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2-11 陰より動きはじめる

 その日の授業を終え、サユと有紀と別れたモンスはサエナと共に精霊空間へと戻る。適当な廊下から入った二人はそのまま進み、モンスが私室として利用している部屋へと入っていく。その部屋は特校の体育館の倍以上は楽にある広い部屋であり、さまざまな高価な調度品が置かれていた。それだけでなく、壁紙もカーペットも金に統一されていた。ベッドも全てが金箔で作られており、ここまで来ると下手な成金よりも趣味が悪く見える。言うまでもなく、この空間でもっとも豪華な部屋だ。

 そこにはこの空間の居住者である九人の精霊がいた。精霊たちはモンスが来ることが分かっていたのか、跪きながら待っていた。



 その一番右端にいた白髪を腰まで伸ばした少女が口を開く。


「お久しぶりです。モンス様」


「ん。久しぶりだな。ラム。他の連中も壮健そうで何よりだ。つっても、直接接触してないだけでラム以外は学校で会ってんだけどな。サエナに至っては同じクラスだし」


 ヒューマン・イーターの人外たちだけでなく、サエナ以外の側近の精霊たちも特校に潜入させている。このラムだけは空間の整備のためにここに残したが、彼女にもなんやかんやで暗躍してもらっている。ちなみに彼女はこの五年で発見した精霊の一人だ。


「さて、説明はいらねえな。さっそく、今夜から仕掛ける」


「分かりました。私たちもお共します」


「いや、付き添いはいらねえ。俺一人でやる」


 スーザンの提案をモンスはばっさりと切り捨てる。スーザンはそれに困惑した表情を浮かべる。他の精霊たちも同様だ。


「なぜですか? 確かに我々などいなくとも、モンス様の身に万が一があるとは思いませんが、それでも我々が同行した方がいいと思うのですが……」


「馬鹿野郎。こういうのは大将が一人で先陣切るもんだろ? 宣戦布告を部下に任せっきりにするのは合理的だが臆病者のやることだ。部下を引っ張るんなら相応の力を見せなきゃいけねえ。圧倒的な力と器を見せてこそ下は上に付き従う。そいつは絶対的な摂理だ。それに少しばかりやっときたいことがあるしな。そのためには一人の方が都合がいい」


 モンスは右腕をゴキリと鳴らす。とある勢力が動き出していることを悟っている彼の頭にはすでにあるプランがあった。


「いつものようにキングの姿形の上にフードと仮面を被る。その状態でいつもみたいに数十から数百人も殺せば充分だろ。そこからは俺の腕の見せ所だ」


 振り向きざまに告げるモンスに何か思うところがあったのかラムは不敵な笑みを浮かべる。


「なるほど。さすがはモンス様。何か妙案があるのですね?」


「ああ、あるぜ。滅茶苦茶面白くなると確信を持って言えるとびきりのやつがな」


 自信に満ちた笑みでモンスは言う。それにほとんどの精霊たちは感嘆の息を吐くが、サエナはどこか不安そうな顔になって口を開く。


「……自信満々に言ってるわりにはどこか煮え切らないね。何か不安要素でもあるの?」


「いや、それはねえが、ちょっと気になることがあってな……。考えすぎだとは思うんだが一応念は入れといた方がいいかと思ってな」


 当初の予定では手始めに適当な勢力を扇動し、牽制程度に王都を攪乱してやるつもりだった。しかし、あの時に感じた違和感の正体が分からない以上、少しだけ考えて動く必要がありそうだ。


「ま、そこまで気にするほどのもんでもねえ。俺がこれからやることに支障があるわけでもねえしな」


 そこで間を置く。モンスは大きく息を吸って、それを一気に吐くと狂気に満ちた笑みを浮かべる。


「……さあて、これから楽しい楽しい殺戮劇だ。それもこの国でもっともでかい街でやるんだ。腕が鳴るぜ!」


 そう叫ぶモンスの表情は明日の遠足が楽しみで仕方がないといった子供の笑顔に似ていた。そりゃそうだ。これからやることは人間を無茶苦茶にすること。これ以上の楽しみなどモンスにはない。



 モンスはキング・アウトバンドの顔と体格に変化させ、それをフードと仮面で隠すと勢いよく精霊空間から飛び出していった。






 ○○○○○


 モンスが飛び出したのは王都の南部。その東方にある繁華街だった。ここはちょっとした歓楽街で呉服屋や娯楽施設、飲食店などが並ぶ。時間を操作したので日付が変わるまであと一時間というところまで来ていたが、この深夜でも人は多く、喧噪に満ちていた。翌日が休日というのが大きいのだろう。まぁ、それを狙ったのだが。



 高層ビルの屋上の手すりに腰かけたモンスは周囲を一望する。そして、仮面の奥でニヤリと笑うと右手に薙刀を出現させ、飛び降りる。

 二百メートルはありそうなビルだったが落下するときは一瞬だ。目にも止まらぬ速さで地面に到達したモンスは強靱な足で着地すると、衝撃によるダメージも感じることなく行動に移る。



 周囲の人間が黒いフードの人物が落ちてきたと認識したときにはすでに遅かった。モンスが大きく横薙ぎに振るうと二十人以上の人間が胴体を真っ二つに裂かれる。上半身と下半身が別離した者たちは口から血を吐き、間抜け面を晒しながら地面に崩れ落ちた。



 しばらくの間、うるさかった街は静かになった。今も音を出し続けているのは意志のない機械だけだ。無意味に陽気なロックを流し続けている。どうやら、群衆は目の前で突然起こった凄惨な光景に理解が追いついていないらしい。だが、人々は徐々に現実を理解しはじめる。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 黄緑のワンピースを着た女性が大声で泣き叫ぶ。モンスはあまりのうるささに眉を寄せながらも、その女性の頭を一撃で割ると、できるだけ多くの人間に聞こえるように声を張り上げ、宣言する。


「俺たちはヒューマン・イーター! 貴様ら害虫を誅する正義の組織だ!!」


 言い終えると同時に動き出す。薙刀を振るい、周囲にいた二百人あまりの人間を三十秒足らずで斬り殺す。離れていた人間も惨事に気付いたのか、悲鳴を上げながら逃げ惑う。中には興味深そうな目で騒動の中心をスマートフォンで撮影している者や野次馬根性で椅子の上に乗って状況を把握しようとしている者がいる。その全てがモンスにとっては獲物でしかなかった。



 ここで特校の生徒を殺すのはよくない。彼らにはもっと相応しい死に場所を用意する。だから、彼らは殺さない。その分の制約が鬱陶しくもあるが、後のことを考えれば我慢もできる。



 モンスは撮影していた人間に左手を向け、そこから発射された青い光線で撃ち殺すと、軽く跳躍して椅子の上に乗っていた者の首を刎ねる。

 そして、もっとも広範囲殲滅に向いたカミュラの炎を使って街ごと群衆を焼き殺していく。人々は無様な断末魔を上げながら息絶えていく。モンスはそれに嗜虐的な笑みを浮かべながらも、なおも炎の展開範囲を広げていくと、不意に背後から近付いてくる者に気付く。



 右後ろから白い光線が自身めがけて放たれる。モンスはそれが何の特殊効果もない、物理的な効果しかないことを一瞬で把握すると薙刀を振るってかき消す。すると、追撃するかのように同じ光線五発が五方向から発射されたのでクルッと一回転しながら、薙刀を振るって全てを防ぐ。



 そのまま左の方を見ると一人のフードを被った人物が紅蓮の炎をものともせずに悠然と歩いてくる。モンスと違って顔を隠していないので、その人物の正体は容易に見当がついた。その上でモンスはあえて違う方向から話を切り出す。


「なるほど、術で防火をしたわけか」


「……貴様がここ数年、国を騒がせている『ヒューマン・イーター』の総統、キング・アウトバンドか?」


「いかにも」


 モンスは少しも迷わずに頷く。フードの人物はそんな彼を殺意のこもった目で睨みつける。


「お前は今まで王都にだけは手を出してこなかった。なのに、なぜ急にここを地獄絵図にした?」


「別に。ただの気まぐれだ。貴様らが理解できるような動機など持ち合わせていない」


「そうか。ならば、ここで死ね」


 フードの人物は懐から十枚の呪符(・・)を取り出す。モンスはそれに一瞬だけ考える素振りを見せる。このまま火力を上げるなり、術を無効化するなりしてフードの人物を焼くことは可能ではある。しかし、それでは意味がない。



 結局炎を使わずにフードの人物を制圧することに決めた。モンスはフードの人物が十枚の呪符全てを使って、巨大な氷の刃を空中に顕現させたのを見て動き出す。簡単に言えば、フードの人物に一直線に近付いていったのだ。フードの人物が反撃(・・)しやすい(・・・・)ように。

 フードの人物はその誘いにあっさりと乗った。直線的なモンスの動きに合わせて氷の刃を振り下ろす。モンスはそれを薙刀を振り上げて一撃で粉砕すると、動揺して隙だらけのフードの人物の頭を空いた左手で掴み、地面に叩きつける。そして、その喉元に薙刀を突きつける。


「チェックメイトだな」


「くっ……」


 フードの人物は悔しそうに歯噛みする。モンスは薙刀を突きつけながら、作戦を実行するべく、口を開く。


「一つ提案があるんだが、いいか?」


 モンスは自分と同じようにフードを被った人物にそう語りかけた。

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