01 レイラ
「吸血鬼が出たそうですわ」
『科学』部門主家の領主館の一室。
大きな毛織物の絨毯に五人の令嬢が車座になって茶会に興じていた。
その中心に座すのはアルジャブラ伯爵令嬢アータッサ・アブドラ。
友人たちに声を潜めて言った。
「吸血鬼? って、地球にいた頃のオカルトではないのですか?」
アータッサの真向かいに座るウェリタス男爵令嬢レイラ・ゴルバニが焼き菓子を口にする手をとめて聞いた。
五人の中では一番年下の十一歳。
幼い仕草と、大きな黒い瞳と巻き毛が可愛らしい。
「よくご存知ね。わたくしはお祖父様からお話を聞きましたの」
いまだ星船の記憶が微かに残る時代。
アータッサの祖父は『科学』主家の二代目、ウマル・アブドラだ。
アータッサとレイラ以外の令嬢は口を揃えて知らないという。
わざわざ聞かなければ親たちも話すものでもない話題だ。
「何でも人の血を啜るんですって!」
レイラは興奮気味に知識を披露した。
「いやあああ」
三人の令嬢が声を上げた。
「お静かになさって。このところ美しい銀の髪の女性が、夜な夜な彷徨っているらしいですわ」
アータッサは主家の令嬢らしく窘め、祖父から聞いた不思議な話をした。
「まあ、不用心ですわね。治安は悪くありませんけど、いつ害獣が来るかわかりませんのに」
アータッサの右隣に座る令嬢が眉を顰める。
「ええ、でも、そんな害獣を簡単に仕留めて、袋に詰めているのを見たのですって」
「凄いですわ」
「その時に、その女性の目が赤く光って恐ろしかったとか。あまりの恐ろしさに見ていた方は走って逃げたそうですわ」
「目が赤いなんて怖いわ」
令嬢たちは手を握り合い、身を震わせた。
「それを聞いたお祖父様が、きっと吸血鬼に違いないっておっしゃったの」
「アータッサ様の曽祖父様ならご存知でしたかもしれませんね」
レイラはアータッサの左隣の令嬢の発言に、興味津々な視線をアータッサにおくりつつ、焼き菓子を次々と口に運ぶ。
『科学』部門の始祖、マフムード・アブドラ。
彼はすでに神の御許へ旅立って久しい。
地球から移住して、すでに百年余り。
マグノリア王家は現在七代目。
つい先だってまで流行り病が王国に災禍をもたらしていた。
四代から六代までの国王が流行り病で早世したが、大神殿で開発された薬によってやっと終息したばかりだ。
ようやく訪れた平穏。
そんな時に湧き上がった不思議な噂。
「⋯⋯私、見てみたいわ!」
レイラが立ち上がった。
その拍子に膝の上に落ちた焼き菓子の粉が舞う。
令嬢たちが慌てて車座の中央に置かれた菓子を手のひらで覆った。
「ゴホッ。いやだわ、レイラ様。危ないですわ」
アータッサは粉にむせながら、レイラに手を伸ばした。
「大丈夫! 護衛も連れて行きます!」
ぐっと拳を握り、満面の笑顔をアータッサに向けた。
「あなたは引き留めても、余計に燃える方ですからね。⋯⋯気をつけてくださいましね」
「もちろんです! アータッサ様、お気遣いありがとうございます!」




