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2-6 ヒューマン・イーター集結!

 午後三時。白昼堂々といえる時間に王都の西部にある寂れた工場に集まる怪しげな集団があった。工場の中は古ぼけた外見とは打って変わって綺麗にされており、壁や床があちこちひび割れてこそいたが、それらにシミ一つついていなかった。

 工場の中は椅子や机がある程度で基本的に何もなく、だだっ広い空間だけがあった。そこに三十人ほどの少年少女がたむろしていた。その東側の端には他と比べて極めて豪華に飾り付けられていた黄金の玉座が置かれており、そこに足を組んでふんぞり返っている少年がいた。その周囲には美しい容貌を持つ精霊たちを侍らせている。言うまでもないだろうが、この少年の正体はモンスだ。



 ここはヒューマン・イーターの拠点の一つだ。組織の長であるモンスは紫髪の少女が中に入ってきたのを確認し、肘置きに置いた右手を使って頬杖をつく。


「揃ったな」


 大して大きくもない平凡な声だったが、その声で他の子供たちは一斉にモンスの方を向く。最後に来た少女は工場の中を見渡し、戸惑った顔になる。


「あの……。モンス様。招集と聞いたのですが……」


「人数が少なすぎるって言いてえのか? そりゃそうだ。俺が今回集めたのは精霊を除けば、今年特校に入学させたメンバーだけなんだからな」


「……承知しました。不躾なことを聞いて申し訳ありません」


「構わねえよ。疑問を口にするのは悪いことじゃねえ。まぁ、状況にもよるがな」


 モンスはそう言って静かに話しはじめる。しかし、この時点ですでに驚愕すべき情報をモンスは口にしている。何せ、モンスの話が本当ならば今年入学した新入生のおよそ一割が人外ということになるのだから。


「さて、もう昨日の時点でいろんな奴らに言われたが、俺からも改めて言っておこう。『ヒューマン・イーター』構成員諸君。特校入学おめでとう。今年受験させた構成員全員が入学できたことに俺は心から安堵していると同時にお前たちを誇りにも思っている」


 モンスの言葉に構成員たちは程度の違いはあれど嬉しそうな表情を浮かべる。彼らにとって、モンスは絶対的な存在だ。モンスに認められるということを上回る喜びを彼らは知らない。


「だが、まだ始まったばかりだ。すでに先発として入学させた連中からも聞いているだろうが特校で学び続けるには相応の努力を要する。モンスターの奴らからすれば、自分たちを殺す手法を学ぶなど屈辱極まりないだろう。他の連中も決して快くは思ってないはずだ。しかし、これは人類を絶望させるために必要な過程なのだ。諸君らも我々の勝利のために気は進まないだろうが、全力を尽くしてほしい」


 モンスの発言に異を唱える者など誰もいない。いるはずもない。そもそも、彼は特校で学ぶことが屈辱だと言っているが、構成員たちは一人もそんなことを思っていなかった。彼らにとっての真の屈辱とはモンスを虚仮(こけ)にされることだ。それに比べればこんなものは屈辱でも何でもない。むしろ、モンスの役に立てて嬉しいとすら思っている。


「前置きはここまでにしておいて、本題に入らせてもらう。ネルのサポートを受けて、お前らを全クラスに配置することができたわけだが、明日さっそくそれを生かすべく動いてもらう。率直に言えば明日の模擬戦を通して今年の新入生全員の力を測る」


「モンス殿……」


 そこで長い前髪で目を隠し、黒い着物を身に纏った黒髪の男が悠然とした所作で右手を上げる。


「何だ? (くろ)(つるぎ)


「僭越ながら、ネル殿の力を使えば新入生の力などたやすく丸裸にできるのではないですかな?」


「ネルの力で分かるのはよくも悪くも情報だけだ。実際にその情報を体感できるわけじゃねえ。お前らには実際に新入生たちの力を味わった上で報告してほしいのさ。もちろん、俺もやるが、俺がやれるのは5組の連中だけだからな。他のクラスに関してはお前らに託すしかねえ」


「なるほど。承知した」


 黒剣は素直に引き下がる。モンスは眼下にいる構成員たちを見渡し、言う。


「他にも質問がある奴がいたら、遠慮なく言ってくれていいぜ。些細なことでもいい。認識を違えた状態で事に及ぶことほど愚かなことはねえからな」


 モンスはそう言って質問を促すが、他に誰も声を上げようとしなかった。モンスはそれを見て、話を続ける。


「質問がねえなら続けるぜ。去年一昨年と逸材が揃ってるとされる特校だが今年は特に豊作とされてる。何人かは即戦力としてすでに引き抜こうとしてる部隊があるって話だ。だからこそ、ここを潰せば向こうに相応の打撃を与えることはできる。そのためには直に連中の力を知る必要があるってわけだ」


 単独で動く者も少なくないが、特人は基本的に部隊で動く。それは家に縛られる事も多いが、そういったものに左右されずに精鋭のみで構成されている部隊も多い。そういった部隊からすれば、即戦力の多い今年の新入生は垂涎ものだ。平均と揶揄されるモンスのクラスですら、もう唾をつけられている者がいるとの噂もある。ここを上手いこと潰せれば、特人にかなりの損害を与えることができるのは間違いない。


「もちろん、事前に仕込みもしてある。とはいえ、やっぱりお前らの力は必須だからな。図らずも今年は特に重要だ。他の連中以上に気を引き締めて動いてくれよ」


「「「「「了解!」」」」」


 モンスの発言に構成員たちは声を揃えて答える。モンスはそれに頷くと、立ち上がり口を開く。


「では、ここで解散とする。言っておくが帰りには気を付けろよ。昨日何人かに言ったが、ここは連中のテリトリーだ。いかに連中の警備が緩いと言っても、万が一って事があるからな。ここで台無しにするのだけは止めてくれよ」


 そう言ってモンスは他の精霊たちと共に精霊空間へと消えていく。構成員たちはモンスの言いつけに従い、気配も音も殺してその場から速やかに去っていく。後には些細な余韻すら残されていなかった。

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