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2-16 呆れた終わり方

 体育館に戻ると、思っていたよりも場は整然としていた。だが、冷静に考えれば当然のことなので、モンスはすぐに調査を始め、情報でしか分かっていなかった状況を改めて把握する。



 騒いでいる者が少ないというだけで、体育館は充分地獄絵図だった。あちこちに鮮血が撒き散らされ、大量の死体が打ち捨てられている。その死体の大半が襲撃者たちだったことから、彼らは新入生たちに大した被害も与えられずに殺されたのだろうと判断する。

 それなりに鳴らした実力者であるはずの襲撃者たちがあっさりとやられたことにモンスは内心ため息をつくが、別に彼としては何も問題なかった。モンスからすればどっちが死んでも知ったことではないのだ。ただ人間に被害が与えられればそれでいい。その人物たちの所属は問わない。そもそも、連中では奇襲を仕掛けたところで返り討ちに遭うということを見越して扇動したのだ。この被害の少なさは完全に予定調和である。



 しかし、それでも少しは驚くこともあった。それは新入生たちのあまりの落ち着きようだ。三百人の内の十五人。割合にすればおよそ二十分の一程度の人間しか死んでいないが、それでも一部の人間をパニックにさせるには充分だった。もっとも、大半は場慣れしているのか大して焦ってはいなかったが。



 やがて、教師たちが慌てた表情で体育館の中に入ってくる。その場にいなかった彼らの方が慌てている時点で何かがおかしい気がするが、それも気のせいだろう。

 それよりも直前まで話をしていた学年主任はどこに行ったかと思っていたが、教師たちの中に紛れ込んでいた。どうやら、襲撃を受けて他の教師たちを呼びに行っていたらしい。これを冷静に援軍を呼びに行ったと考えるか、奇襲から逃げて生徒たちに対応を押しつけたと考えるかは人によって違うだろう。モンスは当然後者だと考えている。



 そんなことを考えながら、サユたちと合流すべく体育館を見渡したところで後始末に訪れた教師たちの声が聞こえてくる。


「にしても、突然襲撃を受けたと聞いて慌てて来てみれば、もう終わってるとはな。肩すかしもいいところだ」


「所詮、下民どもの集まり。我々を嫉んで襲ったところで、この程度が席の山さ」


「まぁ、今年の新入生が凄いっていうのもあるんだろうが、それを差し引いても救いようがないよなぁ。さすがは田舎者だ」


「全くだ。何より、こんなところに貴族以上の家の出身の生徒が来ると考えているところが、まず救えない。向こうでは、まともな教育を受けさせてもらえないんだろうなぁ」


 話が図らずも聞こえたモンスはあまりの会話のレベルの低さにため息を禁じえなかった。頭が悪いとかそういう次元ではない。本気で彼らは分かっていないのだ。



 彼らは知らない。いや、目をそらしているといった方が正確か。王都出身者が必ずしも優秀とは限らないということを。

 確かに努力もせずに自分より成功している者や上の地位に立つ者を嫉み、攻撃する馬鹿はいる。けれど、同様に生まれたときから高い地位を持ち、努力もせずに成功し、裕福な生活を送っている者がいるのもまた事実だ。そして、何も悪いことをしていないにもかかわらず、虐げられる者も存在する。



 環境は重要だ。人は環境によって、たやすく変わる。モンスがいい例だ。モンスとて、好き好んで人を恨み、彼らを攻撃しているわけではない。彼がこうなったのは自分と母が殺されたこともそうだが、最愛の母の遺体を辱められたからというのが理由だ。そして、その原因はモンスが持っていた謎の異能だった。



 別に今さらこの異能を疎ましく思うことはない。むしろ、これがなければヒューマン・イーターは結成できなかったし、人外たちに強い力を与えてやることもできなかった。そういう意味では感謝してもしきれない。けれど、それはモンスが人を破滅させると誓ったことで可能となったのだ。もし、モンスがあのまま塞ぎ込んでしまっていたら、この異能を疎ましく思い、永遠に恨み言を吐き続けていたかもしれない。



 どちらにせよ、出身だけで決めつけるべきではない。そもそも、王都内部とて身分闘争などというものが行われているのだ。教師(彼ら)も人のことを笑っている場合ではない。



 結局、人の世を生き抜く上で一番重要なのは運だ。たとえ、どれほど図抜けた才を持って生まれようが、悲運の天才という者は必ず存在する。運がなければ、どれほどの才と努力と環境を持っていようが無用の長物でしかない。



 そんなことを考えながら歩いていると探し人たちを見つけた。向こうもモンスの姿を見つけて、慌てた表情で近付いてくる。


「スピリアくん!」


 瞳に涙を溜めたサユがそう言って抱きついてくる。モンスが戸惑っていると、有紀たちがモンスの傍までやってくる。


「よかった。無事だったんですね」


 有紀も涙ぐみながら、モンスが無事だったことを喜んでいる。どうやら、途中でいなくなったことで敵に連れ去られた、ないしは殺されたとでも思っていたのかもしれない。唯一サエナだけが平然とした表情でモンスに話しかけてくる。


「にしても、途中からいなくなったけど、何かしてたの?」


「ああ。実はアーテング・レノが裏切ってな。それを追ったんだが、逃げられちまった」


「レノくんが!?」


「うそ……!」


「……いや、分からなくはないでしょ。今月の初めに彼がされたことを思い出してごらんよ」


 アーテングの裏切りにサユと有紀は信じられないという表情になる。だが、サエナに諭されたことで二人も得心がいったのか、小さく息を吐く。ヤタルに不意打ちを食らった上に執拗に暴行を受けた。にもかかわらず、お咎めなし。おまけにその前には母の形見である呪符を奪われたとモンスから聞かされていた。これで怒らない方が無理がある。


「……とにかく無事でよかった。本当に心配したんだよ。あいつらに殺されちゃったんじゃないかと思ったんだから」


 サユは涙をこぼしながら、そんなことを言う。モンスとて、そこまで鈍感ではない。サユと有紀の変化には気付いていた。問題はどうしてそうなったのかということだ。

 あまり複雑に考えても仕方がないのでシンプルに考えてみよう。なぜ、サユや有紀が自身に好意を抱くようになったのか。もしかして、最初の奇襲で彼女たちを助けたことが影響しているのだろうか。いくつか要因を考えてみたが、それ以外に考えられなかった。


(まぁ、どうでもいいか)


 人が自分にどういう感情を抱こうが知ったことではない。どのみち、全員皆殺しにするのだ。ならば、やりやすいように自身を信じさせるのは決して不利益ではない。


「ま、レノ以外は全員始末したみたいだし、ひとまずは収束したと言っていいんじゃねえの?」


「けど、これからが大変そうだよね。この襲撃で特校もしばらく休みになるかもしれないし」


「さあな。案外分からんぞ」


「どういう意味?」


「別に。常識や型に当てはめて考えすぎるのはよくねえって話だ」


 どのみち、これで終わりではない。学校はしばらく休校になるのは避けられないだろうが、モンスにはその前にやっておかなくてはならないことがある。



 ただその前に一服つきたい。今すぐにやるには、あまりに気分が乗ってない。


「……とりあえず、少し外に出る。お前らも気分転換でもしてきたらどうだ?」


 そう言って外に出ようとするモンスの袖をサユと有紀が掴む。


「ごめん。私たちも連れていって」


 モンスは彼女たちの言葉にわずかに目を見開き、苦笑しながら彼女たちの同行を許した。

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