02 自由奔放
「お父様! 私、吸血鬼が見たいです!」
家に帰るなり大声で宣言するレイラ。
「んんっ。落ち着きなさい。まずは一から説明しなさい」
ウェリタス男爵 コーロシュ・ゴルバニは娘の突拍子もない言葉にぽかんと口を開けた。
レイラは領主館で聞いた噂話を事細かに身振り手振りを添えて父に話した。
吸血鬼!
赤い瞳の女性!
害獣を袋に詰めて持ち去る!
レイラにとってワクワクが止まらない話だった。
コーロシュは頭を抱える。
一度興味を持ったら、解決するまで梃子でも動かない娘。
とんでもない話に食いついてしまった。
以前関数の例題に夢中になって、三日も部屋から出てこない事があった。
ちら、と娘を眺めコーロシュは大きくため息をつく。
「護衛を何人か用意しよう。お前は無茶をしてはいかんぞ。ああ。そうだ。いいものがある。居間で待っていなさい」
レイラに言いつけ、奥の部屋へと足を向けた。
「このハンドガンを持っていきなさい」
少女でも扱える反動の少ない、小さなレーザーのハンドガン。
「私でも扱えるのですか?」
ホルスターに収められた銃を手渡され、矯めつ眇めつグルグルと回す。
「ああ。どうしようもない時に使いなさい。⋯⋯ちょっと煩いかもしれないが、使い方を教えてくれるだろう」
「煩い?」
首を傾げ、コーロシュを見る。
「しゃべる。そういう仕様になってる。お祖父様が酔狂で作ってね。しゃべった方が楽しいだろうって」
「面白いですね! 夕飯が済んだらさっそく行ってきます!」
ふんふん、と鼻息荒いレイラ。
父の心配など全く意に介さない。
コーロシュは部屋に戻るレイラの背を見送り、ひとりごちる。
「ああいうのはもう作る事はないだろうからな。レイラに後で設計図も渡そう。⋯⋯『科学』は先がないのだし」
マグノリア王国は科学を捨てて、自然に生きる道を選んだ。
最低限の科学。
それだけを持続させればいいだけの存在。
レーザーの銃など、これから先はもう必要なくなるだろう。
それならば、興味のある子供にだけ伝えておけばいい。
コーロシュはこれからの『科学』と、子孫たちの未来に絶望していた。
食事を済ませたレイラはクローゼットからお気に入りの服を取り出した。
星船時代のジャンプスーツだ。
伸縮性があって身動きがとりやすく、耐久性もある。
下地に耐衝撃素材も張ってある。
急いで着替えると、髪を纏めハンドガンを腰につけた。
「行くわよ!」
勇ましく声を上げ、噂のあった中央街から馬車を走らせ南下した。
噂では北から中央街を通り過ぎ、街道沿いを南下しているらしい。
今夜会えなくても、痕跡が残ってさえすればいい。
護衛は四人。
馬車の前方と後方に一人ずつ。
御者台に一人。キャビンの中に一人。
『科学』が未来へと繋ぐべき装備を纏い、レイラを護っている。
いつの日か科学の徒の復権が果たされると信じて。
街道を南下する事、二刻。
中央街からはだいぶ離れ、次の街までは二日はかかるだろうという場所。
整備も途中の悪路だ。
キャビンの中はお世辞にも快適とは言い難かったが、レイラは全く気にしていなかった。
何もかもが楽しい。
しばらく進むと、暗がりに荷馬車が姿を現した。
街道沿いに建てられた、距離を示す鉄塔の真下だ。
荷馬車には小さな明かりが灯り、誰かがいるように見えた。
大人の腕の長さ程のプレートと、お椀型の何かを持って動いている。
背に括り付けると、その人物はやおら鉄塔に登り始めた。
レイラとその一行は声をかけるのも忘れ、ただその様子を見ていた。
彼らは『科学』の徒だ。
その人物がしようとしている事が何となく分かった。
「でも、何故?」
レイラの口から零れ落ちた。




