025 アズサ、三十一階層でマウントタイガーのトラオそっくりの魔人イグノと話す
露天を後にして、私たちは宿屋に入った。部屋は当然二部屋。男性陣の部屋がシングルの部屋だったので、ダブルに替えってもらった。冒険者なんだから一人は床に寝れば良いのに、贅沢な奴らだ。
アリスちゃんがウキウキしている。相変わらず繋いだ手を離してくれない。私とアリスちゃんを見て宿屋の主人が含み笑いをしている。何を想像しているのか? 変な想像をしたら、部屋の床に大穴をあけてやるからな。
私はベッドではなく、土の中の方が熟睡できるから。ダブルベッドを見て、少しめまいがした。
「ねえ、アリスちゃん、私ね、お手洗いに行きたいの、手を離してくれないかしら」
「私もご一緒します」これが少女特有の一緒にお手洗いというやつか。
仕方ないので共同のお手洗いに入って、個室だったのようやく、アリスちゃんが私の手を解放してくれた。いちいち、お手洗いに行かないと手を離してくれないのは、とっても困る。「はあーー」とため息をついたら隣から「アズサさん、どうかしましたかって呼ばれてしまった」恥ずかしい。
アリスちゃんがまた手を繋ぎにきたので、「アリスちゃん、私はあなたの師匠なの、弟子は師匠と並んで歩くのは基本的にダメだから、私の後ろ三歩下がってついてきてくれないと、私とアリスちゃんが同輩に見えるの、わかってくれるかな」
「申し訳ありません。師匠。以後気をつけます」
「ありがとう、アリス」と呼び捨てにした途端、アリスちゃんがどっと泣き始めてしまった。
「師匠に呼び捨てにして貰って嬉しくて涙が止まりません」タクミ、すべてを許すからアリスちゃんを引き取ってほしい。お願い。もし、タクミの靴を舐めろと言われたら喜んで舐めても良いよ。助けて!
ヒロシたち、一人は見えないけれど、を誘って、ちゃんとしたレストランに食事を取りに出かけた。三人掛けテーブルに誘導されかけたのだけど、後から一人来るからと言って、四人掛けのテーブルにして貰った。
私たちが、料理が出てくるのを待っていると、昼間の屋台を壊した魔人が人種臭いと私たちに絡んできた。この魔人とってもお酒臭い。
「ここは、お前らがいて良い場所じゃねえだよ」
私は軽くため息をついて、「私たちは、二十一階層のご領主、シャルル・ドゥー・メディスン様の命によって四十階層に行き、その後五十階層に行く者でございます」
「お前ら馬鹿か五十階層は、魔族の超エリートのこの俺イグノ様でも立ち入れない場所。お前たちでは絶対に入れない。俺たちの暴虐の魔王様以外はその扉すら開けられない」
ボワンナーレさんて、魔王並みの力があるのか。最大の脅威はボワンナーレさんだ。
魔人イグノは私たちを睨みつけながら「俺も行く」と言い出した。
イグノがなぜ自分も同行すると言い出したのかがまったく理解できないでいる。
「今日から、俺はお前たちの護衛だ。拒否すればぶっ飛ばすぞ」
どこの世界に護衛対象をぶっ飛ばす護衛がいるのか、まったく理解できない。私としてもイグノの事情なんて知りたくもないので「わかりました」と承諾すると、イグノは俺のテーブルにジャンジャン酒を持ってこい、支払いはこいつらが払う」
こいつ、私たちにたかるつもりだ。イグノが自分の席に戻ってお酒を飲みだしたら、私たちはそっと席を離れて、お会計を済ませて、後はあの魔人が支払いますって言って店を出た。
早朝、宿屋を出ると魔人イグノが出待ちをしていた。「お前ら、俺を一人残して店を出るとは、どういう了見だ」
「護衛対象が店を出たのですから、当然護衛も店を出るものだと思っていました」
イグノが「グヌヌ」って声を出していたけど、見た目はマウントタイガーのトラオにそっくりだけど全然可愛いくない。
唸っている魔人を放置して、私たちは三十二階層に続く洞窟に入った。先頭は私、三歩下がってアリス、たぶんいるはずの影の薄い戦士、その後ろをヒロシが続く。そのメンバーにはシールドをかけた。超エリートの魔人様は吸血コウモリも大群に襲われて苦戦している。
三十二階層に到着して、私はびっくりした。「見渡す限り全部、畑ってどういうこと」
「ここって地上でしたっけ」と私と同じ気持ちであろうアリスが言葉に出した。ヒロシが、「ここの畑を買って、スローライフ生活も良いな」と天然なところを見せていた。
ここがゴブリンの王国なのを忘れているみたい。




