1-10 精霊たちの初出陣
モンスの号令に従って、同時に走り出した五人はほぼ同時に正面入口に着いた。
そこで突然入ってきた念話を聞きながら、カミュラは右手に握り拳を作るとそこに炎を纏わせ、炎の拳で正面入口を破壊する。その勢いのまま五人はビルの中に入り、同時に各々武器をその手に出現させる。
「な……! 何者だ……!?」
突然の強襲に混乱した様子を見せながらも三人の警備員たちが銃を構えながら言ってくる。カミュラたちはそれに構うことなく突っ込む。警備員たちは銃を発砲するがカミュラの炎に弾丸を焼失させられ、さらに視界まで炎で奪われ、混乱している隙をついてサエナとネルが三人を切り捨てる。すると、騒ぎを聞きつけてか、緑色の迷彩服を纏った傭兵の雰囲気を纏う男たちが三十人ほど現れる。
普通ならば絶望的な状況だが、四人は一切慌てない。カミュラはサエナとネルに近接戦を任せ、ビルを包囲するように炎を展開する。その間にカミュラを狙って男たちが発砲してくるが、サエナは彼女の持つ武器――ハルベルトでその全てを叩き落とす。同時にビルの中の電気が一斉に消える。
ネルとサエナは突然電気が消えて動揺している傭兵たちへと走り出す。ネルが持つのは薙刀。サエナが持つのはハルベルト。いずれも間合いの広い武器ではあるが重火器には劣る。一瞬で距離を詰めれば先手を奪われることはないが、それも相手の数が多ければ意味のないものになってしまう。実際、男たちも戦い慣れているのか一人一人が離れた陣形を取り、二人が味方を仕留めた隙に発砲するなどという戦術を取ってくる。
二人の武器は一本。攻撃と防御を同時に行うことのできない二人にとってこの状況は極めてまずいのだが、彼女たちの表情に焦りは見えない。男たちは他の二人の存在を完全に失念していた。ネルとサエナはただの特攻部隊だ。そして、彼女たちの武器の間合いの不利を補うのはアリスの二丁拳銃とビルのブレーカー及びエレベーターに細工をし終えて合流したスーザンの弓術だった。
「ぐっ!」
「ぎゃぁっ!」
アリスによる銃撃とスーザンの矢は男たちの急所を的確に撃ち抜いていく。おまけに誤射でネルとサエナに当たるなどということは万に一つもなかった。その圧倒的技量ゆえにネルとサエナは心置きなく敵に突っ込めるのだ。
傭兵三十人は一分足らずで全て殺害された。だが、彼らに続くように五十人ほどの傭兵が出てくる。全く同じ服を着ているところを見ると、先ほどの皆殺しにした男たちの仲間だろう。
「しつこい奴らね……」
舐めきった目で傭兵たちを見るカミュラを陰から狙う者が一人。カミュラは呆れ混じりにため息をつくと、その場から消える。
「がはっ!」
「男ならこそこそ隠れないで、正面から来なさいよ」
カミュラは刀を振って、敵の返り血を落としつつ言う。彼女を狙っていたのは狙撃手だ。カミュラたちがいたのは見通しのいい吹き抜けのロビー。上階の手すりから身を乗り出す形でライフルを構えれば狙撃できなくはない。ここは裏組織だ。ライフルを構えたくらいで何かを言われることもない。
それを生かして狙撃するのは立派な手段なのだろうが、カミュラとしては呆れるより他なかった。だからか、狙撃手を殺害してすぐに彼への興味を失い、ロビーに戻るべく手すりに手をかける。
丈の短い自身のスカートがまくれないように裾を押さえながらロビーに降り立つと、カミュラは傭兵たちが自分を驚愕の目で見ている事に気付く。
「まさか……。あれで、加減していたというのか!!」
「そうよ。何か文句ある?」
カミュラはそう言って男たち全員を炎で焼き滅ぼす。断末魔が聞こえてくるがカミュラは無視して周囲を見渡す。
完全にエクスの構成員たちは混乱していた。それこそ、いくら隠密に長けているとはいえ、ネルがその場からいなくなっていることに気付かないほどに。ネルは彼女たちの主人の命でとある仕事をしていた。そのためにいなくなったのだが、そんなことを彼らが知るよしもない。
もうネル一人いなくなったくらいではどうにもならないほどにこの場では精霊たちが場を支配していた。
そこでモンスが入ったであろう裏口の方から逃げようとしている者たちがいることに気付く。
「逃げようとしてるのがいるみたいだけど、どうする?」
サエナの問いにカミュラは即座に答える。
「見逃す手はないでしょ。どうせ、あいつも見逃せなんて言うわけないし、非戦闘員も含めて全部殺してしまえばいいんじゃない?」
「そっか。じゃあ、私の出番だね」
サエナは不敵な笑みを浮かべるとしゃがみ込み、地面を軽く叩く。すると、地面から大量のツタが伸びてきて、逃げようとしている者たちを締め上げてしまう。
「ひ、ひぃっ……! や、やめ……」
「ごめんね。命乞いを聞くわけにはいかないんだ。まぁ、来世で頑張ってね」
青いスーツを着た若い男が命乞いをするが、サエナは眉を下げてそれを拒絶する。それに男たちは絶望しきった表情になる。
サエナはせめてもの慈悲として、彼らを締め上げる力を強くする。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
男たちは断末魔を上げて、ツタに絞め殺される。強い力で締め上げられた彼らの体はあちこちから血が流れており、彼らの見開かれた瞳からは完全に光が失われていた。
「さて、とりあえず一階は片付いたか」
サエナは周囲を見渡して、呟く。そこには人気はまるでなかった。ひとまず、ここは制圧できたと見ていいだろう。
「あとはここで待ちましょうか。それが追加の命令ですから」
「そうじゃな」
「ほんと、突入してる最中に追加で命令を出すなんて、行き当たりばったりにもほどがあるわよ」
「まぁ、彼はまだまだこういうのに慣れてないんだ。大目に見てあげよう」
スーザンの言葉にアリスが同意し、カミュラの苦言にサエナがフォローする。それぞれが違う態度を取りつつも、彼らはモンスの心配を誰一人していなかった。モンスを見捨てるつもりなどない。ただ、モンスならば一人で大丈夫だろうというのが彼女たちの本音だ。
彼女たちはこれまで数多くの人間を試練に振るい、失敗してきた。その過程で人の限度に失望したことなど数え知れない。けれど、あの少年は違った。モンスは明らかに他の人間とは違う。彼ならば間違いなく自分たちの悲願を達成してくれる。そんな彼がこんなところで死ぬはずがないという確信が彼女たちの中にあったのだ。
そして、それからしばらく経って精霊空間に戻るよう命令が来る。彼女たちはそれに従い、空間へと戻っていった。




