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3-3 白色黒母の巫女

 モンスは放課後。一人、王都の街を歩いていた。いつもならば、サユたちとともに帰っているのだが、今日はやることがあったので一人で帰路についている。これからやることを考えれば、当然の選択だ。とはいえ……。


「今朝、やたらと変なのに絡まれたからな。不安要素は残るが……」


 モンスは思わずため息をつく。怒鳴り散らしてストレス発散をしようとする老害に自分からぶつかって喝上げしようとしたチンピラ。これだけ面倒なものに立て続けに絡まれれば警戒心が強くなるのも無理のないことだ。

 悪いことは続く。それは迷信などではなく、概念そのものである。だからこそ、モンスは警戒していた。とはいえ、あの程度ならば、さほど問題はないのだが。



 しかし、それを抜きにしても彼には懸念事項があった。そして、それは同時にこれからやらなくてはならないことにも繋がっている。


「そもそも、それ以前にだ……。用事のついでにいい加減聞いとかねえといけねえよな」


 襲撃前の休日に母の墓参りに向かったときに遭遇したあの黒髪を白いリボンでまとめポニーテールにした少女に会わなくてはならない。これまでは重要度が低かったために放置していたが、これからすることを決めた以上、彼女との連携は必要不可欠だ。



 そして、聞かなくてはならないこともある。今まで放置していたことから分かるように、こちらの緊急性は皆無に近いのだが、念のためだ。そのためにも彼女を探し出さなくてはならないのだが……。


「……見つけた」


 それは思ったよりもあっさりと達成された。いざとなれば、ネルを使おうとも考えていたのだが手間が省けた。



 件の少女は廃ビルの玄関の壁にボーッとした表情でもたれかかっていた。人気がなく、この辺りは治安もよくないのだが、ああいう無防備な姿を晒せる辺り、やはり彼女は大物だとモンスは内心苦笑する。


「……見つけたぞ。カンナ」


「モンス?」


 カンナと呼ばれた少女は感情の読めない目でモンスを見る。モンスは右手で頬をポリポリと掻きながら、少女――カンナに話しかける。


「お前に用があるんだが、時間あるか?」


 カンナが暇なことなど分かりきっているのだが、モンスはあえて問う。カンナはそれにぼんやりとした表情で小さく首肯し答える。


「よし、ならまずは質問からするぞ。ウィーダラー・リリーフの連中が特校を襲う直前辺りの休日。お前は俺のお袋の墓の近くになぜ来ていた?」


「……何となく?」


 何とも気の抜けた声にモンスは思わずずっこけそうになる。他の人間ならばあまりの答えに問い質そうとするだろうが、彼女はこういうタイプの人間だ。これで天下八家の一つ、『芝浦(しばうら)家』の次女として生まれ育ち、才能に恵まれ、その力から『白色黒母の巫女』とさえ呼ばれているのだから驚きである。人は見かけによらないものだ。

 いずれにせよ、これ以上追及しても意味はないだろうとモンスは判断する。何とか気を取り直して次の用事に移るとする。


「じゃあ、次の指令だ。こっちは重要な話だからよく聞いとけよ」


「……ヒューマン・イーター関連?」


「まぁ、そんなとこだ。つっても、この辺は比較的マシな上に周辺にはそこまで気を遣わずに話せるように細工してあるとはいえ、あまりその名を出すなよ。鋭いのに嗅ぎ回られるのも面倒だからな」


 苦笑しながら言うモンスにカンナは不思議そうな表情で首をかしげる。


「……それって、そんなに重要なことなの?」


「そうでもないが、そうだな。俺的には外部から一気にというよりは、できる限り内部から崩壊させていきたいからな。連中の綻びを弄くって遊び倒すためにも少しくらいは考慮してくれよ」


「私はどうでもいいけど、あなたがそうしてほしいなら従う」


「サンキュー。ま、ここではそこまで気にすることはねえよ。他での話だ」


「ん……」


 短く答え首を縦に振ったカンナを見て、モンスは小さく頷き、話を続ける。


「話はズレたがここからが本題だ。俺はこれから東西の綻びを利用して特校ではなく、王都そのものを混乱に陥れようと思う。そこでだ。お前には連中と連携して動いてもらいたい」


 カンナはわずかに片眉を動かす。わずかに思考する仕草を見せると、怪訝そうな表情で問う。


「ここで正体を現すってこと?」


 カンナの問いにモンスは首を振って否定する。


「違う。お前がやるのはあくまで伝令と連中の援護だ。前者はともかく後者はそこまで本気でやる必要はない。お前の正体がバレない程度に最低限やってくれればそれでいい」


「……真剣にやる必要はないってこと?」


「お前はな。ただ伝令役はしっかりやってくれよ」


「……分かった」


 モンスの命令にカンナは頷く。しかし、その表情はどこか不満げだった。その真意を容易に読み取ったモンスはあえて何も言わずカンナの顔を見る。それにカンナは観念したかのようにため息をつく。


「でも、できるなら正体を現してあいつらを絶望の底に叩き落としてやりたい」


 頬を膨らませ、本音を吐露するカンナにモンスは愛おしそうな顔になる。顔を逸らし、膨れているカンナの頭に手を置くと、モンスは優しく撫でる。


「そう焦ることはねえ。機会はいくらでもある。こういうのは準備をすればするほど連中に与える絶望も大きくなるんだ。そういう意味でも俺の方針は悪くねえと思うが」


「…………そうね。それは分かる」


 カンナはされるがままになりながら答える。そして、モンスの自分の頭を撫でていない方の手を掴むとこれまでとは打って変わって真剣な表情でモンスを見る。


「私はあなたに従う。私はあなたのために全霊を尽くす。あなたは私を救ってくれた人だから」


「そうか。じゃあ、俺の期待にしっかりと応えてくれよ」


「うん」


「よし、なら、早速具体的な指示を出すぞ」


 モンスはそう言っていくつかの指示をカンナに出す。カンナはそれを迷うことなく承る。


「ひとまず最初の指示はそんなところだ。あとは追って伝える」


「分かった。……モンス」


「何だ?」


「上手くいくよね?」


 主語がない問いだったが、何に対する質問なのかは容易に分かる。モンスは自信に満ちた笑みを浮かべ、頷く。


「もちろんだ。人は他人に依存し、排斥しなくては生きていけない生き物だ。だからこそ、こういう手段が有効なんだよ」


「そっか。なら、大丈夫だね」


「おう。当たり前だ。絶対に成功する」


 などと口では言っているが、実のところこの策が上手くいくかどうかはモンスにも自信が持てなかった。自身の能力をフルに使えばいいのであれば使うのだが、そう簡単にはいかない。確かに特校や特人は脅威ではないが想像以上に面倒くさいのだ。

 これまでモンスはあえて手練れの特人に手を出してこなかった。それは実力的な面ではなく、もっと内面的なものに起因していた。



 とはいえ、不確定要素ばかりに気を取られていては何もできない。ここはイケイケでいくのが吉だ。


「じゃ、俺の用はそれで終わりだ。邪魔したな」


 モンスはそれだけ言ってその場を去っていく。カンナはその背中をぼんやりと見送っていた。


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