1-17 天才騎士との取引
「セルドラ・コーキム……?」
どこかで聞いた名だというのがモンスが抱いた感想だった。少しの間記憶を探り、すぐに目的の情報を思い出す。
「ああ。そういえば、今年の初めあたりに史上最年少で十騎士に就任した少女がいると聞いたな。確かそいつもそんな名だった気がするが……」
「イグザクトリィ。それが私だよ」
自信に満ちあふれた笑みで答えるセルドラをモンスは値踏みするような目で見る。
十騎士。国で最強と言われる十人の特人で構成される精鋭部隊。文字通り、国の切り札だ。彼らの実力は凄まじく、人々を襲うモンスターの上位を殺せる者のみで構成されている。
目の前の少女は生まれたときより、ずば抜けた素質を持ち、飛び級を繰り返して史上最年少で特人になった天才だ。特人になってからも数多くの実績を積み重ね、瞬く間に十騎士に選ばれた逸材。最年少記録を塗り替え続けるその才は歴代の特人の中でもずば抜けている。
モンスが彼女を品定めしつつ、そんなことを考えているとセルドラが屈託のない笑みを浮かべつつ、言葉を紡ぐ。
「私は回りくどいのが好きではないし、率直に言おうか。私と手を組まないか?」
突然そんなことを言われたモンスは仮面の奥で怪訝そうに眉をひそめる。モンスの返事をニコニコしながら末セルドラをしばし見つめ、やがて、腹を抱えて笑い出す。
「十騎士だと! 笑わせるなよ! 四神六王の真似事しかできねえ連中に何ができる!?」
四神六王。それは千年以上も前にこの星が三つの大陸に別れていたときにそれぞれの地区を統治していたとされる十人の怪物の総称だ。実力や立場的には四神の方が上だったらしいが、六王の中にも四神に負けず劣らずの力を有していた者がいると聞く。
もはや、過去の遺物の存在ではあるものの、彼らの存在は俗世から離れていたモンスも知るほどに有名だ。とくに四神のサーブラー・コーセウスと六王の九州善正の二人の知名度は群を抜いている。サーブラーは世界を守るため、善正は家族を守るために戦い、結果的にこの世界は一度滅んでいる。
この戦いは『エンド・オブ・ウォー』と呼ばれており、千年経った今でも語り継がれている。この戦いにおいてどちらに正義があったのかというのは、今でも考えられている議題であり、専門家たちでも意見が分かれているらしい。
だが、モンスにとってはどうでもよかった。人のやることなど、全てにおいて間違っている。自身の行動とて正しいとは思っていない。当然、過去に縋り付く国の連中も同じだ。どのみち、モンスが人を信じ、人と手を組むことなどありえない。
「そうだね。確かに十騎士は上っ面だけの空っぽな連中だ。それに異論はない」
「あん?」
思ってもいなかった言葉にモンスはついそんな声を上げてしまう。セルドラはそれに構わずに続ける。
「私も奴らにはいい印象を抱いていない」
「はっ。俺に取り入るためのおべっかか?」
「違うよ。君なら、知っているはずだ。かつて、世界を滅ぼした人間の大罪を……」
もちろん知っている。といっても、知ったのはこの三年間でのことだが。それを知って、なおさら人を許すわけにはいかないと思ったものだが……。
そこでモンスはとある可能性に思い至る。
「お前……まさか……」
ハッとした表情で呟くモンスにセルドラは穏やかな笑みを浮かべる。
「気付いたか。やはり、君は素晴らしい。……そうだ。私に国に忠誠を誓う理由など……いや、人のために動く理由などどこにもないんだよ」
はっきりと断言するセルドラの表情から嘘は感じ取れなかった。実際、さりげなくネルの力を使って調査してみたが、彼女の発言に嘘偽りはない。つまり、セルドラは本当に人に対して憎しみを抱いていることになる。それを悟ったモンスは先ほどと同様腹を抱えて笑い出す。今度はセルドラを笑うものではない。このようなモノを生み出した人間を嘲笑うものだった。
「本当救いようがねえなぁ。まだ、そんなもんが残ってたのかよ! ……いや、むしろ、残っていなくちゃおかしいとでも言うべきか?」
モンスの発言は正しい。罪というモノは返ってくるモノと返ってこないモノがある。この罪科は明らかに前者だ。つまり、人は自分たちのために自分たちを追い込むという矛盾しきった行動を取っているのだ。これを笑わずにいられるはずがない。
「さぁ、どうする? 私と手を組むか、否か」
そう言って右手を差し出してくるセルドラにモンスはニヤリと笑う。この時点で彼の答えは決まっていた。
「いいだろう。手を組んでやる」
モンスはそう言ってセルドラの手を取る。交渉が成立したことにセルドラは小さく笑う。
「ただ俺も完全にお前を信用したわけじゃねえ。もし、裏切りを察知したら迷わず殺すぜ」
「構わないよ。元より、そのつもりだ」
セルドラは言いながら手を離す。こうして、ヒューマン・イーターと十騎士の天才少女は手を組んだ。




