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 「ぅあっ…言いやがったこいつ」


 顔をしかめて呟く虎。


 「何それ、面白そうな話だねぇ。聞かせてくれるかい、虎くん、風くん」


 満面の笑みを浮かべて聞くLL。

 その笑みは、ちらと見てしまった虎が「うお腹黒…」とつぶやくほどだった。LLの整った顔には、真っ黒い笑顔がよく映える。


 「あっ」


 風が自分の失言に気が付いて口を押えるが、もう遅い。すでにLLは、風から聴取を行う姿勢に入っていた。その肉食獣のような目に見つめられて、風の腰が引ける。その手が腰の隠しナイフにのびる。

 だが風がそれを抜くより先に、LLが言葉を発する。


 「AICT防衛課(ぼーえーか)所属のぉ、草薙風くん。そして君がぁ、草薙虎くん。

  そうだよね?」


 一人ひとりを指さしながらねちっこい口調で確認を取る。相変わらず浮かんでいるどす黒い笑みが一層、LLの不気味さを引き立たせる。言葉の不意打ちを受けて一瞬硬直する風と虎。

 だが数瞬の後、正気に戻った風は即座にナイフをLLの首元に突きつける。

 

 「なんのつもりだい? 僕を殺す、ってこと? そんなそんなそんな。君には無理だねぇ」


 LLのその余裕を、単なる時間稼ぎか負け惜しみととらえた風は、より強くナイフを押し当てる。

 首に一筋の血が浮かぶ。だがLLは、余裕の笑みを崩さない。さすがに不審に思った風は、問う。


 「…俺がお前を殺せないとはどういうことだ?」

 「この腕時計が僕の絶命を感知したら、その瞬間に防衛課の機密データが全世界に公開されるんだけどぉ」


 待ってましたとばかりに、得意げに説明を始めるLL。

 その口からは、言葉がまだまだ零れ落ちてくる。LLの首から滴った血液で、シャツの襟が真っ赤に染まる。


 「あのねぇ、この腕時計、いわゆるスマートウォッチってものなんだぁ。

  だから僕の脈が検知されなくなったその瞬間にぃ、データ公開できるってわけ。僕天才じゃない?

  だからねぇ、この腕時計外すのもアウトだしぃ、この腕切り落とすのも、毒殺絞殺あらゆる手は無意味だねぇ。ざ~んねん!」


 LLのうざったい口調に青筋を浮かべた風は、それでも冷静にナイフをしまう。

 通行人が騒ぎ始めているので、この場所を移動するのが賢明と判断する。

 三人は連れ立って、近くの民家に入った。





 ()()民家は、AICTの所有するシェルターだ。

 こういった拠点は全国にいくつかあり、ここは今回の<グリモワール>壊滅作戦の決行を受けて急遽作られた。そのためまだ監視カメラなどの機器はついていないが、まぁ他人に見られないだけでも十分。

 風はそう考えていた。



 そしてそのシェルター内。

 風によって椅子に縛り付けられたLLが、口を開いた。


 「僕には、君たちと敵対する気がない。君たちは、機密データを公開されたくない。

  膠着状態だねぇ。どうする?」


 顔に張り付いた笑顔がなんとも不気味に思えるが、虎はそろそろ気が付いていた。


 ――こいつ、この状況を面白がっている。あるいはここで死ぬことすら本望、ってか?


 「それでお前の本音は?」


 聞いたのは、膠着状態にしびれを切らした風だ。まあもっとも、切れたのは堪忍袋の緒かもしれないが。ニタニタと笑うLLは、相当に風の神経を逆なでする。

 風の凄みを受け流し、「面白くなってきたねぇ」という言葉を、口の中で転がすLL。その言葉が空気に溶け切った時、彼は口を開く。


 「最初はAICTと敵対するのがおもしろそうだと思ってたんだけど、<グリモワール>でできることってQ国の言いなりになることだけだからさ、つまんなくなっちゃった。

  だから今度は君たちに接触して、<グリモワール>の内部崩壊に力を貸すのも一興かな、って」



 想定外の答えに、室内に沈黙が下りる。

 その空気は未だ弛緩することはなく、信用されていないと感じ取ったLLが続けて言う。


 「どうしたら信用してもらえるかなぁ…。<グリモワール>の内部情報でも流せばいい?

  それとも、『君たちは僕を殺せない。だからと言って監禁すれば、<グリモワール>は警戒する。そしたら君たちの任務は失敗する。あるいは君たちが僕と手を組まないなら、僕は虎くんを入社試験に落とす』とでも脅迫まがいのことをすればいい?」


 軽薄な言葉だが、LLのその目は全く笑っておらず。今までずっと笑みをたたえていたからこその信憑性がある。風と虎の二人は『こいつは本気で脅しにかかってる』と結論付ける。


 虎は、提案する。


 「よし。じゃあ俺たちが提案する条件を全てのんでくれたなら、解放しよう」

 「条件って?」

 「今から考える」


 こういったのは、風。虎と一緒にシェルターの端に移動し、話し合いを始める。

 一人残されたLLは、黒い笑みを浮かべて「まだまだ子供だ…」と呟いた。






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