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1-7 精霊空間での語り合い

 異空間に戻るとすぐに十の手に仇の始末を告げたワーナーは最初に訪れたテラスで気になっていたことをカミュラたちに聞いていた。


「つまり、この空間にいる間、外で流れる時間は好きに操作できるということか?」


「厳密には違うけど、大体そんな感じ。だから、ここで百年いても向こうでは一秒しか経っていないということもできるし、逆にここに一秒しかいなくても向こうでは百年経つってこともできる。要はこの空間と向こうの空間の時間の流れの違いを自在に変えられるってことよ。ちなみに、その気になれば外界の時間も戻せるわ。ただし、多少の制約はあるし、戻せるのはあんたがオーナーになってから初めて外界に戻った時間までだけどね」


「なるほど。それは便利だな」


 ワーナーが聞いていたのは、空間と世界の間の時間の流れの違いについてだ。最初にワーナーがここに来たとき、そう長い間この空間に留まらなかったにもかかわらず、向こうの世界では数日経っていた。そのことについて聞いたところ、先のような答えが返ってきたのだ。

 どうやら、最初は未設定ということもあり十分ほどしかいなかったにもかかわらず、向こうの世界では二日ほど経過してしまっていたが、今はそれを自由に変えられるということだ。



 この空間は元の世界とは完全に独立している。だから、時間の流れを自在に操れる。これは使い方次第では居住空間や隠れ蓑としてだけでなく、攻撃にも使うことができる。

 たとえば、ある人間を一度この空間に閉じ込めて百年以上経った外界に放り出すことも可能だ。それだけ時間が経っていれば世界も変わり、その人物の居場所などとうになくなっているだろう。その状態で放逐するだけでも相当な苦痛を与えることができる。仮にワーナーもその人物と共に同じ時間軸の世界に行ったとしても、時間を戻すこともできる。



 ただ、その一方で最初に向こうの世界に戻ったときより前の時間に戻すことができないのは残念だった。もし、それができるのであれば母を生き返らせようとワーナーは考えていたのだが、世の中そう上手くはいかないものだ。



 とにかく、疑問が一つ解消された。ワーナーは一つ息を吐き、静かに口を開く。


「さて、とりあえず連中の親玉を探りたいところだが……」


 そこでワーナーはソファに座っている五人に目を向ける。


「その前にお前らのことについて聞いておこうか。ごたごたしたせいで、俺はお前らのことを何も知らねえからな」


 ワーナーの問いかけに五人は頷く。これは本来ならばここのオーナーになった時点ですぐにするべきことだ。あの時点では母の安否が気になっていた上にあまつさえ仇まで見つけたためにここまで伸びてしまったが、これ以上先延ばしにする理由はない。


「じゃあ、まずは私からかな。私は植物を操ることを得意としている。それを応用していろいろ使うこともできるけど、長くなっちゃうから、ひとまずは植物使いとでも覚えていてくれればいいよ」


「アタシは単純に炎を扱うだけよ。といっても、火力は自在に操れるし、その気になれば太陽のプロミネンスに匹敵する火力も出せるわ」


「私は医療系の力を有しています。この力でワーナー様の新たな肉体を用意させていただきました。他にもさまざまな準備の方法を心得ておりますので、遠慮せずに何でもお申し付けください」


「ワシは未来を予知することができる。といっても、確実に予知できるのは直近だけで後は可能性の段階で見えるだけじゃがな」


「…………」


 他の四人はスラスラと答えたがネルだけは無言のままだった。サエナは苦笑しながら、代わりに説明するために口を開く。


「ああ。ネルは音や姿、気配を消すことが得意だ。さらに呪力(じゅりょく)を相手に注ぎ込むことで相手の情報を抜き取ることもできる」


「ざっとこんなところかしらね。一応、それ以外にも刀や銃、その他さまざまな武器も扱えるわ」


 そして、とカミュラは前置きする。


「アタシたちの力をあなたは自在に扱える。アタシたちを顕現させればアタシたちは向こうで存分に力を振るえるし、あんたにアタシたちの力を付与させることもできる」


「顕現?」


「アタシたちを向こうの世界に呼び出す事よ。すでにあんたも何回か見てるでしょ」


 それでワーナーは名も知らぬ男に襲われたときと十の手や遭遇したときのことを思い出す。いずれもカミュラやネル、スーザンが実体を持つ形で世界に姿を見せていた。アレのことを指しているのだろうとワーナーは判断する。


「なるほど。大体分かった。……他にもいろいろあるんだろうが、その前に一つ聞いておきたいことがある」


「何?」


 首をかしげながら問い返すカミュラにワーナーは問いをぶつける。


「お前らの目的が何か……だ」


 それに精霊たちが息を飲んだのが分かる。ワーナーはたたみかけるように言葉を続ける。


「まさか、俺に仕えることこそがお前らの目的だなどと言わねえだろ。そんなんなら、あんな試練をやる理由はないはずだ。俺に従うっていうんなら、お前らの目的も聞かせてくれよ」


 しばし沈黙が流れる。やがて、サエナは小さくため息をつくと、どこか達観した笑みを浮かべて、


「ごめんね。別に隠すつもりはなかったんだ。ただ君の仇を討つという目的を邪魔したくはなかっただけなんだ」


「そうかい。そいつは気を遣わせてすまなかったな。ここからは遠慮しなくていいぞ。お前たちの想いを聞かせてくれよ」


「そうだね。元より我々に隠し立てをする気などない。全てを包み隠さず話そう。私たちは……」


 サエナが五人を代表して、彼女たちの目的を話しはじめた。その話を聞いて、ワーナーはわずかに目を細める。もし、彼女たちの言っていることが本当なら彼女たちも人を厭っていることになる。

 だが、この話の真偽を考えることに意味はない。まず間違いなく、本物だからだ。



 どちらにせよ、聞いて正解だった。おかげでワーナーはより確実に人を滅ぼせるようになったからだ。



 一通り彼女たちの話を聞いたところで、ワーナーは次の段階へと話を進めることにする。


「こっちもだいぶ遅れたが、名前を決めておかないとな。ワーナー・カルドザスはすでに死んだ人間だ。その名を名乗るのはまずいだろう」


 これは調査を始めるより前にしておかなくてはならないことだ。容姿も可能ならば変えておいた方がいいだろう。ワーナーの容姿は黒髪黒目と決して目立つ容姿ではないが、それでも分かる人間には分かる顔だ。容姿をそのままにするメリットはない。せいぜい後ろ盾の組織や依頼人を攻め落とすときに自分が生きているという事実を彼らに叩きつけるくらいだろう。



 だが、ひとまずは名前だ。容姿はそうそう決められるものではない。逆にこちらは比較的簡単に思いついた。


「……………そうだな。モンス・スピリアとでも名乗ろうか」


 極めて単純な名だ。モンスはモンスター、スピリアは精霊の別名、スピリチュアルから取ったにすぎない。

 名にそこまでこだわりがないワーナーとしてはこれで充分だった。


『かしこまりました。そのように準備します』


「いらねえよ。必要になったときでいい。どうせ、俺が出たのは戸籍なんて高尚なものが存在しない田舎村だ。下手するとそんなもんがある方が不自然に見えるかもしれねえ。まぁ、偽造の戸籍をいくつか作るくらいはしてもいいかもしれないけどな」


 ワーナーは軽く伸びをし、それまでの少々緩んでいた表情を一気に引き締める。


「ある程度話ができたところで、そろそろ動きはじめるか。まずはあいつらの親玉から潰そう。そして、特人とやらを潰し、何の力もない弱者どもを皆殺しにする。今の目的はそんなところだな」


 それはモンスター側につくという完全な裏切りの発言だったが、誰も咎めない。今さらだし、そもそも精霊たちにとっても人よりモンスターに勝ってほしいというのが本音だからだ。そういう意味でワーナーは真の意味で彼女たちのオーナーに相応しいと呼べる人物なのかもしれない。



 こうして、ワーナーはモンスと名を変え、再び世界に降り立った。

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