03 赤い瞳
全員の意識が鉄塔に向けられ、僅かに隙ができた。
街道脇の草むらがガサリ、と音を立てた。
護衛の一人に向かって黒い影が飛びかかった。
成人男性と同じくらいの大きさの四つ足の害獣が一頭だ。
護衛たちはすぐさま各々が役割を果たそうと動き出す。
レイラもホルスターから銃を取り出し、グリップを握った。
『安全装置を外して下さい』
「わっ! 喋った!」
レイラは興奮した。喜んでいる場合ではないのだが。
安全装置はどこなのかと銃と会話している間にも、護衛たちは害獣と交戦している。
「ええと、これかな?」
『そうです。次は⋯⋯』
モタモタと手順を踏んで、いざ構えたその時。
上空から一本の光が害獣を貫いた。
「えっ。あの人が?」
レイラは鉄塔を見上げた。
キラキラと光る長い髪が、マグノリア星の衛星に照らされていた。
華奢な女性のシルエット。
手にはハンドガンが握られている。
「レーザー銃です。間違いありません」
キャビンの中の護衛が言った。
「『科学』の誰かなのかしら?」
「そんな話は聞いておりません」
「一体誰なの?」
レイラは護衛の制止も聞かず、勢いよく馬車を降りた。
鉄塔を見上げ、女性に声をかけた。
「どなたですか? ありがとうございます!」
女性は髪を靡かせながら、ふわりと地上へ降りた。
衛星の仄かな光に浮かぶ、真白の髪と真紅の瞳。
レイラの方を見ているが、目を伏せ唇を軽く開くも一言も話さない。
「わっ、私は『科学』のウェリタス男爵の娘、レイラ・ゴルバニです! どうぞ、お見知りおきを!」
この場面で合っているのかわからないが、とりあえず自己紹介をしたレイラ。
女性は思う所があるらしく、ポケットから何やら取り出し、レイラに見せた。
星船時代のポケット端末だ。
画面に文字が流れた。
【私は話せません。この端末でお答えします】
レイラは女性を見上げ、にっこりと微笑んだ。
端末を操作せずに文字が流れていくのは不思議だが、ひとまず会話が出来そうで安心した。
【私は大神殿関係者です。『科学』の方ならば、お話ししてもよろしいかと判断いたしました】
「お嬢様、大神殿の方でしたら説明がつく気がします。我らと同じ、科学の徒です」
護衛の一人が口をはさんだ。
「そうなのね。ええと、何をなさっていたのかお聞きしてよろしいですか?」
【鉄塔に電波を送受信する機器を取り付けておりました。恒星からの光を受けて電気を発生させる物と一緒に】
「やっぱりそうなのね! あのパラボラと! ソーラーパネル! 知っているわ!」
レイラは今にも踊りだしそうなはしゃぎぶりだ。
「でも、どうして?」
【ワクチン開発のための調査に赴いた際に各所に設置しました。こちらの方面にも設置すべきかと思われましたので】
レイラは納得するが、何故秘密裏に行っていたのかが理解できなかった。
「……科学を捨てるという選択のせい、なのでしょうか」
護衛の一人が呟いた。
それを聞いた神殿関係者の女性は表情も変えず、頷いた。
【この装置はあくまでも大神殿のためのものです。今回のように王都から離れた場所で災害が起きた場合に、リアルタイムでの通信を可能にするためです】
さわさわと風が吹き、衛星の光が雲で遮られた。
まるで『科学』の未来を示しているようで、その場の全員の顔が苦渋に満ちる。
「落ち込んでいても仕方ないわ! 私たちはいつか来る日の為に科学の火を灯し続けましょう! ね?」
レイラが大きく両手を振って護衛達を励ました。
「申し訳ございません。お嬢様。その通りですね」
力ない笑みを浮かべ護衛が頭を下げた。
「秘密のお仕事なのでしたら、私達もあまり追いかけ回さない方がいいわね? うん、いい事思いついたわ! みんなも内緒にしてね」
レイラが口元に人差し指を立てて、全員に視線を送った。




