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1-18 新たな佳境へと

 同盟を結ぶことにした両者ではあるが、セルドラは右手を腰に当てて、あることを問う。


「さて、無事協力関係が結べたところで次はどうするつもりだい?」


「別に……。しばらくは、これまでと同じ行動を取るつもりだよ。違うところがあるとすれば、アベステへの対処がなくなるくらいだ。お前に協力してもらうことがあるとすれば、せいぜい俺たちの活動にちょっとした便宜を図ってもらうことくらいだ。今のところはな」


「今のところ……ってことは、時間を置いて何かやろうとしているってこと?」


「そうだ。あと五年経って、十五になったら、俺は特人養成学校に入る」


 モンスの言葉にセルドラは怪訝そうに眉をひそめる。


「え……待って。今、君はいくつなの?」


「今年で十になる。つまり、お前と同い年(タメ)だ」


 あっけらかんと言うモンスにセルドラが絶句するのは無理のないことだった。何せ、今、モンスはキングの容姿をしている。そして、その顔立ち、声、体格共にどう見ても十歳のそれではない。どんなに若く見てもせいぜい十代後半といったところだ。

 セルドラの疑問に気付いたのかモンスは左手で頬をポリポリと掻きながら言う。


「ああ。この姿(なり)じゃ、分からなくても無理はねえか」


「……まさか、肉体を改造してるの?」


「まぁ、そんなところだ。一応、俺の本名はモンス・スピリアと言う。覚えておいてくれ」


 モンスの言葉にセルドラは顔を俯かせ、左手を口に当てて考え込む仕草を取る。


「なるほど。名前の顔も体格(からだ)も全て変えてるのか。でも、何のためにそんなこと……」


「決まっている。本来の俺の名前は人間どもの中に入り込むために必要だったからな。ならば、必然的に違う名前と(うつわ)を用意しなくてはならないだろう?」


「ああ、そういえば特校(とっこう)に入りたいって言ってたね。一応、その理由を聞いてもいい?」


「決まっている。連中を絶望のどん底に叩き落とすためだよ」


 モンスの返答にセルドラは小さく頷く。


「やっぱり、単純に破壊するだけではつまらないってことか」


「ああ。そのためにわざわざ名を偽ってるんだ。モンスの名が知れ渡っちまったら、俺という存在を以て連中を内部から崩壊させることができなくなるだろ? それじゃ、面白くねえ」


 まぁ、他にも理由はあるが嘘は言っていない。特人潰しを内部から為すためにモンスの名を使いたいのは事実だ。もちろん、それが全てではないが。

 そんなことをモンスが考えているとセルドラが自身を意外そうな目で見ていることに気付く。


「何だ?」


「いや……ちょっと、意外だと思ってね」


「何がだ?」


「無礼を承知で言うけど、君は……もっと、冷酷な人間だと思ってたからね」


「ああ?」


「だって、そうでしょ? じゃなきゃ、わざわざ本名を明かしたりするわけないもの。私の口から君の本名がバレる可能性もあるわけだし」


 セルドラの言葉にモンスは小さく吹き出す。どうやら、彼女は肝心なことが理解できていないらしい。別にそれでも構いやしないが、どこか気に食わない。全てを教えてやるつもりはないが、少しくらいは教えてやることにする。


「俺がてめえにこれを明かしたのは、てめえが真に人を嫌ってると理解できたからさ。そもそも、俺の本名がバレたところで問題はねえ。その時はてめえをぶっ殺して、別の顔と名で特校に潜入する。それだけのことだ」


 モンスは一切の迷いも感じさせない口調で言い放つ。それにセルドラはモンスが嘘をついていないことを悟る。


「さて、俺はそろそろお暇させてもらう。お前との連絡方法だけ決めたら、俺は行くぜ」


「……分かった。連絡手段はこれを使おうか」


「……これは?」


 セルドラが差し出してきたのは黒い長方形のような物体だった。片面には何やら得体の知れないものが一面に張られている。モンスが仮面の奥で怪訝そうな顔をしているとセルドラは苦笑しながら、この物体について説明する。


「スマートフォンと呼ばれるものよ。スマホと省略されることも多いかな。無線機、携帯に続く最新機種でね。それなりに前から流通してる。これを使って連絡を取り合うというのはどう?」


 モンスは考え込む仕草を取りつつ、小さく頷く。


「……なるほど。もうそこまで進化してたのか。田舎者なもんでね。そういう流行には疎いんだ」


「そうか。じゃあ、他の連絡手段を探した方がいいかな?」


「いや、これでいい。これは俺用か?」


「そうだよ。はい、どうぞ」


 差し出されたスマホをモンスは素直に受け取る。セルドラはスマホを指差しながら、口を開く。


「一応、私の連絡先は入っているから、何かあったら遠慮なく連絡してきてくれ。使い方は……」


「ああ、大丈夫だ。自分で調べる」


「え、でも……」


「これはそんなに複雑な機械じゃねえだろ? 俺は流行には疎いが機械音痴ではねえからな。すぐに使いこなせるさ。じゃあ、こいつはありがたくいただいてくぜ」


 モンスはそれだけ言って立ち去っていく。セルドラはその背に呼び止める声をかけるが、モンスは立ち止まらない。セルドラは呼びかけることを諦め、モンスとは逆方向へと歩き出す。



 キング・アウトバンドことモンスと手を組めたことにセルドラは内心安堵していた。彼らの力はセルドラの目的を達成するのに必要不可欠だ。セルドラの秘密をモンスに知られたのはあまりよくはないが、おそらく彼の性格では自分のことを教えなければ、どれほど報酬を弾んだとしても首を縦に振らないであろう事も分かっていた。

 互いに利用し合う形になろうとも……たとえ、一方的に利用されてしまう形になったとしても構わなかった。



 何にしても、やはり人とは罪深い生き物なのだ。だからこそ、このような者たちも現れる。



 それからもモンスはヒューマン・イーターを指揮し、人々へ牙を剥き続けた。そして、さらに五年の時が流れ、モンスは十五歳になった。 

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