2-5 入学二日目
入学式翌日。モンスは特校に登校し、自分のクラスの教室へと向かう。彼にあてがわれたクラスは1-5。この学校は一学年を1組から10組の十クラスに分け、成績のよい順に1組から配置していく仕組みとなっている。つまり、1組がもっとも成績のよかった者たちが集められているクラスで10組がもっとも成績の悪かった者たちが集められているクラスということだ。そして、王都田舎及び東側西側の確執に加え、このクラス分けもまた生徒たちの軋轢を生む原因となっている。端的に言えば下位のクラスは上位のクラスに見下されるということだ。まぁ、この学校に入学できている時点で最下位クラスである10組でもかなり優秀な者たちの集まりではあるのだが。今年度は特にそうだ。
モンスは目立つのが嫌だったので、あらかじめネルとアリスの力を駆使して、他の者たちの成績を予想し、ちょうど真ん中になるように調整して、試験に合格した。決して戦闘向きとは言えない二人の力だが、こういうときに無類の強さを発揮する。つくづく、あの二人の力を自在に扱えることのありがたさを実感する。
教室の扉を開けると中に見知った顔が何人かいた。そのうちの一人がモンスに気付いて、手を振ってくる。
「あっ! スピリアくん!」
サユの反応で他の者たちも気付いたらしい。サユと雑談していた有紀と緑色の髪のロングヘアの少女もこちらを向く。モンスは彼女たちに手を上げて挨拶する。
「どうも……」
「やぁ、モンス」
有紀は控えめに、緑髪の少女は気さくな態度でモンスに挨拶してくる。彼女たちにモンスは笑いながら小さく頷く。
「ああ。三人とも元気そうだな」
有紀はともかく、緑髪の少女に対しても知己の対応をするモンスにサユは首をかしげて、不思議そうな顔をする。
「あれ? スピリアくん。サエナと知り合いなの?」
「まあな。一応、幼馴染みってやつだ」
間違ってはいない。緑髪の少女――サエナは七歳の頃からモンスに付き従う精霊だ。そして、さりげなくモンスに付き従う精霊の中で最強と呼ばれるほどの力を有している。何でも、精霊全体で比較してもトップクラスと呼んで差し支えない実力者らしい。
まぁ、どうでもいい情報だが。
「へぇ~。幼馴染み……ね」
くだらないことを考えているとサユがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。彼女の考えていることが分かったのか、有紀が呆れた表情になって、小さくため息をつく。
「何だ?」
「何?」
モンスとサエナはよく分かっていないらしく、顔を見合わせて疑問符を飛ばす。
「別にぃ~」
「「?」」
サユはいたずらっぽい笑みを浮かべたまま、何も言わない。とはいえ、こんな反応をされれば、ある程度彼女が何を考えているか推測できるものだが、二人は本当に分かっていないらしい。
それもそうだろう。何せ、この二人はどちらかといえば友人として強い関係を結んでいる。サユの考えていることが的外れである以上、思い当たるはずもない。他の精霊たちなら話は別だったかもしれないが。
「よく分からねえが、楽しそうで何よりだ」
満足げに頷くモンスにサユが眉をひそめ、怪訝そうな顔をする。
「……これ、演技なのか素なのか、判断に迷うわね」
「多分、素だと思うよ……」
サユの疑問に有紀は呆れ混じりで答える。モンスとサエナは二人の反応に再度疑問符を飛ばすが、そこで予鈴が鳴ったので全員大人しく自分の席に着席する。
予鈴から三分後に本令が鳴り、それとほぼ同時に中に紺のレディーススーツを纏った一人の若い女性が入ってくる。年の頃は二十代後半から三十代前半といったところだろう。肩まで届きそうな黒髪を後ろで一つに束ねており、顔は美人にカテゴライズされるのだろう。彼女がこのクラスの担任であるのは火を見るより明らかだった。
「皆さん。おはようございます」
教師の挨拶に生徒たちは律儀に返す。教師はそれに満足げに頷く。
「私は本クラスの担任を務める、サーヌ・コユトマと申します。よろしくお願いします。……さて、皆さんがクラスとして顔を合わせるのは今日が初めてだと思います。俗に平均と呼ばれる本クラスですが、その分さまざまな分野に発展していくことのできる伸びしろの高いクラスといっても過言ではありません」
聞こえよく言っているが、ぶっちゃけこのクラスに入れられた生徒は平々凡々な才しかないということだ。まぁ、それを否定するつもりはない。何せ、このクラスにはヤタルとその取り巻きが何人かがいる。それに加え、初日でいきなりかつあげされていたアーテングまでいる。いずれも大した才を感じぬ凡才たちだ。チラホラとクラスに不相応な力を持っている者がいるようだが、他にも彼らのような凡才がいることを考えれば揶揄されるのも仕方のないことだろう。
「本校では……」
モンスはそこで聞くのを止めた。まぁ、元より真面目に聞く気などない。定型句だらけの話はカムヤで充分だ。
話は十五分ほどで終わった。そして、いくつかの資料が配られ、学校についての説明が終わったところで解散となる。指導側の人手が少ないのを取り繕うためかこの学校では生徒の自主性に委ねると打ち立てており、基本的にあまりきついカリキュラムを組んでいない。
なぜ、人手が少ないのかと言えば、単純に後進の指導に回せるほど特人の数に余裕がないからだ。他に特人を育成する学校がないのもそのためだ。それゆえにコネを使って指導者を雇うことができる名門以外がこの学校に入学するのが難しくなっている面も実はある。
コユトマが教室を退室したところでモンスが大きく伸びをし、サエナに目配せをして教室から出ようとしたところで茶髪の人のよさそうな笑みを浮かべた少年が立ち上がる。
「皆、少しいいかな?」
それで教室内の注目が少年に集まる。少年は困ったような笑みを浮かべ、穏やかな声で言う。
「この学校はあらゆる地域の出身者が集まる。だから、顔を知らない人が結構いると思うんだ。そこで親睦を深める意味も込めて、軽く自己紹介でもしないか?」
少年の言うことはもっともだ。ちなみに彼は風間東吾と言い、東側の名門の出身であり、いい噂も悪い噂も両方聞く男だ。
「やだね。悪いが、俺たちはさっさと帰らせてもらう。行くぞ、お前ら……」
ヤタルはそう吐き捨てて、取り巻き二人を連れて去っていく。おそらく、このまま他のクラスに行った取り巻きを回収して帰るのだろう。風間が呼び止めようと声をかけるが、三人は耳を傾けることなく去っていく。
そして、彼らと同意見だというのが癪だがモンスたちも茶番に付き合うつもりはない。すでにクラスどころか、この学校に現在通っている生徒の名前も顔も全員把握している。素性もある程度は把握している。自己紹介など無意味だ。無駄に馴れ合うつもりもない以上、ここは彼らに続くのが最善だ。
モンスは右手を上げて、風間に話しかける。
「確かに全員自己紹介するっていうのは賛成だが、ちと外せねえ用事があるんでな。付き合ってやれそうにない」
「うん、そうだね。風間くん……だったかな? 悪いけど、急用があるから私たちは先に失礼させてもらうよ」
モンスとサエナは長年の付き合いゆえのコンビネーションでアイコンタクトもせずに、さっさと荷物を持って去ってしまう。いずれにしても、今日までは特校でやることはほとんどない。勝負はクラス内での模擬戦がいきなり行われる明日だ。それまでは適当に流せばいい。




