02 思惟
「星を買うんだ」
彼は大して飲めもしない酒を掲げて言った。
惑星移住が珍しくもないとはいえ、自分で買う⋯⋯?
どれだけの大金が必要なんだ?
「お前も来るだろぉ?」
いつの間にか変な話し方をするようになった。
名前もシャハル・ドーンと名乗るようになった。
元々上品ではなかったが、どんどん下卑た笑いをするようになっていった。
僕は彼のために服を作った。
美しい彼をより一層美しく見せる服を。
もっと彼に魅了される人を増やさなければ。
⋯⋯彼の資金繰りのために。
何枚もデザイン画を見せた。
「襟が気に入らないねえ。首は開いていたほうがいい」
何度も言ってるだろぉ? そう言って鼻で笑った。
「⋯⋯どうして? フォーマルには向かないよ?」
「何でかな、嫌なんだよぉ。首が締まるみたいでさぁ」
首に手を当てて彼は言った。
ああ、そうか。
彼は覚えていないんだ。
彼の母から僕は聞いてしまった。
──でも、言えるわけがない。
星船を、惑星を。
彼はとうとう手に入れた。
ステファンと喜び合う彼。
金の髪が、暁色の瞳が、輝いた。
沢山の信奉者たちに囲まれて。
星船は頓挫した計画の払い下げ品だった。
彼は金を惜しまず粗を探しては補完していった。
そんな時だ。
彼の興味を引く男が現れたのは。
なんてことはない、ただの東洋人だ。
ハルト・カツラギ。
黒い髪に、黒い瞳。
甘めの顔の彼とは違って、怜悧な顔。
彼とはまるで正反対な風貌。
地球の暮らしを知らない宇宙育ちの彼には珍しかったんだろう。
変に気に入って、手に入れた。
彼を盲目的に愛する、ルシア・ロペスを使って。
いつも彼のそばで心酔するかのような目を向ける女。
ルシアは毒だ。
僕にはわかる。
でも、彼は一切気にしなかった。
違うな。気にしなかったんじゃない。
意識にも上っていない。
ただのコマ。情報のひとつ。
星船は惑星へと飛び立った。
日々彼は乗組員たちを見て回った。
彼は手に入れてしまうと、熱が冷める。
星船にハルトがいる、というだけで満足した。
冷めた熱は、違うものでまた上昇した。
一人の変わったギフトを持つ女の子と出会ってしまった。
ソフィア・ルース。
未来予知。
ほんの少し先を、ちょっとだけ視られる。
曖昧なギフト。
僕からすれば実にくだらない。
でも、彼にはとても面白く映ったようだった。
本当はね、違うのを僕は知ってる。
金の髪、暁色の瞳。
彼と、⋯⋯彼の母と同じ。
──思い出せないんだね、ジェームズ。
星船は惑星に降りた。
みな興奮している。
船での退屈な日々からの解放。
それぞれが一時、彼から意識が離れた。
彼はまだソフィアに夢中だ。
彼を拒んで身を投げたソフィア。
治療のかいあって、無事生還した。
少し印象が違う。
瞳か?
それに、やけに物静かだ。
二年間医療室にいた間に何があったのか。
常に彼の側にいる。
寝室の中にまで。
何かがおかしい。




