2-7 5組の実力
登校三日目。この日は朝に適当に話をした後すぐに体育館に向かうように告げられる。これまでの二日はすぐに終わってしまったので、何となく変な気分になりつつも教室を出る。展開が早く感じるのは、これまで学校に行っていなかった弊害だろうと内心笑いつつもすました顔でサユたちと体育館に向かう。
今日は模擬戦。これである程度クラスメイトの力は分かる。しかし、このイベントはチャンスであると同時にピンチでもある。他の潜入させた連中にも言い含めておいたとはいえ、どうなるか分からないというのが本音だった。ハイリスクハイリターンをこんな序盤とも呼べない状況で仕掛けるのは癪だが、ここで動かなくては話にならない。それこそ……。
「……ふん。何を馬鹿な……」
「何が馬鹿なの?」
小さな声で呟いたつもりの独り言だったが、どうやらサユに聞かれていたらしく、意味を尋ねられてしまう。モンスは内心舌打ちしながらも、左手で頬を掻きながら答える。
「ん? ああ、いや、今年は例年と比べても明らかに力のある奴ばかりがいるからな。手も足も出なかったらどうするかなんてくだらねえことを考えちまったのさ」
「へぇ~、意外。スピリアくんって自分に自信を持ってる人だと思ってたんだけど。昨日も風間くんが提案した自己紹介を無視してたし」
覚悟していたとはいえ、やはり目立っていたようだ。それはそうだ。何せ、今後クラスの中心人物になっていくであろう風間の提案を蹴ったのだ。目立たないわけがない。けれど、力をひけらかして目立つよりは遙かにマシだ。こんな初期段階で無駄に能力を晒したところで何のメリットもない。
「そうでもねえよ。俺なんざ、強がってるだけの平凡な奴だ。自信なんざ欠片もねえ。それといちいちセカンドネームで呼ばなくていいぜ。モンスでいい」
「OK。アタシもサユでいいよ、モンス」
「了解した、サユ」
モンスが小さく頷くとサユはなぜか苦笑する。
「どうした?」
「やー。初めて呼んでくれた名前がファーストネームって、よく考えてみると結構積極的だなって思って」
(……ちっ。意外とよく見てやがるな。こいつの名を今まで呼んだことがなかったことに気付かれた)
モンスの中の人間の優先順位は地の果てのさらに下だ。わざわざ好き好んで彼らを区別する記号である名を呼ぼうとは思わない。呼ぶのは基本的には必要最低限だ。それで困ったことはないし、わざわざ指摘するような人間とはあまり付き合ってこなかった。
けれど、ここではそうはいかない。ここはモンスの計画の中ではかなり重要な場所だ。側近の精霊たちを除いた『ヒューマン・イーター』の構成員たちにも言っていないが、モンスが握っている情報が確かならば、ここでの動きが全てだといっても過言ではない。
だから、人間相手にもそれなりの付き合いというものを要求される。
(とはいえ、あまり気負いすぎるのもよくないがな)
これらをほぼ一瞬で思考してみせたモンスは、客観的に見ればサユの言葉に即座に返答してみせる。
「そうだったか? まぁ、お前らと知り合ってまだ三日だしな。しょうがねえだろ」
「そうかなぁ……。モンスって意外と人見知り?」
「さてな。自分じゃ、よく分からねえ」
そんなとりとめもないことを話しながら歩いていると、体育館に到着する。ここは一昨日入学式を行った体育館とは違う。ここは複数の体育館が存在しており、ここが今日5組が使用することになる場所だ。
体育館に入るとモンスはサユ、有紀、サエナの三人とともに隅の方に移動する。そして、適当に雑談をする。ちなみに相変わらず嫉妬の視線を受けているが、それに関してはどうでもいい。多少遊ぶくらいは何の問題もないからだ。何せ、特人たちは別のことで手一杯なのだから。
「教室でも説明しましたが、この模擬戦は全部で十五戦行われます。クラス三十名全員が一回は戦ってもらうことになります。それでは最初の対戦者の名を呼びます。話江木空也。シーモン・カウ・アリセオ。両者、前へ」
黒髪の男子生徒と紫髪の女子生徒が体育館中央に出る。他の生徒たちは二階にある客席まで上がっていく。モンスは他の生徒たちに続きながら、チラリと対戦者二人の容貌を見たが、どちらもなかなか派手な風貌だった。話江木と呼ばれた男子生徒は髪こそ染めてないが、髪型をツーブロックにし、口に銀のピアスを五つつけるというなかなかな風貌をしている。よく見ると、左手首からシャツで隠れた左腕の方へと何やら刺青も入れているようだ。ベルトを使って帯刀していることもあって、その筋の人間にも見えなくはない。
シーモンと呼ばれた女子生徒は顔立ちこそ綺麗系に分類されるものだったが、左頬から唇の下にかけて龍のペイントをしており、化粧もなかなかケバかった。制服も改造しているのか、スカートが短いのはもちろん上もへそを出し、腕も裾をばっさりと切って脇まで露出させており、かなり露出度の高い格好をしていた。
しかし、コユトマは何も言わない。この学校は先にも言ったように生徒の自主性に任せている。制服さえ着ていれば、どれほどおしゃれをしていても文句は言わないのだ。要は成果さえ出せば文句は言わないという典型的な成果主義である。
「両者、準備はいいですか? それでは、始め」
コユトマの号令で二人は動き出す。二人の動きはそれなりに速かった。話江木は即座に抜刀し、シーモンに斬りかかる。シーモンは体を反らして、それをかわす。同時に左手から氷を出し、それを糸のように伸ばして、話江木の顔面を狙う。話江木が刀で弾くと、甲高い音が響く。あの氷はそれなりに硬いようだ。
シーモンはそれに舌打ちすると、両手に氷の刀を生み出し、攻勢に出る。二刀の手数を生かした連撃を仕掛けるが、話江木はその全てをあっさりと捌いてみせる。そして、話江木は二刀を一振りで砕いてみせるとシーモンの首に刀を突きつける。シーモンは歯ぎしりしながらも身動きが取れなくなる。
「そこまで! 勝者、話江木空也!」
初戦は話江木の勝利で終わった。話江木は刀を下げ、シーモンは悔しそうに唇を噛んで去っていく。あっけなく終わったが、別にシーモンが弱かったわけじゃない。惜しむべくはシーモンの剣術が拙かったことだ。おそらく、上澄み程度にしか武術を習っていない。
その後もそれなりに見所のある勝負が続いた。カザイルやアーテングたちがいたこともあって、このクラスが凡才が多く集められていると甘く見ていたところはあるが、その考えは撤回した方がよさそうだ。今年が相当な豊作であることを加味しても、このクラスの地力は高い。優秀者ばかりが集まったせいで上位クラスからあぶれた者がほとんどなのだろうが、中には全体の底上げを狙ってこのクラスに入れられたと思われる者もいる。
例えば、サユ・ソルドー。彼女の電撃はかなりのものだ。彼女と行動を共にする木黒有紀の力も侮れない。彼女の双剣術と毒の組み合わせはなかなかに厄介だ。サエナの強さは分かりきっているので割愛する。
まぁ、だからといって、どうということもない。ここまではネルの情報収集で分かっていたことだ。先ほどまでの認識の齟齬はあまりに数が多すぎて大ざっぱにしか把握できていなかったがためのものであり、分かっていなくても致命的になることはない。
これまで十二戦が終わった。そして、十三戦目でモンスは名を呼ばれた。サユたちの声援に右手を上げて応え、階段を下りて体育館中央まで歩く。そして、自分の眼前に立つ対戦相手を見る。
「さて、それじゃあ、一つご教授願いますか」
モンスは目の前に立つ対戦者――風間東吾に笑いかける。風間はそれに応えるかのように右手をゴキリと鳴らす。
「第十三戦目の組み合わせはモンス・スピリア対風間東吾です。両者、準備はいいですか? それでは、始め」




