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3-2 穏やかならざる教室

 八時。そろそろ学校に向かう時間だ。特校が用意している学生寮に入寮していない以上、モンスは適当に奪った自宅から通う必要がある。ちなみにこの家は調べられても問題ないようにしてある。



 この家から特校までおよそ十五分ほど。学校が始まるのが八時半なので普通に歩けば余裕で間に合う時間だ。モンスは鞄を担いで、特校まで歩く。



 家から特校までの間には一つの繁華街がある。そこまで大きいわけではないが、さまざまな店舗があることから人通りは多かった。そして、その途中にある路地裏が特校までの近道だ。こちらは人気(ひとけ)がほとんどないが、専門店のようなものがいくつかあり、通る人間も少ないながらいた。



 ただそれらの人間の質は残念ながらあまりいいとは言えない。もちろん、普通の人間もいるのだがたまに変な人間が混ざっている。



 モンスが普通に歩いていると向かいから歩いてきた茶髪に鼻ピアスをした男が突然モンスの方に向かって歩きはじめ、肩をぶつける。ぶつかってきたというのが率直な表現か。とりあえず、モンスと男の肩がぶつかったのだ。

 モンスは怪訝そうな顔をしながらも、彼を酔っ払いか何かだと判断し、さっさと先に行くことにする。いくら、時間に余裕があるとは言っても余計なものに関わっていられるほどではない。だが、男はそんなモンスの肩を掴んでくる。


「おい! てめえ! ぶつかっといて、何シカトこいてんだよ!?」


「ああ? てめえがぶつかってきたんだろうが」


「何寝ぼけたこと言ってんだぁ!? 俺様がぶつかるなんざ抜けた真似するわけねえだろうがよぉ!」


 モンスは思わずため息をつく。どうして、今日はやたらと変なものに絡まれるのか。モンスがうんざりしたような表情になったのを見て、男の琴線に触れたのか、青筋を立ててさらに絡んでくる。


「んだ、その態度は!? 俺は天下八家直属の特人様だぞ! 俺に逆らったら、どうなるか……」


「うるせえなぁ……」


「ぎゃっ!」


 モンスはその男の顔面をボコボコにぶん殴った。思い返せば、最近モンスとしてこれだけ人間をズタボロにした記憶はなかった。それを同じ日に二回も。何かの予兆のようにも見えた。



 とりあえず、適当に何発か殴っておいた。どうせ、この男にまともな戦闘力はない。五発も殴れば顔面は腫れ上がり、原形を留めていなかった。歯もほぼ全てが抜けている。あまりにも弱い。弱すぎて、モンスは何の感情も抱けなかった。


「ほ、ほんなほぉひはは……」


 歯が抜け、何を喋っているのか分からない男をモンスは嘲笑し、一言。


「何言ってんのか分かんねえよ。ボケ」


 モンスは男の顔面を殴り潰し、殺害する。この男の言葉を信じるならば、これで天下八家に喧嘩を売れたことになるのだろうが、その見込みはまずないだろう。この男は天下八家に関係していないどころか、特人ですらないからだ。おそらくは天下八家の威光を振りかざしてるだけの馬鹿だろう。



 さしずめ、虎の威を借る狐といったところか。この男を殺して、天下八家に喧嘩を売れればそれはそれで楽だが、まぁ、そう都合よく事も運ばないだろう。



 いずれにしても、この男に利用価値などない。モンスはその死体を適当に打ち捨てて、返り血を消し去り、特校へと向かった。



 すでに教室には多くのクラスメイトが来ていた。モンスは適当に挨拶を返し、自身の机に座る。すると、サエナ、サユ、有紀の三人が近付いてくる。モンスは周囲の嫉妬の視線をわずかに感じながら、彼女たちと談笑する。



 とはいえ、このクラスは比較的穏やかな方だ。差別意識を持つ者はこのクラスには睨むことしかできない腰抜けしかいない。それ以外はそもそも差別に興味を持っていない。このクラスで唯一典型的だったヤタルが行方をくらませてから、この雰囲気は確定した。ヤタルの取り巻きたちはそれまでの態度を改め、すっかりクラスに馴染んでいる。

 まぁ、休校が半月程度で収まったために今日までの半月でしっかりと誠意を見せたのが功を奏したのだろう。ちなみに特校を経営している特人協会は敵は全て皆殺しにしたという偽りの情報を出している。実際に皆殺しにしたのはモンスなのだけれど。



 ただ取り巻きたちがあの襲撃以降行方不明になっているはずのヤタルを探そうとする素振りがないのは笑えた。どうやら、モンスの予想通り、取り巻きたちはヤタルに無理矢理あのような振る舞いをさせられていたようだ。その兆候は登校三日目の模擬戦の時にも如実に表れていた。



 いずれにしても、全員が目立った揉め事を起こさず、学校生活を送っている時点で本当にこのクラスは穏やかで利口だ。差別意識を持っている者もいることはいるが直接仕掛けてこないだけマシだ。まぁ、仕掛けられないから腰抜けとも言えるのだろうが。



 そこでモンスが顔をしかめる。それを見て、サユたちは首をかしげる。


「どしたの? モンス?」


「何かありましたか? モンスさん」


 サユと有紀が尋ねる。最初はセカンドネーム呼びだった彼女たちもすっかりモンスをファーストネームで呼ぶようになっていた。ちなみにモンスも彼女たちを下の名前で呼ぶように言われ、互いに下の名前で呼ぶ仲になったのだが、それはまた別の話。


「いや、朝っぱらからよくやるなって思ってよ……」


「廊下を見てごらん。二人とも」


 うんざりした顔になるモンスに二人が疑問符を浮かべていると、サエナが苦笑しながら指摘する。彼女も気付いていたのだ。教室の外の異変に。


「何だ、その言い草はよ!」


 突然の怒号にクラスの中が一瞬静まる。その沈黙をすぐに別の声が破る。


「大声出さないでよ! 耳に響くじゃない!」


「てめえが出させてんだろうが!」


「何それ? 言いがかり? 本当、さすが東部の出身。底が知れるわね」


「んだと!」


 どうやら、5組の教室の前の廊下で別のクラスの男女が言い合っているようだ。内容はこの短いやりとりで容易に理解できた。



 クラス全員がそのやりとりでほぼ理解できたらしく、さまざまな反応を見せる。うんざりした表情を見せる者や、無視を決め込む者。盛大に頷く者や忌々しげに舌打ちをする者もいた。


「やれやれ。何をそんなにギャーギャー喚いてんだよ。東と西の違いなんざ、どうでもいいだろうが……」


「全くだね……」


 モンスとサエナは心底呆れたような表情を浮かべているが、サユと有紀の顔は暗い。サエナがそれを見て、疑問符を頭に浮かべながら問う。


「どうしたの? 二人とも」


「い、いや。何でもありませんよ!」


「そうそう! 何でもない何でもない!」


「そう? なら、いいんだけど……」


 明らかに嘘だと思いながらもサエナはすんなりと引き下がる。比較的温和な方とはいえ、彼女も精霊。人間のことになど興味はない。あるのはモンスのことだけだ。


「女は分からねえが男は2組の奴だな。見覚えがある。確か、東側の名門の出の奴だ」


「どうする?」


「放置だろ。俺らが出ていって何ができる? ……ったく、ウチの教室の前で喧嘩なんかするなよなぁ……」


 ゲンナリとした顔をしながらもモンスは次なる作戦を頭の中で組み立てていた。別に、今、思いついたというわけではないがそろそろ使えるかもしれないと考えたのだ。ここは王都。揉め事の種は山ほどある。それをどのように活用するかが勝負だ。


「さて、じゃあ、お次のイベントを起こすとしましょうかね」


 モンスは誰にも聞こえない声でそう呟くと小さく口元を歪めた。

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