026 アズサ、三十二階層でホブゴブリンの農民? に持て成される
私たちは四日間歩き続けた。どこにも集落がない。ただ、小麦畑が続くだけだった。「おい、人種お前らがここを畑に変えたのか?」
どう考えれば、そんな斜め上の発想が出来るのか?「ここはゴブリンの王国ですから、当然ゴブリンが畑を耕したと思います」
「ゴブリンは略奪の民だ、畑仕事のような勤勉さが必要な作業はできない。第一、俺が通った時は、鬱蒼とした森だった」
そんなことはない、ゴブリンも教育を受ければ、規律正しい兵士になるのだから。「イグノ様はいつ三十二階層を通過されたのですか?」
「俺がここにきたのは二週間ほど前だ。二週間で小麦がこんなに育つわけがない」
「師匠、前から馬が引いていない馬車がきます!」
馬が引いていない馬車って突っ込んで良いのだろうか? ヒロシの顔見たら首を横になって振っていたのでやめておいた。
荷車? に乗ったホブゴブリンが、私たちに声を掛けてきた。「おい、俺の畑で何をして居る」
「私たちは、二十一階層の領主であらせられるシャルル・ドゥー・メディスン様の命で王都に向かう途中でございます」と通行証を、荷車に乗っているホブゴブリンに見せた。
「ふむ、弟は息災か?」
「はい?」
「聞こえなかったのか? 弟は息災か? 俺はミッシェル・ドゥー・メディスン。シャルルの兄だ」
「これは失礼しました。シャルル様、お元気でございます」
「シャルルの臣下なら持て成さないと、いかんな。やむを得ない。今日の畑作業は中止だ。お前たち、車に乗れ!」
私たちは、馬がいない、荷車の荷台に乗った。荷台には数体の人形ゴーレムが積まれていた。イグノもまた、荷台に乗ろうとしたので、「魔人殿どうされた?」とミッシェル様が声をかけた。
「俺はこいつらの護衛だからな」
「シャルルの臣下に魔人の護衛とは理解できん」と言いつつ、ミッシェル様はイグノが荷台に乗るのを止めなかった。
荷車に乗ること一時間、お尻が痛い。風景はずっと小麦畑で飽きた。私はうつらうつらしていたら、荷車がガクンと止まった。
「おい、シャルルの臣下着いたぞ。魔人様着きました」
「大儀」護衛がなんで偉そうなんだよ。
「魔人様、どうぞ上座へ」
「うむ」
「シャルルの臣下、好きなところに座っておけ」
扱いがぞんざいなのが、弟の家来だからだよね。魔人は客分って扱いなんだろう。どうでも良いけど。
イグノにはフルコースのランチ、私たちにはお菓子にお茶だけ。別に気してないし。ただ、影の薄い戦士さんの前にはお茶もお菓子もなかったので、ヒロシに言って私の分を置いて貰った。
給仕が怪訝な顔をしたので、精霊が実は一緒にいるのです。給仕がお菓子が消えて行くのを見て、裏に引っ込んで私のためにお茶とお菓子を用意してくれた。
ミッシェル様が、広間に出てきて、精霊様もご一緒なのかと尋ねてきた。普通の方には見えないので、仕方ないですって答えたら「馬鹿者」って怒られた。精霊に嫌われたら小麦の収穫が半分になるそうだ。
戦士さんには追加で大盛りのお菓子とお茶が置かれた。ヒロシが戦士さんにのお菓子を一口食べようとしたら従者の分際でって給仕の人に頭をはたかれていた。
「精霊さんて凄いのね」って私の周りで踊っている精霊さんたちに言ったら、もの凄いドヤ顔をして、かなりウザかった。
イグノはお腹がいっぱいになったらしく、椅子に座ったまま船を漕いでいる。
「お前たち、シャルルからどんな命令をされたのか?」
「王都によって妖魔の調査、その後妖魔を退治するように言われています」
ミッシェル様はお茶が変なところに入ったようで、むせていた。
「妖魔は不死だ。できるわけないだろう!」
「冗談も休み休み言え」
「魔人イグノ様が仰るには、妖魔が根城にしている五十階層にはイグノ様の主である魔王陛下しか近づけないとうかがいました。しかし私どもはシャルル様の臣下ですので、主の命令は絶対でございます」
「シャルルの兄としていう、アイツはネジが抜けていて、常識がゼロだ。お前たちは五十階層に着くまでに全滅するぞ」
「仕方ございません」
「俺が取りなしてやっても良いぞ。忠誠を誓う臣下は宝だから」
「これは私が起こした不祥事の罰でございますゆえ、ミッシェル様に泣きついたとシャルル様に思われるのは、私にとって死ぬよりも恥辱でございます。お言葉だけいただいておきます」
「わかった。命があれば、シャルルではなく俺の家臣になれ、戻ってくるのを楽しみに待っている」
「身にあまるお言葉ありがとうございます」
「では先を急ぎますので、出発致します。
「イグノ殿はどうするのだ」
「イグノ様を私たちは起こすことができません。王都で会えますので、問題はございません」
「確かに」
私たちはミッシェル様の館を後にした。




