッキーと間違えて虎くんと半分こしようかと」と答え、虎の火山にマグマを注ぐ。


 ――つまりLLのやつが、無断で虎からクッキーをたかろうとしたってことだな。なぜ、虎の机に置いてあるUSBをクッキーと間違えたのかは、置いておこう…


 カメラごしにそれを見ていた風の頭は、理解すると同時にその不可解さに煙が出始めた。あと、頭痛の症状も出始めた。

 一方虎は、キャパオーバーで鎮火した。


 「…でぇ? この落とし前はどうつけてくれるんだい? てめぇの命か? それとも労働か?」


 否。虎の火山は鎮火したように見えて、舞い上がった火山灰が虎の性格を黒く染めてしまったようだ。虎の目が、いつだか以来の暗い炎になっている。

 静かに怒る虎の気迫に、LLが息をのむ。

 さしもの風すらも、「これは父さん以上の殺気…」と呟く始末。

 悩んでいたLLは、手をポンと叩く。何かを思いついたようだ。

 縮こまらせていた肩を少し広げるようにして、身を乗り出しながら言った。


 「…あ、そうだ。自分の家は――」


 その時。

 <グリモワール>での虎とLLの上司、田中部長が近づいてきた。

 いつも笑顔を絶やさない、好印象の五〇代だ。虎は、得体のしれないその人に警戒心を引き締める。


 「二人とも、何の話をしているんだい?」


 二人は慌てて取り繕い、虎は「大した話じゃないですよ、ただ、もう少しファイアウォールの容量をコンパクトにできないかな、って話を。」という。

 LLも、相槌を打つ。

 田中部長はすっかり騙されて、「そうだねぇ…」と考え込む。

 風は、思う。


 虎…そんなぶ厚い猫かぶってて、暑くないの?

 冷や汗だらだらだよ、脱いだらいいのに。



 ・

 ・

 ・




 田中部長の登場によって、LLのやらかしがうやむやになったその日から、十日が立った。

 風の頭痛は、防衛課からの『早く任務をこなせ』の指令と、虎の(『LLぶち殺す』)の処理と、LLの『クッキーいるかい?』の三段攻撃によって悪化の一途をたどっている。

 そんな中。風が待ち望んでいた報告が、虎からもたらされた。


 「やっと、できた」


 虎の眼前の画面、その最下行には、『print("Complete")』と表示されている。

 このプログラムは、<グリモワール>のセキュリティを崩壊させると同時に防衛課の機密情報を抹消する。

 LLにパーにされたコンピュータウイルスの完成である。


 ――この十日間、いったい何回、ナイフを握りしめてLLに近づこうとする虎とか毒を盛ろうとする虎とか吹き矢を買おうとする虎とかを止めただろうか…

 

 虎を抑えつつ、LLがこれ以上おかしなことをしないように見張っている仕事は、風のメンタルに莫大なダメージを与えた。

 だがこの仕事も、これで終わる…!

 そう思い、満面の笑みを浮かべた風。その耳に、グシャっという音が聞こえてくる。


 恐る恐るカメラ映像を切り替える風。

 目を血走らせて機械のような速さで振り返り、首を痛める虎。

 そして、何かを踏んだ状態で固まっている、LL。

 

 LLが、恐る恐る足を上げる。

 その下にあったのは、見るも無残な姿になった虎の昼食。いわゆる、シラスとコウイカのからしサンドイッチだ。


 「「「…………」」」


 三人は、無言でそのサンドイッチに目を向ける。

 そして虎は、殺意をその身にたぎらせる。

 LLは慌てて証拠隠滅しようとする。

 そして風はというと。


 「虎、やっていいよ」


 LLを見捨てた。





 次の日、なぜか四つん這いになり、虎に座られて喘いで(苦しんで?)いる変人が<グリモワール>のオフィス内に出没し、大騒ぎになったとかならなかったとか。





ちなみにですが、風くんは<グリモワール>オフィスの向かいのビルで、狙撃銃構えて待機してます。

狙撃班に勝る腕前だと評判です。


過去に、風本人に「どうしてそんなに上手いんだい?」と聞いた狙撃班の人がいました。

彼は次の日に、「俺はこの組織を抜ける。そして、旅の狙撃手になる」と言って消えたそうです。

一体風は、何と答えたのでしょうね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。