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1-11 エクス潰し達成

 伝え忘れていたことを念話で伝えていると、不意に派手な爆発音が響き渡る。同時にビルの内部で混乱が起こっていることが分かる。念話で伝え終わったモンスは上手く事が運んでいることにニヤリと笑い、悠然と歩き出す。


「さて、それじゃあ、行くとしましょうかね」


 モンスは他の精霊たちが陽動をかけている隙に、単身裏口から侵入していく。中には銃を持った警備員らしき人物が二人いたがモンスは右手に刀、左手に脇差しを出現させると同時に振るい、二人の首を切り落とす。その勢いのまま非常階段に続く扉を破壊し、階段を駆け上がる。



 通常ならばこれは悪手だ。階段を上っている隙に敵の幹部がエレベーターなどで逃げる可能性がある。何の仕掛けもしないのであれば、せめて、一階で適当に敵を狩りながら待ち構えるべきだった。ただ、それはあくまで何の(・・)仕掛けも(・・・)しなければ(・・・・・)の話だ。


「電源が落ちたな」


 モンスは精霊たちがビル内部のブレーカーを破壊したことを確認する。これでビルの中にほとんどのエレベーターは潰した。唯一非常電源によって動かすことのできるエレベーターもすでに動けなくされているはずだ。何せ、エレベーターを管理する機械はこのビルの一階にある管理室に存在しているのだから。

 それに加えて、このビルの周囲を炎が覆っていた。他のビルへの被害も辞さないその炎から逃げるのは困難を極めるだろう。

 はっきり言って、防犯面が甘いと言わざるを得ないがモンスたちにとっては好都合だった。これで連中に残された移動手段はこの非常階段しかない。



 とはいえ、あまりのんびりとはしていられない。ビルの内部は把握したが敵の数はまるで把握していないのだ。

 モンスは途中の踊り場で立ち止まると念話を始める。


『……ネル』


『何?』


 ネルから平淡な声が返ってくる。彼女の声に焦りなどは見られない。どうやら、奇襲は予想以上に上手くいっているようだ。しかし、あまりモタモタとはしていられないので必要なことだけを口にする。


『向こうの幹部についての情報が欲しい。奇襲中に悪いがお前の力で調べてくれねえか?』


『……了解』


『悪いな。本当なら襲撃前に調べておくべき事だったんだが……』


 そこでモンスは上からけたたましく扉が開く音を聞く。そちらに視線を向けると三人の銃を持った迷彩服を着た男たちが入ってきたのを視認する。彼らは先ほどの警備員とは違う。おそらくはエクスが雇った傭兵か何かだ。

 男たちはモンスの姿を見つけ、何かを叫ぶ。モンスはそれに顔をしかめつつも、両手に持った獲物で迎撃をしようとするがそこで念話が彼の頭に届く。


『調査終わった……』


 このタイミングで調査が終わったらしい。なかなか、ついていない。だが、元を正せばこれはモンスの自業自得だネルを責めることはできない。だから、モンスは責任を取ることにした。


『そうか。じゃあ、教えてくれ。ああ、それと、ちょっと、こっちも雑魚狩りしながら動くから反応できないかもしれねえが、きちんと聞いてるから気にせず続けてくれ』


 モンスはそう言いつつ、三人を即座に切り捨てる。その間にネルは話しはじめる。


『分かった。まず、エクスは十人ほどで動かしていて、それと全く同じ人数が十七階の会議室に集まってる。こいつらが多分幹部。そして、その中心となってるのが代表のイースト・レグナスとその右腕のクーラン・アセウトみたい』


 聞きながら、そのまま階段を上がっていくと連絡を受けたらしい傭兵たちが次々と降りてくる。その数は先ほどよりも多い。おそらく、十人はいるだろう。しかし、モンスはそれを見ても眉一つ動かさなかった。



 どんなに数が多かろうと狭い非常階段では数の利を生かすのは難しい。それに加えて精霊たちに力の出し方をより詳しく教えられたことで、彼はさらなる力を身につけていた。



 モンスは最前列で発砲してくる三人の首を一太刀ではねて殺すと、その後ろにいた四人を流麗な動きによる四連撃で斬り殺す。残る三人の内の一人の首を切りおとすと、両腕を広げ、そのまま交叉させるように動かして残った二人を一瞬で殺す。

 その全てが一瞬で終わったため、傭兵たちは何をされたのかも理解できずに死亡する。


『幹部十人の顔写真と名前をあなたの頭の中に送る。目の前の人間の顔を照らし合わせるのに使って』


『了解。ご苦労さん』


『ん』


 ネルは短く答えると念話を切る。モンスは受け取った顔写真を元に十七階の会議室へと向かう。



 それから二分足らずで十七階まで上がったモンスは廊下に待ち構えていた傭兵たちを一瞬で切り捨て、会議室の扉を破壊して突入する。

 中に入ると十人のスーツを着た中年男性が立っていた。データと照合すると、彼らがエクスの幹部であることが分かる。


「馬鹿な! 早すぎる……!」


「落ち着け! 相手は子供だ! こんな小しゃな子供に何ができりゅというのだ!」


 襲撃の報告を受けてすぐに自分たちの下まで攻め込まれたことでパニックに陥っている幹部と冷静になろうとして噛みまくっている幹部を見て、一人の幹部が頭を抱えつつ、ため息をつく。


「取り乱すな。所詮、相手は幼子一人。我々の敵ではない」


 そう言うのは黒髪をオールバックにした男――代表のレグナスだ。その横には金髪を刈り上げた男――アセウトの姿もある。レグナスは右手に電撃を迸らせ、その手に緑色の刀を出現させる。刀から発せられる甲高い音から、その刀身がとてつもない高振動であることは容易に見て取れる。それに加えて、凄まじい電流が流れていることも分かる。あれをまともに食らえば人間など簡単に焼失するだろう。

 さすがは代表。特人の中でも上位の力を有している。



 特人は呪力と呼ばれる特別な力を扱える人間のことを指す。特人と認定されるには専門の教育を受けた上で試験を受け、合格する必要があるのだがそれは今はどうでもいいことだ。



 要は精霊たちの力を借りて戦うモンスと似たようなものだ。彼の力は精霊たちを使役する力。レグナスは電気を操る力。それだけでいい。



 レグナスが電気の刀を出現させた途端、怯えていた男は覇気を取り戻し、懐から拳銃を取り出す。他の八人も同様に拳銃をこちらに向けてくる。アセウトだけが両腕に風のようなものを纏うという特殊な武器を展開している。どうやら、彼らの中で特人は代表のレグナスとその側近のアセウトだけらしい。


「ちょうどいい。少しは楽しませてくれよ」


 モンスは口元を大きく歪め、二つの刀の刀身を擦り合わせる。すると、二つの刀から膨大な量の呪力が発せられる。

 先ほどの傭兵殺し同様一瞬だった。モンスの二刀は瞬きにも満たない時間でレグナスとアセウト以外の八人の首を落としてみせた。


「な……!」


 アセウトは驚愕に目を見開く。レグナスも額に冷や汗をかいている。モンスはそんな彼らに凄絶な笑みを向ける。


「残るのはお前らだけだ」


「化物め……!」


「さぞや、悔しいだろうなぁ。その化物に殺されるってのぁ……」


 言い終えると同時にモンスは動き出す。アセウトはレグナスに放たれた上段からの振り下ろしを両腕を使って受け止める。コンマ数秒にも満たないほどの速さで終わってしまうその一撃を受け止めたアセウトの技量は間違いなく超一流だ。だが……。


「がはっ……!」


 アセウトの腹にはモンスの持つ脇差しが刺さっていた。彼は太刀を振り下ろすと同時に脇差しを突き出していたのだ。レグナスを確実に仕留めるための布石がアセウトに突き刺さった形となる。

 無様に倒れ伏すアセウトに見向きもせず、モンスはレグナスを睨みすえる。


「さぁ、覚悟はいいか? エクス代表、イースト・レグナス」


「なるほど。確かにこの短時間でここまで来るだけあって凄まじい強さだ。だが、俺の首をそう簡単に獲れると思うな!」


 レグナスは凄まじい速さで突っ込んでくる。モンス同様瞬きに満たない速度で間合いを詰め、その刀をモンスの心臓めがけて突き出してくる。それはモンスの胸を貫き、勝利を確信したレグナスを待っていたのは右肩に走る激痛だった。


「残像だ」


 いつの間にかレグナスの背後に回っていたモンスが言う。壊れたロボットのようにゆっくりと振り向くと、モンスの持つ太刀には赤い血がべっとりとついていた。それを見て、レグナスは自分が斬られたことをようやく認識する。


「そんな……馬鹿な……!」


 レグナスは大量の血を噴き出しながら、仰向けに倒れる。モンスがゆったりとした足取りで彼に近付くと、レグナスはまだ意識を持っていた。


「貴様……一体……何者だ……?」


「そうだな。それに答える前に一つあんたに見せたいものがある」


 そう言って、モンスはスーザンに変更されていた容姿を元に戻す。ぐらつく視界の中で彼の顔を見たレグナスは恐怖に目を大きく見開く。


「馬鹿な……! なぜ、貴様が生きて……!」


 忘れるはずもない。レグナスが見たのは数日前に部下に命じて殺害させた少年、ワーナー・カルドザスそのものの顔だったのだから。


「一応、礼を言っておこうか。あんたの手下のおかげで俺は自分の生きる意味を見出せた。ありがとよ。イースト・レグナス」


 レグナスの胸を無慈悲な刃が貫く。レグナスは口から血反吐を吐き、為す術なくその命を散らしていく。


「すまない……ユーナ。すまない……キルくん。私たちは……ここで……終わり……のよう……だ」


 それがレグナスの最後の言葉だった。胸を貫かれているにしては長いその言葉をモンスが理解することはない。そもそも、聞いてすらいなかった。

 モンスは脇差しを仕舞(しま)うと不意に壁に近付き、刀で絵を描く。それは丸の中に棒人間を書き、その上に×を書くという子供の落書きみたいな絵だった。

 気まぐれだった。何となくの気まぐれで会議室の壁にそんなものを描いたのだ。



 そのまま何気なく部屋を見ると、ふと机の上に置かれた資料が目に入る。大半は幹部たちの血でまともに見れなくなっていたが、まだ読める程度にしか血がついていないものがいくつかあった。モンスはそのうちの一つを何気なく取る。


「…………マジかよ」


 その資料を見てモンスはうんざりした表情になる。うんざりしたくもなる。これが本当ならばそう簡単に解決できる問題ではない案件にカルドザス母子殺害を依頼した者たちが関与していることになるのだから。

 いや、そういう問題ではない。幹部の会議に出されるくらいだ。この資料は本物だろう。ならば……。


「放置するわけにはいかねえよな。となると……」


 モンスは会議室にかけられたカレンダーを見る。今日は七月二十三日。つまり、最低でも数年は必要になるということだ。


「……まあいいか。結局今回ものんびりすると言っときながら、結構大急ぎで片をつけちまったしな。雌伏の時間も必要か。何なら、この間にいろいろ仕込んでもいいんだからな」


 モンスはそう独りごちると念話を一階で暴れているであろう精霊たちに繋げる。


『引き上げるぞ』


『了解』


 念話を切ると精霊たちが精霊空間に戻ったのが分かる。それを確認し、モンスも精霊空間に戻る。













 そして、時は流れ――。

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