2-17 退屈な後始末
その日の夜。モンスは一人、王都の北部を訪れていた。体格も服装もキング・アウトバンドのものに変えたモンスの眼前にそびえ立つのは七階建ての廃ビル。ここに今宵の獲物がいる。
『ここだな』
『はい。事前の調査により得た情報からすれば、連中の根城は十中八九ここです』
「OK。じゃあ、さっそく始めようか」
モンスはニヤリと笑うとカミュラの力を発現させ、廃ビルの玄関を燃やす。凄まじい炎が玄関を焼き尽くしそうなほどに燃え上がる。モンスは悠然と炎の中へ歩いていくと、唯一残しておいた玄関から上がる階段を見る。
「これで退路は断った。ゆるりと潰していくとしようか」
といっても、敵の居場所は分かっている。窓から飛び降りるという選択肢も結界を張ることで潰した。後は五階にあるというこのビルでもっとも大きな会議室に向かうだけだ。
一分足らずで目的地に着いたモンスはドアを蹴破って中に入る。すると、パニック状態になっている中年男性たちの姿が目に入ってくる。
「貴様は……」
ヨレがキングに扮したモンスを見て顔を硬直させる。他の幹部たちもモンスの顔を見て、顔を恐怖に歪める。
「ごきげんよう。『ウィーダラー・リリーフ』、王都第二支部の幹部諸君。落とし前をつけに来たよ」
モンスが言うと、幹部の一人は慌てて逃げようとする。しかし、出口は一つしか無いためモンスの横を通り抜けるより他になく、モンスの横を通った瞬間に頭を掴まれ、超高温の炎で頭部から上を焼失させられる。
「心配するなよ。俺も鬼じゃねえんだ。いたぶらず、すぐに終わらせてやるよ」
モンスは両手に刀と脇差しを出現させると近くにいた六人を一瞬で切り捨てる。その流れのままさらに二人の首をはねて、最後は呆然と立ち尽くしているヨレの首に刀を添える。
「なぜだ……? お前は私たちと手を組むと言って……」
「んなこと、一言も言った記憶はねえよ。俺はただ三日前の襲撃に乗じて、特校を襲わねえかと提案しただけ。そして、お前らはそれを実行した。それだけだ」
モンスはそう言って、脇差しを地面に突き刺すと、刀を引いてヨレの顔面を殴る。ヨレはそのまま壁に背中を打ち付けて、呻きながら座り込む。
ヨレはモンスを憎悪に満ちた目で睨みつける。
「き、貴様……! こんなことをして、ただで……!」
「すむだろ。そもそも、お前らみたいなゴミどもが俺らに何ができるっていうんだ?」
その言葉にヨレは口をつぐませる。ウィーダラー・リリーフは所詮は田舎出身の素人と爪弾き者の特人たちの集まり。その総合力はヒューマン・イーターに遠く及ばない。それは彼らが長い時間をかけても成し遂げられなかった王都の要地を抑えるという作業をヒューマン・イーターがあっさりと複数こなしていることからも如実に表れている。ウィーダラー・リリーフがヒューマン・イーターにできることなど何もない。
しかし、それが分かっていたとしても感情は別だ。自分たちが新参者に利用されていた事実。それを認められるほど、ヨレの自尊心は低くなかった。
「なぜだ! 貴様は一体何が目的なんだ!? 我々の目的を超えるほどに崇高なのか!!? そんなはずがない!! 我々の望みは真の平等だ!! それを上回る崇高さなど……!!」
「うるっせえなぁ……」
モンスは鬱陶しそうな表情でヨレの心臓を突き刺す。何のためらいもない一撃にヨレは一瞬呆けた顔になる。
「あ……が……っ!」
すぐに胸に走る激痛に口をパクパクとさせる。しかし、声は出ない。出すだけの余力がない。
「もう充分頑張ったろ。これ以上無駄な足掻きはやめて休めよ。元奴隷さん」
モンスは止めを刺すように、優しい声で言う。ヨレは大きく目を見開く。もっとも指摘されたくなかったこと。彼のもっとも恥ずべき過去を暴露され、モンスに掴みかかろうとするが腕が上がらない。ヨレは目を血走らせ、大きく見開かせた状態で意識を手放す。
「つまんねえ終わりだが、ひとまずこれでいいだろ」
別に今回の襲撃は必要だったわけではない。けれど、人間を殺せるというメリットはあまりにも大きかった。たとえ、この一件で何らかの綻びができて、潜入に支障が出ても構わなかった。もう仕込みは十二分にできている。できるだけ、じっくり痛めつけるために潜伏しているだけで、本当は今すぐ動いても問題ない。
「とはいえ、バレない方が面白いか。なら、できるだけ痕跡消して、バレねえようにしとかねえとな」
モンスはそう言って会議室内に転がる死体を見下ろす。精霊たちを呼び出すと、後始末を始めた。とはいえ、玄関は大火災でこの大会議室は十人の死体と血の海。目撃者のことも考えればかなり面倒なはずだが、モンスの表情はゆとりそのものだった。なぜなら、人間相手に配慮する理由などないからだ。火災は無理でも人間の死体は誤魔化せる。モンスはヨレの死体を片手で担ぎ上げると精霊空間へと放り込んだ。




