第2回
AuraX幹部社員の川口はその日のうちにリーガルチェックを受けるために顧問弁護士に連絡を取った。
今日は二度目の神谷との新グループに関するWeb会議での打ち合わせだ。
朝から胃が痛い。
川口は胃薬を昼食前に飲み、午後からの打ち合わせに挑んだ。
開口一番、神谷はリーガルチェックの結果を聞いてきた。
「リーガルチェックの結果、かなりグレーでした。幹部会議にも出したのですが、大半はコンプラの影響で却下という判断で……。」
「そこを押し通すのが川口君の仕事だろ?」
「そう言われましても……。」
川口は幹部社員と言えど40代半ばになる中年社員だ。中間管理職として上からと下からに挟まれて胃薬が手放せない。
「神谷さん、第一、期間限定で強制卒業なんて労働法の契約上問題になりますよ。そこを立ち上げてから指摘されれば取り返しのつかないことになります。」
神谷は辟易としたため息をついてからこう答えた。
「雇用契約にするから話がおかしくなるんだよ。最初から『最長3年の育成型・専属マネジメント契約』として締結すればいい。スポーツ選手の単年契約と同じさ。未成年の場合は親権者にも『3年間の限定活動と卒業後のキャリア支援』をパッケージにして同意を取る。これならコンプライアンス上も問題ないし、親御さんも安心して預けられるだろ?」
「そうですが……。そんな上手く行きますかね……?」
川口は逡巡した表情を見せる。
「上手く行かせるのが君の仕事でしょ?」
「そうですが……。」
「次の打ち合わせにはAuraXの社長も参加することになって詰めの話になるからそれまでに上層部に話しておいてね。」
その一週間後、本社に神谷は現れた。
神谷はいつもの会議室でAuraXの社長や役員、そして、新アイドルプロジェクトを任せられている川口と向かい合った。
開口一番、発言したのはAuraXの役員だ。
「神谷さん、アイデアは川口から聞いています。リーガルチェックの結果も法令をクリアする手段も聞いていますが、世論がどう考えるかですよ。」
「また、世論ですか……。聞き飽きましたね。」
「しかし、お客様は世の中の一般の方々になるのですから世論の反応は重要です。」
「そうですがね。世論の賛否両論が巻き起こらないプロジェクトなんて皆無です。そんなグループ、人気が取れるわけがない。第一、僕の手掛けたAYB32や常盤川36だって最初は賛否両論の渦が大きかったですよ。」
「そう言われましても……。」
役員は黙り込んでしまった。
「AYB32が行った選抜総選挙を覚えていますか?あれなんて最初、始めた頃は反対意見ばかりでしたよ。でも、結果、地上波のテレビで生中継して高視聴率を毎年取る国民的行事になった。そういうものですよ。常盤川36だって―――――。」
神谷はとうとうとこれまで手掛けてきたプロジェクトが初めは如何に反対意見が多くて、その後、いかに世論の関心を向けられたかを説明した。
黙っていたAuraXの社長が遂に口を開いた。
「じゃあ、神谷さんのアイデアで進めればいい。その代わり、何かあったら矢面に立ってもらうよ?いい?」
神谷は言った。
「はい。勿論、そのつもりです。」
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