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2-12 墓参り

 今日は特校の休日。モンスは王都から離れ、自身の生まれ故郷にやってきた。相変わらず、瓦礫があちこちに散乱し、腐臭に集る蛾や蝿があちこちを飛んでいる。原型など微塵も留めていない。人の気配など欠片も存在しない、その場所は文字通りの廃村だった。

 別にこんな廃村に用があるわけではない。今さらだし、そもそも自分の手で壊滅させたのだ。自分たちを迫害し続けてきた場所に何の未練もない。



 モンスが用があったのは故郷のすぐ傍にある墓だ。山を少し登ったところにある広場のような場所。その中心に灰色の墓標があった。ここにモンス――ワーナーの母、ヤナエ・カルドザスが眠っているのだ。



 モンスはその前に立つと、ゆっくりとしゃがみ込み、両手を合わせる。すると、両隣に十人の精霊が出現する。現在、精霊空間に住む精霊全員が出現したのをモンスは感情の読めない目で見る。



 彼女たちはいずれも手を合わせている。そして、彼女たちの主であるモンスには彼女たちが本心から母の死を悼んでることが分かる。



 灰色の髪の小柄な少女がモンスに何か言いたげな顔になる。モンスは優しい笑みを浮かべながら、彼女の頭を優しく撫でる。


「どうした? 聞きたいことがあるなら、遠慮なく聞けよ。ナナ」


「あ、うん。ふと、気になったんだけど、モンスってお母さん以外に家族っているの?」


 その問いに他の精霊たちの表情が――度合いに違いはあれど――変わる。モンスが母を唯一の家族として慕っていたのはヒューマン・イーターに属する者なら誰もが知っていることだ。それを承知の上で、他に家族がいたのかを問うなどデリカシーがないにもほどがある。スーザンやラムが咎めようとするがモンスは苦笑しながら答える。


「一応、血の繋がった奴らならいるな。俺の記憶が正しければ、確か四人か。もう十年近く会ってないし、興味もねえけどよ」


 これは事実だ。正直、他の血縁者のことなど知識の上でしか知らない。逆に言えば、血が繋がっていなくとも知れる程度には四人とも有名ということだ。とくにモンスの父の名は国の全土に広がっていると言ってもいいほどの知名度を誇っている。何なら、特人の英雄と称されている。だからこそ、モンスたちにとっては仇敵となり得るわけだが。


外束王(がいそくおう)を討った男、クレナール・カルドザスか。実力だけでなく人望も厚い人格者と評判だが、実態は本当の善人にはほど遠いクソ野郎なんだよなぁ」


 そもそも本当に人格者なら、実の息子であるモンスがあれほど迫害されていて、何もしないわけがない。彼は確かに子煩悩ではあったのだろう。しかし、それは優秀な姉と兄、それと妹に対してだけだ。兄弟の中でもっとも異端にして、もっとも鼻つまみ者であるワーナーのことなど大して見ていなかったと記憶している。



 あまりにも昔すぎてはっきりと覚えているわけではない。けれど、ヤナエとクレナールが別居するきっかけとなったのは間違いなくヤナエがワーナーを庇ったことが理由だ。その時点でクレナールがワーナーに対してどのような感情を抱いていたかなど容易に想像がつく。


「まぁ、今さらどうでもいいことだけどな」


 そもそも、ここに来たのも母の月命日だからだ。最近は特校関連でバタバタしていて、ロクにここに足を運べていなかった。それも落ち着き、今日が月命日ということで向かったのだ。今、彼が思い出すべきは母のことであり、記憶も朧気な父や兄弟たちのことなど知ったことではない。まぁ、それで無理矢理頭から消そうとするのはそれはそれで意識している証左になるので、いい手段とは言えないのだが。


「さて……それじゃ、そろそろ行くか。ねえとは思うが、あまり長居して誰かに見られてもつまらねえし」


「そういえば、お供え物とかもしないんですね」


「茶菓子なんか供えても仕方ねえだろ。俺らを殺した連中の首はとっくに供えたしな。今は何も必要ねえ。今んところはな」


 モンスはそう言って墓に背を向けて歩きはじめる。彼は王都にある特校の学生寮に戻るつもりだ。それを見て、他の精霊たちは精霊空間へと戻っていく。



 獣道を抜けると隣町に出る。といっても、ここもすでに廃墟同然だが。

 その有様を横目に歩いていると、不意に瓦礫の上に人が乗っていることに気付く。立ち止まってよく見てみると、その人物は長い黒髪を白いリボンで束ね、ポニーテールにした少女だった。向こうもモンスに気付いたらしく、その翡翠色の瞳でジッとモンスを見る。



 少しの間、二人は互いの目を見る。それは睨み合いなどではなく、ただ見つめ合っているだけだった。やがて、少女はその視線を逸らすと、モンスとは逆方向に飛び降りる。

 モンスはそれを見届けると、左手で後頭部を掻く。


「あいつ、こんなところで何してんだ?」


 モンスは首をひねる。知っている人物ではあった。特校の同級生でモンスの協力者だ。だから、今のところは敵というわけではない。それでも……。


「まあいいか。また、明後日あたり聞けばいいだろ」


 そう結論づけるとモンスは再び王都の方へと歩を進めた。 


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