04 ミレニアム
「アータッサ様! 吸血鬼は本当にいましたわ!」
再びアータッサのもとに集った令嬢たちの真ん中でレイラは宣言した。
「この喋る銃と一緒に行ってきましたの!」
『使用しない場合は安全装置を確認の上、ホルスターに収めてください』
「まあ! 本当に話すのね。面白いですけれど、危ないですわ。護衛の方に渡した方がよろしくてよ」
武器にも動じないのは、さすが『科学』主家の令嬢アータッサと言うべきか。
「本当に銀の髪に赤い目でした! すごい力で害獣を薙ぎ倒してました。下手に近づかない方がいいと思います!」
怖かったー。と騒ぎ立てるレイラ。
少し棒読みだ。
アータッサはチラリ、とレイラの護衛に目を向けた。
護衛の何も言わない様子を見て、何となく違和感を覚えた。
しかし、この場はそのまま収めた方が良いだろうと結論付けた。
「レイラ様。焼き菓子はいかが?」
「はい! いただきます!」
躊躇なく手を伸ばすレイラ。
アータッサに黙らされている事に気づいていない。
「街道のどのあたりでしたの?」
アータッサはレイラの護衛に声を掛けた。
「随分と中央街から南下しておりました。痕跡を見るに、このままずっと離れていくのではないでしょうか」
「噂と同じですのね。その先は『商務』まで殆ど街もありませんわ。放っておいても大丈夫でしょう」
レイラはハッとして、アータッサと護衛を矢継ぎ早に見た。
忙しなく瞬きし、おや? と首を傾げる。
そんな様子にアータッサが気付き、
「このお話はもうお終いにしましょう。わたくしからお祖父様にお知らせいたしますわ。ね? レイラ様」
にっこりと微笑んだ。
「⋯⋯はい!」
「皆様も忘れてしまいましょうね。くれぐれも探したりしてはいけませんよ?」
コクコクと頷く令嬢たち。
アータッサに言われるまでもなく探す気などないのだが。
茶会はお開きとなり、アータッサはレイラだけ残して祖父のウマル・アブドラのもとへと向かった。
レイラは主家への報告は怠らないつもりでいたので、すべて包み隠さず話した。
「なるほど。大神殿が、ね。我らに枷が無ければ、やらねばならん事なのだが」
ウマルはスパイスと共に煮出したコーヒーを、ゆっくりと口にしながら目を伏せた。
「王も元老院も、科学を捨てる事しか考えておらん。開拓には必要だというのに。大神殿が我らに声を掛けないという事は、愚直にその決まりを守っている、という事なのだろう。我らは我らで、無くさないように続けていくしか無かろうよ」
大神殿と『科学』は今となっては、ほぼ袂を分かっているといってもいい状態だ。
取り決めで発電所の整備に一年に一度出向くのがせいぜいだ。
星船から持ち出した機器は『科学』だけでメンテナンスをしている。
すでに地球との交流もない今では、最新の設備を手に入れる事など出来ない。
自分たちでの開発は許されず、ただ現状を維持するのみだ。
何のために存在する部門なのか。
『科学』の徒に先があるのか、まったく見えなかった。
「ちゃんと引き継ぎますわ。そうですわよね、レイラ様」
「もちろんです!」
少女たちの笑顔にウマルは少しだけ気が晴れた。
いつか来るその日まで。
その思いは、千年の時を経てようやく解放される。
「吸血鬼」というお題の消化としては、ちょっと物足りないかもしれません。
平にご容赦を。
『偽りの始まりはどこからなのか』02 人形だって探検したいとリンクしております。
科学を捨てるというのは、『科学』部門はさぞかし絶望したろうな、と。
生みだしたい、生みだせない、どちらも苦しい事だと思います。




