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1-3 精霊空間

 見知らぬ少女が四人。どう見ても彼女たちがサエナの仲間だろうと判断できる程度には今のワーナーは冷静だった。それよりも気になるのは赤髪の少女が口にした『オーナー』という単語だ。一応さまざまな生物と接触したことで年齢相応以上の知識を得ているので、その言葉の意味は理解できた。しかし、その言葉が指し示す意味はさっぱり分からなかった。

 それを聞きたいところではあったが、どうやら彼女からは警戒されているようなので簡単にはいかないだろうということは分かっていることだ。先ほどワーナーの言葉に答えたのも牽制と取れなくはなかった。仕方がないので頭の中でぼんやりとその言葉の意味を考えていると赤髪の少女がサエナに向かって口を開く。


「何をモタモタやっているの。試練をクリアした人間が現れたんなら早く言いなさいよ」


「ごめんごめん。十秒足らずでクリアされたものだから、私もちょっと動揺しててさ。連絡が遅れてしまったよ」


「十秒足らずでクリア……!?」


 サエナの言葉を聞いて、四人の顔が驚愕に染まり、ワーナーの方を見る。先ほどの会話を聞いた感じでは、先刻自分に話しかけたのはやはり赤髪の少女のようだ、などとワーナーは場違いなことを考えていた。


「あんた……」


「ん?」


「本当にそんな短時間で試練をクリアしたの?」


 猜疑心に満ちた目で赤髪の少女はこちらを見てくる。ワーナーは左手の人差し指で頬をポリポリと掻きながら答える。


「あのわけの分からない感覚のことを言ってるのなら、多分本当」


「多分って何よ?」


「いや……。だって、ぼくは試練のことなんてよく分かってないんだもん」


「ああ。いつも通り、こっちに来てすぐに湖に叩き込んだから、彼は何も知らないんだ。それを、今、質問形式で説明してたところだったんだよ。でも、試練をクリアしたのは本当だ。それは私が保証する」


「そう。あんたが言うんなら本当なんでしょうね……」


 赤髪の少女はそう呟くとワーナーの方に近付いてくる。他の三人やサエナもワーナーの方に歩いてくる。ワーナーは身構えるが、それは杞憂だった。側に来た五人全員が椅子に座るワーナーを囲む形で(ひざまず)いたからだ。


「どういうつもり?」


「ああ、ごめん。試練を乗り越えた意味についての説明も当然まだからね。君の疑問に答えるためにこの体勢で説明しよう」


「いや、全員座って説明してくれていいよ。むしろ、理由も分からずにそんなことされても困る」


「それもそうだね。じゃあ、無礼を承知の上で座った上で説明しようか」


 随分とへりくだるな、とワーナーは思う。どうやら、オーナーというのは彼女たちにとって、跪かなくてはならないほど重要な立場であるらしい。サエナや赤髪の少女は追加で出現させたソファに普通に座っているが、遠慮しがちに座っている少女が一人いた。


「率直に言おう。先ほどの試練をクリアした時点で君はこの空間のオーナーに就任したんだ。そして、その時点で私たちは君の命令なら何でも従う(しもべ)になったというわけだ」


「………………」


 すぐには反応できなかった。何言ってんだ、こいつという顔をしてしまったのは仕方のないことだ。けれど、ゆっくりと考えれば何となくサエナの言いたいことが分かってきた。


「さっき、君はこの空間が君たちの居住空間だと言っていた。そして、さっきの歪みみたいなのに耐えた時点で僕はここの持ち主みたいなものになった。そういうこと?」


「ご明察。どうやら、歳に見合わず、かなりの頭脳を持っているらしい」


「まぁ、いろいろと教えてくれる子が周りにたくさんいたからね」


 言うまでもなく人ならざる者たちのことだが、そんなことを知るよしもない少女たちの中には不思議そうに首をかしげる者がいた。


「まあいいや。それなら、まずは君たちの名前を教えてくれよ。名前が分からないのは不便だ。ちなみにぼくはワーナー・カルドザスだ」


「カミュラよ」


「我が輩はアリスである」


「スーザンと申します」


「……ネル」


 ワーナーの名乗りに追従する形で四人がそれぞれ名を名乗る。赤髪の少女がカミュラ、興味深そうな目で見ていた紫色の髪の少女がアリス、温和そうな金髪の少女がスーザン、無表情で感情が読めない目をしている白髪の少女がネルという名のようだ。


「うん。よろしく」


 ワーナーは彼女たちにニッコリと笑いかける。その笑みに五人の少女たちは顔を紅潮させる。カミュラは(ほぞ)を噛み、右手の人差し指をワーナーに向けて叫ぶ。


「今は従うけど、もし、あんたがズルして試練をクリアしたっていうのが分かったら、即行で反旗を翻すからね!」


 腰に手を当ててそんなことを言うカミュラにスーザンはニコニコと笑いながら言葉を紡ぐ。


「無理しなくていいんですよ。カミュラ」


「無理なんかしてない!」


 当人はそんなことを言っているが、顔を真っ赤にしているため説得力はない。彼女も分かっているのである。ワーナーは真にこの空間のオーナーとなれる器を持っているのだと。


「ふふっ」


「何よ、その目は」


「何でもないです」


 なおもクスクスと小さく笑うスーザンにカミュラの機嫌が降下し、鋭い目をスーザンに向ける。スーザンは気にした様子を見せず、屈託のない笑みを全く崩さない。



 彼女たちのやりとりは微笑ましく、どちらも類い稀な美貌を持ち合わせていることもあって、いつまでも見ていたかったが、ワーナーはここでやらなくてはならないことを思い出す。


「ここまでダラダラと喋っておいてなんだけど、できるなら今すぐにでもぼくを元の世界に戻してくれない? ちょっと、確かめたいことがあるんだ」


 そう。あまりに不可解な出来事が起こったために思わず質問を重ねてしまっていたが、本当はこんなことをしている場合ではない。この空間に来る前にワーナーは間違いなく殺されたのだ。

 その後がどうなってるかは想像がつく。けれど、最悪の想像だけは当たっていてほしくはない。それをできるだけ早く確認したかった。


「了解しました。準備を始めます」


 スーザンはワーナーの要望を受けて両手を合わせる。他の四人も同様に両手を合わせる。次の瞬間、再びワーナーの意識が遠のいていった。

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