2-13 急襲
再び学校が始まった。とはいえ、特段変わったことはなかった。未来永劫続くのではないかと思えるほど退屈な学校生活だった。申し訳程度に基礎的な知識として語学や数学、科学、歴史学などを教え、そして、特人としての知識や訓練を徹底的に施していく。そして、それらは基本的に生徒の自主性の元に行われる。結果、拙くてつまらないカリキュラムが出来上がっていた。
本当につまらない。しかし、生徒たちはこんなものでも身になるものがあるのが、充実した表情をしている者が過半数を占めている。カザイルなどの一部例外はいるものの、風間を中心にだいぶクラスも纏まってきたように思える。右も左も分からぬまま、特校に入った彼らにとって、このクラスは徐々にかけがえのないものになりつつあるということだろう。まぁ、これから先もこのままという保証などどこにもないが。
昼休み。モンスは一人、学校をぶらつく。何の意味もなくぶらついているわけではない。きちんと考えがあっての行動だ。モンスは周囲を時折見渡しながら歩いていく。それは何かを確認しているかのように見える。
「監視カメラ、高性能集音器、赤外線センサー、それに申し訳程度に呪力による感知タイプのトラップ……か。改めて確認してもなかなかだな。まぁ、この方が都合がいいか」
モンスはそう独りごちて、校舎の方へと戻っていった。
放課後。モンスはクラスメイトたちと適当に雑談をする。その面子は全員が美少女というある意味凄いものだ。おかげでクラスどころか学校中の男子から目の敵にされてしまっている状況だが、モンスとしては慣れたものなので気にもならない。それにその視線のいくつかは演技だ。モンスはその演技力の高さにむしろ内心で称賛を送っていた。
しばらくの間駄弁っていると、誰かが階段を上がる足音が聞こえてくる。モンスはそれを聞いて、おしゃべりを止めて前を見る。今、彼らがいるのは入学式を行った体育館だ。この学校では週初めに学年ごとに集会を行っている。一週間に一度、学年全体での交流の場を作ることで他クラスとの親睦を深めさせると同時に競争意識を煽ろうという狙いがあるわけだ。もっとも、こんなクラスごとに纏まって集まったところでどれほど効果があるかは疑問ではあるけれど。
壇上に上がったのは学年主任だという三十代後半くらいの男性だった。男性は注意事項や、お知らせ、今週一週間も頑張っていけ、などということを言って壇上を降りていく。
モンスの近くで退屈そうに聞いていた男子生徒は集会が終わったのを確認して、ポケットからスマホを取り出す。だが、取り出す際にスマホを間違って落としてしまい、男子生徒はそれを拾うべく右手を下げる。それは止まることなく、地面へと落下していく。
「は?」
男子生徒はそんな間の抜けた声を出す。自身の右腕を見ると、二の腕から先が無くなっており、そこから大量の血が出ていた。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
男子生徒は叫ぶ。その声をかき消すかのように男子生徒の首に矢が刺さる。男子生徒は声にならない悲鳴を上げながら、血反吐を吐いて倒れる。生徒たちの注目が男子生徒に集まり、彼の惨状を見て悲鳴を上げる。
モンスはそれに構わず右に視線を移すと有紀に斬りかかる覆面を被った男がいることに気付く。同時に前から自身を撃ち抜こうとしているサングラスを被った人物がいることが分かる。それらを一瞬で把握したモンスは右手に刀を出現させると有紀を斬ろうとする覆面男の両腕を一太刀で斬り落とし、その首をはねながら、覆面男から奪った刀をサングラス男に投げる。利き腕ではない左腕で投げたものだったが、その刀は正確にサングラス男の額を貫き、ほぼ同時に二人を絶命させる。
「え?」
この間に瞬きほどの時間もかかっていない。今のモンスの動きを理解できたのは近くにいたサエナを含む数人だけだろう。サユたちは何が起きたか分からずに間の抜けた声を上げている。男子生徒に注目していた生徒たちのほとんどはモンスの動きどころか、今、下手人たちが殺されたことすら理解できていないようだ。
同時に煙幕のようなものが体育館にばらまかれる。周囲の視界が一気に悪くなり、これに乗じて奇襲をかけようとしているのがミエミエだった。
「来たか……」
普通に考えれば、状況の把握すら困難な状態でモンスは焦りを見せていなかった。それはあらかじめ言い含めておいた自身の配下たちも同様だ。彼らはこの襲撃の下手人たちの正体などすぐに分かった。彼らは『ウィーダラー・リリーフ』。王都と田舎の格差をなくそうと動く西側の国民グループだ。彼らはこの学校の生徒たちを狙って仕掛けてきたのだ。
ここは実は王都がそこまで警備を強化していない場所である。なぜなら、ここにいるのは特人の見習い以下であり、国の戦力として見なされていない。名門出身の人間もたくさんいるのだが、彼らはそもそも下手な警備よりも遥かに強力な手練れを従者として従えている。基本的に従者は名家の子息と同年代だが、幼い頃からの厳しい修練により、凄まじい力を有している。彼らがいれば子息を守れるというのが国の上層部及び彼らの両親の考えのようだ。
それでも、せめて警備を厳重にするべきだとは思うのだが、要人がイベントなどでここに訪れる時以外は基本的に機械や申し訳程度の呪力トラップ、それと特人上がりの警備員が軽く巡回している程度のセキュリティに留まっている。この学校に通う生徒たちを殺されても、すぐに代わりを編入させればいいという考え方だ。
確かにここにいる者たちをいくら殺したところで大して被害にはならないかもしれない。しかし、ここにいるのは歴代の中でも逸材揃いとされている学年全員だ。短期的に見れば微々たる被害でも、長期的に見ればその被害は決して微々たるものではない。
けれど、それは逆に言えば襲撃するリスクが高いということだ。特校に入ったばかりで、大した技術も経験も得ていない一年生を狙うのは合理的ではあるが、それは普通に考えればの話。今年の一年生は才能に溢れ、実戦経験豊富な者も多い。それを攻撃するならば、向こうも相応の被害は覚悟しなくてはならない。
まぁ、いずれにしてもはっきりと断言できるのは、やはりこの国はそう長くないということか。特校も以前の王朝から引き継いだ形で運営しているのが現状だ。彼らに特人を育てるノウハウなどない。
それは構わない。それはモンスたちにとって好都合だからだ。歯ごたえはなくなるが、敵が弱っている方が目的は達成しやすいのは事実。それに文句を言う者など、ヒューマン・イーターにはいない。
モンスにとっての不都合は別にあった。
「やれやれ。もっと遅くに来てくりゃいいものを。おかげで、聞きそびれちまった。まぁ、自業自得だけどよ」
モンスはため息をつきつつ、自身に攻撃を仕掛けてくる敵を適当に斬りながら、三日前のことを思い出していた。




