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1-16 アベステ撃破

 モンスは二刀を交叉させる形で構え、アベステを見る。ほんのわずかな挙動も見逃さぬように。ほんのわずかな視線の動きも感じ取れるように。



 アベステはそんなモンスを見て、口元を歪めると右手を胸に当てる。すると、白い光が彼を覆い隠す。光は一瞬で消え、光を裂くように現れたアベステは若返っていた。

 それまでの脂肪があちこちについた肉体は筋肉質なものへとかわり、老いつつあるのが見受けられた顔は端整な顔立ちへと変貌している。



 けれど、そんなものは彼の発する呪力からすれば些少な変化でしかなかった。先ほどまでは大した呪力を持っていなかったにもかかわらず、今は凄まじい呪力を発している。先ほどのように適当に戦えば足を掬われる危険は高い。



 刀を構え、注意深く観察してくるモンスに対して、アベステは自信に満ちた笑みを浮かべる。


「貴様も先ほど言っていたろう。私は結界内でしか強さを発揮できないと。その通りだ。だが、それは逆に言えば、我が結界の中でならば無類の強さを発揮するということだ!」


 言って、アベステは突っ込んでくる。モンスの言いつけ通り、少し離れたところに控えていたアリスに。(・・・・・)拳を振りかぶっているアベステを見て、アリスは弓を構えるが、アベステが間合いに入る前に他の精霊たち共々アリスは姿を消す。


「!」


 アベステはアリスが突然消えたことに驚愕し、動きを止める。その隙を見逃さずモンスは日本刀を振り上げ、アベステの背後に現れる。


「また隙ありだ」


「ぐっ!」


 アベステは手の甲でモンスの斬撃を受ける。しかし、モンスの斬撃は止まらず、アベステの右手に徐々に食い込んでいく。それを見て受けきれないと判断したアベステは後ろに大きく飛んで、その場から退避する。アベステは右手から血を垂らしながらモンスを睨む。

 モンスはアベステの疑問に答えてやるかのように不敵な笑みを浮かべながら、口を開く。


「こいつらは俺の(しもべ)。ここから逃がすことなど造作もない」


「なるほど……」


 それでアベステはモンスの技の正体が理解できた。彼の力は召喚・使役の類のものだと。



 召喚・使役とは文字通り、動物や精霊、モンスターなどを召喚し、彼らを使役して戦うことを指す。実力者ともなれば独自の動物を創造し、それを無数に使役して戦うこともできるとされる。決して数が多いとは言えない特人の中でも、召喚・使役を扱える者はさらに希少であり、見つけた場合は強引に引き入れようとする者も少なからずいると聞く。



 アベステがどうしたものかと考えていると不意にモンスが口を開く。


「周囲の人間を殺して、動揺を誘うなんてつまんねえことすんなよ。それに精霊たちを()ったところで、復活させることは造作もない」


「………………」


「まぁ、どっちにしてもてめえにゃ関係ねえ話だがな。今、ここで死ぬ、てめえにはなぁ!!!」


 モンスは凄まじい速さで突進する。小回りが利く脇差しで連続突きによる攻撃を仕掛ける。アベステはそれをかわしながら、右手を白く染め上げる。その右手で脇差しを弾くと、モンスの顔面にパンチを放つ。モンスはそれを日本刀で受けるが、受けきれずに数メートルほど吹き飛ばされる。

 モンスは二刀を地面に突き刺し、宙返りをして地面に着地する。


「なるほど。まだ上があるのか」


 モンスは地面に刺した二刀を抜きながら呟く。アベステは醜悪な笑みを浮かべて、


「結界発動を妨害されたのは想定外だったが構わん。お前を殺し、今一度、結界を張り直せばいいだけのこと。再び三年半の時を費やさねばならんのは癪だが、その程度、待てんこともない」


 などと、不敵な発言をする。それにモンスは盛大にため息をつき、アベステを鋭い眼光で睨みつける。


「……だから、何遍(なんべん)も言わせんな。てめえは、今、ここで死ぬんだよ!」


 モンスは叫び、両手の刀を仕舞う。そして、周囲に無数の槍を展開させる。アベステはそのあまりの数に目を大きく見開く。



 宙に浮かぶように展開された槍は一斉にアベステを襲う。アベステは左手も黒く染め上げ、両手でその大量の槍を受けきろうとする。しかし、あまりの数の多さに防ぎきることはできず、無数の槍は確実にアベステの両腕や胴体、顔、足にダメージを与えていく。

 槍の雨はアベステを覆い、一時アベステの姿を隠してしまう。数秒ほど槍の雨が降り注いだところで、モンスの周囲から槍がなくなり、攻撃が止まる。モンスの眼前には右眼が潰れ、全身に夥しい傷を負いながら立つアベステの姿があった。


「……ふっ。こんなものか……」


 攻撃を全て受けたアベステは嘲笑し、全身から血を噴き出して仰向けに倒れた。モンスはそんな彼に近付いていく。アベステの傍まで行くと、アベステを見下ろす。


「甘く見てたよ。さすがは国でもトップクラスの犯罪シンジケートの幹部。エクスの連中とは次元が違う強さを持っていた」


 モンスの言葉にアベステは残った左眼を小さく見開くが、すぐに自嘲するように笑う。


「ククク……。何を言うかと思えば……。私は……元々幹部の……器ではない。私はただ……諦めきれずに醜く……しがみついただけの……凡愚だよ……」


 アベステは言いながら、過去を思い返していた。思えば、決していい人生ではなかった。彼は人でありながら、人として扱われてこなかった。それゆえに歪みに歪み、この思想を持つに至ってしまった。

 けれど……。


「だが……最後に……少しくらい……は……むくわれた……か……。かの有名な……ヒューマン……イーター……に……人として(・・・・)……倒された……のだ……。これで……私も……少しは……」


 それが彼の最後の言葉だった。言い終えると、アベステは息を引き取った。その顔はどこか満足げなように見える。

 モンスはその死に顔を見て、小さく舌打ちをし、帰ろうとする。


「へぇ……。アウト・オーダーの幹部を倒すなんて、あのテレビでの発言は大言壮語ではなかったようね」


 そこで不意に背後から声をかけられる。モンスはそれに驚愕するが、すぐに冷静さを取り戻し、ゆっくりと振り返る。そこにはモンスと同じ歳くらいの黒髪の少女がいた。


「初めまして……という言うべきかしら? ヒューマン・イーターの総統(そうとう)、キング・アウトバンドさん。私はセルドラ・コーキムです」


 ニッコリと笑いながら言ってくるセルドラにモンスは無言で腕を組んだ。

 

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